表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つばめと学ぶ異世界生活事情  作者: とりあえずごはん(・ω・)
第六章 グールVSエデン連合軍編
478/499

396話



 掃除員が床を綺麗にした後に退出すると、私は咳払いをして皇后に話をする。



「しかし、貴方は神聖帝国の皇后だ。秘密裏に移住手続きを済ませるのは至難の技だと思う。大地神教者をあまり好ましく思ってないコンスタンティン様を説得するのが鍵です」



「神様が大地神教者を好ましく思っておっしゃらないのですか???」



「そうです。煙たがられてるので……。大地神教者でも神聖帝国の皇后でもない、国の事を抜きにして貴方自身の本当の願いを真摯にコンスタンティン様に言ってみて下さい。忠告します。苦痛少なく生きたいなら国の事を一旦忘れて、頭空っぽにして自身を(さら)け出して下さい。謀略、策略は禁止です。思った事をそのまま素直に願い出て下さい。欲を出しては駄目です。お返事は?」



「はい………」



 時が来たら迎えに行くと言って、それまでは神聖帝国に尽くして欲しいとお願いした。



「急ぎますので、失礼します。今は身体を休めて下さい。その内戦場に出します」



「わかりました。備えます」



 病室を出ると看護師に引き止められて、投薬用の注射器を手渡された。会計窓口に行って支払いを済ませてから、病院を後にする。



 番抑制剤の薬って個人配合だから時間かかるもんなんだが……私が眠ってる間に色々調べられて作ってあったんだろうな。用意周到過ぎる。



「狐の御人、後は大丈夫です。ありがとうございました。その内チャットでお世話になります」



「程々にして下さい」



「先に謝っておきます」




 さて、私は先を急ぐか。部分獣化のために靴と靴下を脱いで、ズボンを(まく)し上げる。こうか?



「おー……ちょっと嬉しい」



 モフっとした毛が生えたが、これはオフクロの血の獣人族狼種のだな。憧れの獣化。私は身体も小さくて、子どもの頃もずっと人型だったから。兄弟姉妹が獣化してるの(うらや)ましかった覚えがある。


 今では妹しかもう残ってない私の兄弟姉妹達。軍人の家系って何処もそんなもんだ。


 叔母に当たるヴァニア大陸ダンジョン攻略担当してた元上官も、すでに亡くなったみたいだ。これで、水島家の血筋の最高齢はオヤジになったな。

 空を飛んで、温泉掘り当てて、更にはよく分からない………………アイスドラゴンが霊山(ふもと)に居るのか? そっとしとこう。


 あれ? ジョゼフィーヌって……やめよう。アレはちょっと特殊で好奇心旺盛なワイバーンって事にしとこうな。


 いやいや、待てよ? オヤジまさかドラゴン乗り回してるのか??? おぉ、衝撃の事実が。私の胸の内だけに秘めておこうな。皆んなの平穏のために。



 作戦司令本部の講堂に入ると、中は慌てふためいていた。私はオヤジに手紙配達を任せて、教壇(きょうだん)付近の書類数枚にサインする。これでよし。





「大輔第1隊長がお休みの間、水島第1副隊長の私が代わって総指揮代理を務める。キン、補佐しろ。『悪魔』がエデンに接近している。気を引き締めるように。では始めに……フォーゼライド国に送っている酒を贅沢品に分類。輸送中を除き酒の支援物資を全面停止」



 私の言葉にマティアス様の顔色が変わった。



「酒は軍が安値で買ってやる。誰か走って商人に伝えろ。港にも変更の羽馬の伝令を今すぐ飛ばせ。指令書は今書いたのを関係各所にコピーで構わん。それと、マティアス様には単騎でお帰り願おう。何故帰らされるかは、胸の内に聞いて欲しい。次にコチラに来る時は竜騎士団を大勢連れて来てくれる事を願います。半端な数を寄越したら、酒の販売を今後一切しません。酒はコチラから運ばないし、取りに来ないと一滴も渡さないとお偉い方々にお伝え下さい。さて、立て込んでるんで次に────」



 フォーゼライド国、支援物資で送った酒を浴びるほど飲んで酒盛りしてるんだぜ。


 ゴブリンも少なく、グールもそんなに今は湧いてないみたいだが、いかんせん伝令役がフォーゼライド国の竜騎士なんで、他の国は確認出来てない。フォーゼライド国の報告を鵜呑(うの)みにするしかない状態だ。

 神聖帝国の子飼いしかいない大輔では、この状況に疑問を持っても調べる人員がいなかったんだろう。


 商人はもちろんグルだ。賄賂(ワイロ)をたらふく(もら)って口止めされてるだろうから、ガッポリ(もう)かったはず。

 酒はこれから先の在庫処分のために軍が渋々買うから心配しないで欲しい。輸送も各城壁内なんで原価ギリギリで購入するな。大量に売る先がなくなったから、商人は値下がりした酒を売るしかない。

 後で高値でフォーゼライド国に売ろう。フォーゼライド国以外の軍事費の足しにする。


 私服を()やした商人とフォーゼライド国に下した罰はこれで手内にしようと思う。

 後ろめたい者が声を上げては、痛い腹をさらに裂かれるのは目に見えてるから文句も言えない。



「カール様に出頭命令。羽馬鳥で迎えに行くように。今後の流れを大まかに説明する。ビデオカメラを準備して撮影……議事録を書面に残すのは後回しだ。エデンの地図をスクリーンに映し出す準備を。誰か早くマティアス様を摘み出せ。作戦会議の邪魔だ。フォーゼライド国の伝令。総出で私の書いた紙束を各地に届けろ。全て届け終わるまで酒を飲む事は許さん。援軍の交代要員が来るまで寝る間を惜しんで飛べばいい」




 コチラに向かって来ようとしたマティアス様は、私の部下の1人に担がれて講堂から出された。

 次々書いた指令書や指示内容が細かく記載された束は、キンを中心に部下達が分けて筒に入れて書簡にして行く。転写式の物やコピーが必要な物もあるからな。



「何を突っ立ってる。早く届けに行け。それとも使い物にならないから飛竜の餌にされたいのか? 魔力豊富で酒の効いた肉ならワイバーンも喜んで食べるだろう。きっと食した後はご機嫌で早く飛んでくれるな」




「「「「ひぃぃぃぃぃっ!!」」」」



 書簡を持って部屋を出て行った者達はきっと早く飛んでくれるな。

 まだ書き上がってないのを並んで待ってる竜騎士は物凄く顔色が悪い。



「今書簡手にしたヤツ。頭の中で2番目に考えたルートで、ついでにメモに書いた食料も詰めるだけ届けに行け。次の者は大回りで2つ届けろ。その次は──」



「ズームォ様、ブーツを()かせますから脚を出して下さい」



「後5分待て。それまでは髪を束ねて欲しい。書くのに少し(わずら)わしい」



「かしこまりました」



 猛スピードで色々書きながら、前より何か文字を書く速度が上がったと思いながら……これもしかして、考えてる文字を転写出来るかな? ボールペンのインクをこうして、文字を思い浮かべて。やっぱり出来た。早い早い。


 おぉ、少し未来が明るい結果になったな。よしよし。そしたら、指示ももっと細かくしよう。


 飛竜の伝令が居なくなったら次は羽馬だ。

 しかし、数はそんなには出せない。


 何せ今もなお、グール討伐でかなりの数の羽馬が導入されてるからな。

 


 一歩城壁を出れば、今もどこかで戦いが繰り広げられている。

 何より、飛ぶゴブリンの数が多すぎて羽馬がかなりの数やられてる。群れて移動しないと危ない。

 ゴブリンはもう飛んでるのしかいないが、地上にはグールがいる。

 



 見知った顔が減った講堂で、私はひたすら紙に文字を転写した。


 午後から雨だ。飛ぶゴブリンが減る雨の日ほど伝令を飛ばさなければ。



 私は羽馬で群れて移動する予定の者の肩をそっと叩いた。



「すまん、足を切って血を流して(おとり)になれ。羽馬は仲間に任せろ。どうしても今日この場所に、この時間で飛ばさなければならない。地面に落ちるその時まで、ゴブリンの数を1匹でも減らせ。確実に仕留めるんだ」



「了解であります! 水島教官の元で働けて幸せでした。ご武運を。行って参ります」




 かつて私が教官として(きた)えた後輩は「神聖帝国のクソ隊長の命令で死ぬの真っ平ごめんだった。良かった今までネバって」と心の中で思いながら、満面の笑みで死地に向かって飛び立って行った。




 大輔お前何人かにかなり嫌われてるな。仕方ないか。

 私はもっと嫌われてる人数多いから大丈夫。「今更何しに来たこの老害」とか「誰だこの人?」みたいな雰囲気(かも)し出してる若いのが、私的にちょっとショック。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ