393話
寿命問題が解決して、私は何かよく分からない部屋で眼帯を選んでいる。
てか、あそこに『聖剣エクスカリバー』ってのがゴロゴロ転がってるんだが、ハイルング国アーサー王太子が所持していた剣に似ているのは気のせい? 武器コーナーらしきところが怖くて近づけない。
極悪罠ダンジョン同様台座に刺さった状態のもあるし。あの黒い剣とか何製なんだ……検討もつかない。あ、ダンジョン産と言わず色んな槍がある。ちょっとそこだけ見たいかも。
武器防具類他に玉座とか色々置いてあるけど、服も沢山。後は魔石とか積み上がってるし、宝石紛れてるな。
金貨も山積みで、樽からはみ出てる。ゴテゴテな宝箱もあるな。
魔物素材も所狭しと並んでいるけど、あの木の枝は何だ? 考えたら怖いからやめようドラゴンの剥製が可愛く見えるレベルだ。
「物騒な部屋に何で眼帯がこんなに……」
「自称不治の病? 定期的に再発するアホがいてね。ソレの金庫に仕舞ってあったのが土地代の滞納者で私の所に流れてきてる。あの馬鹿の保証人なんてなるんじゃなかった」
不穏な空気を感じとってすかさず魔道具を左目にねじ込む。『アホ』って……サミュエル・カミュ。ユリエル、じーちゃん生きてるってよ。これから生まれるかは謎。
「シンプルな物ばかりで迷いますね。同じ物がいくつもある」
「私にとってはゴミ同然で不必要な物だから、全部持って行ってもいいよ?」
「いえ、2個あれば充分です。予備にひとついただきます」
私は不要かそうでないのか悩んでいるコンスタンティン様の思考をシャットアウトして、黒い眼帯を選んだ。
コレが1番動きを阻害しそうにないし、長時間付けてても苦にならなそうだ。防水耐熱色々性能も良さそう。何より軽いのがいい。付けてるのを忘れそうだな。
「似合うね」
「ありがとうございます。コンスタンティン様も似合いそうですが。キンに付けたら凄みが増しそうだ」
眼帯が似合う似合わないとかよくは分からないが、話は合わせておいた。
「キン顔怖いから、歴戦の戦士みたいな仕上がりになるね。それじゃ出ようか?」
「不躾なお願いで申し訳ないが、槍を見ても良いでしょうか?」
なぜかびっくりしてるコンスタンティン様。駄目か?
「君って価値ある物に興味ないのかと思ったけど? 物欲なさそうだし」
「軍人ですからね。職業柄武器はやはり興味ありますよ。槍使いなんです。弓は得意ですが、やはり槍の方が好みだ」
「好きなだけ見ていいよ? キンには食事時に声かけてくれって言ってあるから」
「お手数おかけします」
私が槍の方に向かうとコンスタンティン様がついてきた。順番に眺めて、触れる許可をいただくと1本を手にする。
「美しい……」
「武器を見て最初の感想がソレ? 予想外だよ。何て言うか……失礼かもしれないけど、君の口から『美しい』って言葉が出るのが変な感じ。何でその槍が綺麗だと思ったの?」
「無駄がない。こんな槍が存在するのか。ユリエルの持っていた特級の槍も凄いと思いましたが、これは別格だ。専門の武器職人に見せたら泣いて喜びそうです」
「コッチは?」
「それもいいですね。ほー……凄い。同じ作り手ですか? あぁ、多分コレもか。凄すぎて目が飛び出そうです。おー……」
コンスタンティン様がわざわざ同じ製作者の槍を選んで並べてくれた。ありがとうございます。
「食いつきが良すぎて予想外だよ?」
「すいません、あんまりにも良い槍で。付加武器でもないのに素材を完璧に使いこなす手腕が見事だ。製作者はどなたですか? 一本製作依頼を出してみたい」
「残念ながら、もう生きてないね……この槍どう思う?」
いつもの様にどこからか出した新たな槍を前に私は空いた口が塞がらなかった。
「これは付加の……あ…………」
「どうしたの?」
「これはもしかして、付加の魔法陣を刻んだのはハイルング国の橋の製作者と同じですか?」
「何でそう思ったの?」
「……何と言っていいか。完璧すぎる? 美しいなとパッと見て感じました。一切の無駄がない」
「ふふっ……あはははっ! なるほど『完璧すぎる』か? 君の感性は的を得てるよ。この槍も魔石部分も『ギフト』を所持した者が作った物だ。製作者は槍と魔石部分は別々の人が作ったけどね。じゃあ、コッチの2本は?」
「…………??????? 何ですかこれは?」
「ダンジョン産の同じ等級の素材で作った2対の槍だよ」
「ダンジョン産の槍ではなくて、人の手で作った槍って事ですか?」
「そうだよ?」
色んな方向から見て、細部もくまなく見てみる。どう見ても全く同じ槍にしか見えない。ダンジョン産の武器に必ず付いている『ゲージ』と呼ばれる、耐久値を目で見て確認出来るのもついてない。
ダンジョンの武器は同じ物がドロップする仕組みだ。全く一緒のコピー品みたいな…………この槍もそう感じ取れるんだがな?
「人の作り出した物だとは、到底思えません……」
「ちなみに、橋と最初に渡した槍の魔石部分に魔法陣刻んだのは別人かな?」
「俄には信じられませんが。あの橋はサミュエル・カミュが作ったのでは?」
「あのアホみたいな奴に似たのが『こんな感じにしたら』って助言はしてたかな?」
サミュエル・カミュ以外にあんなのに似てるのがいるとか恐怖だな。
ユリエルが橋の解除で苦労したのは、邪魔されながらも無駄のない完璧な魔法陣をどうにかして、どこかしら手を加えなければならないのに苦労したんだと思う。
罠自体が術式に組み込まれてたんで、その罠を何に置き換えてどこを書き直しやら上書きするやらで、橋を崩落させずに保つかが鍵となる。
新たに橋をかければいいのだが、長い長いロープを張ってみたら橋から攻撃魔道具らしき物が出て来て、焼かれたと報告あったな。
橋の横は危険なんで、橋上空しか羽馬も飛ばせない。
「別人が何でこんな最高の武器を……いや、そもそも癖自体がないのか?」
「そうだね?」
「コンスタンティン様『ギフト』って何ですか?」
「女神の代理が人の身には余る力を授けたってところかな?」
「…………」
私は、槍に釣られてとんでもない話をもしかしたらコンスタンティン様から聞いてるのかも知れない。
「何でそんな……何で私にその話を?」
「君は『死神』に目をつけられてるから、話した方がいいかなって? 何も知らずにいるよりは、知ってた方が後々楽だよ?」
「……本当にそうならいいんですけど。コンスタンティン様は嘘つきですから」
「ふふっ、確かに。誘導尋問みたいな事してごめんね? でも、君なら聞いてくれるかと思ったから話してるんだよ」
そうか。私がコンスタンティン様を理解し始めたように、この人も私と言う男を知り始めたのか。これは逃げられないな。
必ずいつかこの話の先を聞く時があるなら、別に今でもいいか。
私はコンスタンティン様に意識を向けて、話の続きを知る覚悟をしながら思考を読んでみる事にした。
(巻き込んですまん)
「出だしから、やっぱりコンスタンティン様の優しさを感じでるんですが」
「は? 気持ち悪い事言わないでよ? 私に優しさなんて求めないでね? 無慈悲で通してるんだよ?」
「はいはい。分かりましたよ自称無慈悲な神様」
(コイツ、サミュ並にウザイかも)
不名誉な事を思われながらも話の続きを促すと、コンスタンティン様は世界の真理の話を私にしてくれた。




