391話
「いつからそんななの?」
「徐々にとしか……はじめは祖母に引っ付いて庭先の野菜を育てたところから。植物の育成状況と空気の感じ方から天気を────」
コンスタンティン様は上機嫌だ。喋っている最中も思考は流れて来るが、何も話さないよりマシだな。
私は宝箱の罠を解除しながら、疑問に答えて行く。罠の解除方法も疑問らしくて、私の話と宝箱と話がポンポン飛ぶな。
たまに全く関係ない話も出て来るので、かなり口の方は忙しい。「勘です」って答えただけでは満足しないので、その時どう思って何を基準にしたのかなど逐一説明しないといけない。
「自分変わってるなと自覚したのは、軍に入隊してからですね。家も学校生活もあまり気にしてませんでしたら。こんなもんかって」
「具体的には?」
「はじめてのフィールド訓練で、ウルフ系の魔物を斬り殺さなければいけない時に」
『巣穴で子ども達がお腹を空かせているんです』
魔物から語りかけられたような感情を前に、どうしていいのか分からなくなって見動き取れなくなった。
元々城壁内の生き物も何となく感情らしきモノを感じとっていたが、魔物にも心と言うものがあるのかと思うと複雑な気持ちになったと。
「突っ立ってるだけの私に訓練途中で結局城壁内に戻されました。新兵の訓練ではよくあるらしくて、その後に集団カウンセリングみたいので『何で殺さなかった』って話になって……馬鹿正直に答えたら奇異の目で見られましたね。ははは」
「変な子だと思われたんだね?」
「多分、でもナロ元隊長はかなり親身になって私の話を聞いてくれました。そしたら、テイマーには稀に魔物と心を通わすようなのがいると。しかし、同時に軍人としての覚悟も叩きこまれたな」
もし、あのウルフ系の魔物を逃して生かして子が大きくなって、他の誰かを殺すかも知れないと言われたな。私の家族かも知れないし、知り合いかも知れないし、未来の大切な人かも知れないと。
「それからはその言葉を自分なりに一旦飲み込んで、方向性間違えて……かなり周りに迷惑な存在になりました」
明日雨だから、フィールド訓練出るのやめようとか色々上官に口答えして問題行動起こしたな。すいませんでした。
「毎回私がフィールド訓練出ると、傷だらけのボッコボコで帰って来るんでオフクロが毎度心配してました。何回もそんな事があった時に私の良き理解者である祖母が死にました。私は前にも増して、人が怪我しそうなら身代わりになり、危なそうなのはフィールドに出るなと過激になった」
親戚は何人か死んだ事あるし、軍に在籍していれば死と隣り合わせの毎日だ。大切な家族の祖母の死が引き金になり、人の命の尊さを身を持って持って体験した。
「そこからまた悪化したんでしょ?」
「そうです。人の身代わりで生死の境を何回も体験して、私は全てを救っている気がしていました。周りからしたらお節介だったんでしょう。とうとう同じ羽馬部隊のオヤジに怒られた。『ガキが粋がるな。死に急ぐな。迷惑だからヤメロ』と。私は反抗期真っ只中で毎日喧嘩してたな……実は本当は軍に入りたくなかった」
「え? そうなの? 天職みたいだけど?」
天職か。客観的に見たらそうなんだろうな。
しかし、自身の能力とやりたい事が必ずしも一致するとは限らない。私の場合は正にそれだ。
だが、天職ならもっといいものがある。
「いえ、きっと私の天職は『冒険者』ですよ。水島家は代々軍人の家系ですから。その当時は軍に入るのが当たり前で、冒険者と言う仕事もよく知らなかったので……しぶしぶ入隊しました。その反抗もある。本当は当時だと祖母のように野菜を育てて生きたかったんです」
「似合わないなぁー。その顔で野菜売りとか買取手いなさそうだね?」
段々とコンスタンティン様の物言いに遠慮がなくなって来たな。うん、良い事だ。気を使われるよりコレくらいの方が話しやすい。
「確かに私もそう思います。売るのもそうですが、育てられる野菜も可哀想かも知れません。ははは。コンスタンティン様は今は研究員ですが、将来の夢とかありましたか?」
「生まれた瞬間から夢も希望もなかったね?」
「生まれた瞬間からソレですか。色々気にしないのは生まれつきですか」
生まれた瞬間からか……気にはしてはいらっしゃらないが、普通ならさぞかし生きづらかっただろう。
言われてみればそうかも? と思考しているな。
「何で研究者になろうと思ったんですか?」
「キッカケは些細なモノかな? 昔、私に何で皆んな仲良く暮らさないの? 的な事を言ったのがいたんだ。そこから何でかな? って漠然と考えて、延長線上で『人類』を調べる事にしたんだ。種族がごちゃ混ぜの国なんて今どき珍しくないけど、当時では考えられなかったからね」
エデンは種族別の国だが、世界的に見ればヴァニア大陸とか結構混じっているな。
エルフ族はやはり単一で少ないが、エルフ族主体でとかは例はある。有名なSランクの冒険者もいるくらいだ。
エルフ族で最も有名なのは規格外S Sランクのサミュエル・カミュだが。
「何故一緒に暮らしてないのかを種族を調べるところからはじめたんですね。結局何で単一種族で暮らしてたんですか?」
「身体的には一緒の環境下で暮らしても問題ないってなったから『特に理由はない』って微妙な結果になったね。それから、私は歴史の方に手を出したかな? いつから別々に暮らしてるのかとか、そもそも昔からずっとこんな感じで暮らしてるのかとか、種族を遡って先祖を調べたり…………私の話なんか聞いて面白い?」
大丈夫、私の話をコンスタンティン様が聞きたいようにコンスタンティン様の話も私は聞きたいですよ。安心してください。宝箱まだまだいっぱいあるから、喋って喋ってと急かしてみた。
「そう? 最近私の話したい話聞いてくれるのもいなかったから偶にはいいか」
「多分コンスタンティン様の話と言うか、ニュアンスが少し違うような……」
神聖帝国とか神聖国? とかの話かな。確かに神様の話とか、ありがたい感じ的なの求められそう。今更コンスタンティン様の職業的なモノを聞くのもいないんだろうな。
職業も神様だと思われてそうな予感。そもそも『人』の区分にされてないんだろうな。
「色々ご苦労様です」
「よく分かんないけどありがとう? 君の話は後でゆっくり聞くね」
「はい」
「今の区分だと人族、ドワーフ族、エルフ族ってわかれてるけど遡って調べたらそもそも皆んな『人族』みたいなのしかいなかった。昔は獣人族は魔族と一緒だったし、今も蟲人族は種類が多すぎてどこに区別するかも進化が早すぎて仕分け中だね。虫なのか、魔物なのか、はたまた『人』寄りなのか魔族なのか。成長過程でコミュケーション取れるかも違って来るし、個体差が激しいからね。取りまとめてるのが『人』寄りだから一部蟲人族ってまとめさせてもらってるけど」
コンスタンティン様の話を要約すると、『人族』から派生したのが今上げた種族達らしい。
「いつから枝分かれしたのか調べたら、大昔は『魔石』が存在しなかったみたいだよ?」
コンスタンティン様が「大昔」なんて使うなんて、よっぽど前の事柄だろう。魔石がない時代とか考えられんな。
「…………不便そうですね」
「いや、そうでもないかな? ちゃんとした文明あったみたい。私が生まれた時代は魔道具の運用とかあまりしてなかったし」
「??? どうやって暮らしてたんですか?」
コンスタンティン様は掌を上にして、水の塊を出した……わーお。
「私の時代では魔法が当たり前に使われてたね。火をおこすのも、水を出すのも、結界もそうだ。魔道具に頼りきりの今では考えられないでしょ。魔石も魔力を入れるのにそのまま使ってた」
「昔は皆んな魔法使いだったんですか?」
「差はあるけどね? 全く使えない人もいたけど。今の魔力至上主義がもっと顕著だったね。それで、人族が枝分かれした話に戻るね?」
今の魔大陸付近の場所は遥か昔大国が存在し、研究施設が沢山存在していた。
そこのひとつの研究所データを調べたら、古い古い資料の一部からコンスタンティン様は見つけたいたらしい。
事の発端は、研究施設で飼育されている実験用のある1匹の『ネズミ』から始まった。
哺乳類と分類される動物から産まれたその『ネズミ』は、人類史上初観測の『動物』から『魔物』に代替わりした生命体。
「生まれたけど、普通のエサは碌に食べなくて共喰い? 普通の動物の肉を食べてたみたい。やや小型だけどかなり凶暴。結局は暴れまわって直ぐに死んだ。今のラット系魔物に近いかな?」
「……凄い嫌な予感するんですけど、気のせいですか?」
「あんまりこの先は気分のいい話じゃないかな? で、そのネズミ以外にも身体の小さな生き物から次々体内に魔石を持った魔物が生まれはじめた。多分、進化過程が早いのから影響受けたんだろうね」
昔は動物しかいなかったが、そこから次々に体内に魔石を持った魔物が生まれはじめ、世界は混乱期に入った。
それと同時に魔物駆除に開発される武器。混乱期に入ったと同時に文明も、生物全体も徐々に進化して行った。
「イタチごっこだよね? 元から魔法使いって一定数はいたんだ。魔物や魔物に触発された弱肉強食の自然界の脅威に対抗するために、そこから爆発的に魔法使いが増えた。人類の血統至上主義のはじまりだよ。兵器もだけど、魔法使いを増やした方が人類の進化が底上げさるからね。人は自分の体を自分でメンテナンス出来るし、長い目で見たら武器に頼るよりも人を増やした方がいいって結論付けたみたい」
何より自然界の進化が早すぎて、このままじゃいつか人類死滅するって世界中危機感を覚えたらしい。
「武器を作るのは専門の職人が必要ですが、人は繁殖で増えますからね。素材も限りがある」
「そこから、何故か人の寿命が飛躍的に伸びて行った。と、言うか進化に耐えられなかったのは死滅したと言った方が分かりやすいかな? 血中に小さな魔石にも満たない物質があるけど、結晶化に適応出来なかった人類もいたみたい」
ん? んん??? 何だ? 何か嫌な予感強まっんだが?
「そもそも、魔石がないとは……未だによく分からない状態なんですが? 急激に環境の変化??? すいません、私はあまり学がなくて……」
「自然発生じゃなくて、女神が悪戯したから魔石なんて出来ただけだよ? それで野生動物と魔物と────」
いきなり『女神』なんて単語出てきたんだが……質問したいけど、とりあえずはコンスタンティン様の話の続きを聞こうかな?




