390話
「食い過ぎかな……」
「いえ、起き抜けですからもっと食べて下さい」
「これじゃ若い頃より大食らいだな」
私が起きたらキンは料理中で、それでも私の世話をしようとしていたので断ってから顔を洗いに行って、洗面所で自分の顔見て驚愕した。
「どう?」
「……色は元のにしたいが」
「あんな死んだ魚みたいな目の色でいいの? 取り出さないといけないからもう少し待って。次の調整時に色も変えてあげるよ」
鏡を見たら20代の私が左目の瞳だけ紫色にやたらキラキラ輝かせていた。ちょっとコレはないだろう。
もぐもぐと朝から山積みの肉を頬張る。コンスタンティン様の質問に答えながら、私は食うに徹していた。
「まだ怒ってるの?」
「怒ってないが、寝ている隙に色々されるくらいなら許可くらい聞いて欲しかった。元の年齢に戻して下さい。これじゃ、悪目立ちする」
「いいよ? はい、出来たよ」
「ありがとうございます……もぐもぐ」
肉片手に反対の空いてる手を頬に当ててみたが……うん、このハリのなさは元の年齢だな。髪も伸びてるが、一体私はどれくらい寝てたんだ? 聞くのがこわいな。
爪は綺麗に手入れされてたんで、多分キン辺りが切ってくれたんだな。
脚は元のだが、内臓とか大丈夫か? 朔夜殿に抜き取られてないかな? 凄く心配。
「コンスタンティン様、心の声がダダ漏れだ。うるさくて仕方がない」
「私と同調でもおきてるのかな? 不思議な現象だね」
「……目の切り替えとやらで見え方は何とか出来そうだが、頼むからどうにかして欲しい」
「頑張って制御してみて? 理論上は可能だから」
私の目は、コンスタンティン様から取れた? 生まれた? 作られた? よく分からないが、コンスタンティン様から得られた魔石に魔法陣を刻んで、私の能力やらその他諸々を補助する役割りがあるらしい。
義眼だが、全て純魔石製のとんでもない代物だと思う。
この大きさで多分純度も超高品質なんてお値段幾らか考えただけで頭が痛くなる案件だな。ヴァニア大陸だったら小国ひとつ位はポンと買えるだろう。
そんなのが私の左目にハマってると思うと……切実に取り出したい。
ポトッ……コロコロコロコロ
「……嘘だろ。あ、うるさくなくなった。もぐもぐ」
「拾えよ? 先に拾えよ? パン食ってる場合じゃないからな。目が飛び出るとかもっと驚いたらどうかな?」
「私から言わせると、それは『眼』じゃなくて最早魔道具です。中級では扱え……医療用魔道具か。また面倒な事を」
医療品は付加武器などと違って魔石の等級制限が解除されるからな。メンテナンスは必要になるが。
「嫌なの? 便利なのに?」
「私では持て余します」
「いや、君なら使いこなせるでしょ? 努力くらいしてよ」
努力か。そうか、努力しなきゃいけないのか。どう言えば伝わる?
「コンスタンティン様、想像してみて下さい」
「うん?」
「歴代の最高司祭100人が貴方に四六時中纏わりついてずっと話しかけて来たら、コンスタンティン様どう思いますか?」
「ウザッ……え? そんな騒音レベルなの?」
頷きで返事をする。パン咥えてるから声出せないんだ。コンスタンティン様は口では謝っているが、全然悪いと思っていない感じで次の提案をして来た。
「じゃあ、10人分くらいに調整してみるね?」
「……程々にお願いします」
本当頼みましたよ。神様と崇められてるコンスタンティン様をウザイと思う日が来るとは。
大地神教者に知られたら多分……私はキンの方をそーっと見た。お代わりのスープを注いでくれてるキンにはセーフらしい。大輔はアウトだな多分。
「全身獣化やめて部分獣化にする?」
「私の身体弄り過ぎですよ。何してくれてるんですか両脚だけお願いします」
「索敵みたいの全世界広範囲にしたけどどうする?」
「いりません」
「魔法補助は? 特大からーーー」
「ちょっと、待って下さい。魔法???」
あのままだったら、私はお伽話の魔法使いみたいな事まで出来るらしい。流石神様だなコイツ。
「君、元々無意識で魔力操作出来てるみたいだよ?」
「あー……。さっき見えいたあのオーラみたいのが魔力ですか。必要ない。魔道具で充分です」
「欲がないなぁ。そしたら、魔力の底上げだけ適度に残そうかな?」
「今考えられてる1000分の1で結構です」
「この魔石目に嵌めてないのに私の考え分かるの?」
「何となくの当てずっぽですが……キン、流石にもう食えないからその皿に盛ったので終いにしてくれ」
「かしこまりまし」
多分、コンスタンティン様の片鱗を覗いた弊害だろう。常人より複雑な感情をお持ちのようだが、寧ろある意味では『人』らしいなと思う。
生物の感情ってそもそも元から複雑だもんな。年齢を重ねて、普通の人よりはコンスタンティン様はソレに深みが遥かに優っただけに過ぎない。
元から物事にあんまり気にしない人だから、読み間違えても気にも留めないしな。こんなに一緒に居て楽な人間も他にはいないだろう。
って説明したんだけど、また微妙な顔されたよ。私はまだ不思議生物の域を出ないらしい。私の事『人』だと認識してないなコレは。
「私と一緒に居て楽とか、どうかしてるよ?」
「元からどうかしてるので、痛くも痒くもありませんよ。コンスタンティン様の魔力暴走で私を傷付けないために身体をイジって、そんな魔道具作ってくれたんでしょう? 優しい人だなと思ってますよ。本気で怒る事もあまりないみたいですが、万が一私を殺してしまうリスクのために、お時間取らせて申し訳ない」
「優しい? 勝手に肉体改造して『優しい』って言葉普通出るか??? 変なヤツ過ぎて君は扱いに困るね」
多分、あのコンスタンティン様の魔石を目のかわりとは言え、体内に入れるのは元の私の身体には耐えられなかったんだろう。
魔石を私の身体に入れさえすれば、コンスタンティン様が魔力暴走起こした時に魔力が魔石の方に入る感じになるのか? そしたら私の身体が壊れるリスクは低くなる。
実験も兼ねてるんだろうが、ついでに私の事も気遣ってくれて本当ありがとう。
「とあえずコレでどうかな? 微調整するかもしれないから、色塗りはまた今度ね?」
「ありがとうございます……うるさい」
「私に面と向かって『うるさい』なんて言うとは、命知らずだね?」
「頼むから、その好奇心山盛りなのもう少し抑えて下さい。直接聞いてくれれば何でも答えますから。口で言えよ。抑え過ぎだよ。うるさい」
コンスタンティン様の頭の中は私の事が不思議で仕方ないのと、後は色々な疑問や感情盛りだくさんの好奇心いっぱいのこころの持ち主だった。
同時に色々考えられる人って忙しいな。こんな四六時中考え事して疲れないのが、コンスタンティン様のスペック高すぎて笑いそうになる。
確かに、コレは理解するのは無理だったな。私の脳味噌では、コンスタンティン様と言う人物を処理仕切れなかったんだろう。
複雑過ぎて、考え事だけでも手に余るのに感情の方は私では手に負えない。
いくらかマシになったけど、やっぱりうるさいのはかわりないな。寝る時は左目は外そうと心に決めて、私は食事を終えた。
「もう無理だって」
「甘い物は別腹です」
「果物さっき食べたんだがな。食べるが、半分はコンスタンティン様の方に渡して欲しい」
「コンスタンティン様、どら焼き召し上がりますか?」
「いらないなら貰おうかな?」
キンに対してはシレッとしてるが、心の中で「よこせよ。分かってんだろ? 大体なんで私の食べたい物ばっかり渡して来るのかな? 何でわかるの? どう言う原理? てか、そもそもーー」と脅しながらダーーっと高速で質問を永遠として来るコンスタンティン様に私はため息をついた。
だから口で言ってくれよ。うるさい。




