表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つばめと学ぶ異世界生活事情  作者: とりあえずごはん(・ω・)
第六章 グールVSエデン連合軍編
465/499

383話



「しかし、ハイルング国の代表は何をしている?」



「共通語の言葉の習得と、それから先は魔力の補充作業に専念して(もら)いたいと思っています」



「……何に補充するのだ? まさかカイザス国の城壁結界に回すとかふざけた事は言わないだろう? それなら神聖帝国に回して欲しいものだ」



 どこもカツカツだからな。エルフ族がもっと協力的なら城壁結界維持も容易(たやす)いだろうが……カイザス国のドワーフ族にも魔力提供はしてもらってはいるが、酒の消費が増えるといけないので今は程々に制限している状態。

 今はなるべくフォーゼライド国に酒を輸送したい。後は消費は軍の生産系や医療関係の職種の者優先だな。



「王太子が、いい物を腰に下げていた。アレの魔力補充をしてとっておきの時に使いたい」



勿体(もったい)ぶるな。何をする気だ?」




「ダンジョン産の伝説の剣です。私も台座に刺さってるのは見たことありますが、抜いてあるのは初めて見た。伝承だと、ドラゴンのブレス並みの威力がある……ただ魔力を物凄く使うのと他のダンジョン産の武器類と違って耐久があまりないのが難点ですが」



「?」



「ほー……」



「で、伝説の剣。世界のどこかのダンジョンに眠っていると言う……待って、台座に刺さってるって言った? 見た事あるって言った?」



 マティアス様はご存知ないが、リアム皇太子は知ってるんだろうな…………神聖帝国多分所持してるから。保管場所は厳重な皇家の地下の金庫だ。


 ベスティア国は他大陸の外部遠征が盛んに行われているので、流石に宰相は噂くらい耳にしてたか。思わず丁寧語も忘れて聞いちゃうくらいの驚きぶりである。



「場所は言えませんが……ボス部屋前の扉の付近にこれ見よがしに剣が台座に刺さってたんです。私が抜いたら死ぬと思って触りませんでした」



 かなりの高魔力者じゃないと抜けないんだと思う。普通は剣を抜く前に魔力枯渇で死ぬだろう。

 それか、後の事を気にしないなら、魔力回復ポーションをガブ飲みして引き抜くしかないが、それでも剣を抜けるかは賭けに近い。抜けても帰りがなぁ。



 ジットリとリアム皇太子に見られているが、どうやら嫌いな人認定から『化け物』に昇格したらしい。

 軍人の私的には褒め言葉だ。ありがとうございます。リアム皇太子自身は口にはしてはいので、私も礼は言葉にしない。


 根掘り葉掘り聞きたいんだろうが、そんなことを私に聞いたらコチラも色々聞くからな。どこのエルフ族ハイエルフ種に伝説の剣を抜かせたとか。



「到底普通の人間には扱えない武器です。私が知ってる中でも1番凶悪なダンジョンだ。伝説の剣を必要とするようなダンジョンボスがいる所にわざわざ人をやるのが出るとマズイ。剣の出どころは秘匿(ひとく)して欲しい」



 嘘は言ってない。凶悪なダンジョンなのは間違いないんだ。攻略中モンスターは1匹足りとも出ないが、ボス部屋があるならボスモンスターはいるとは思う。


 あんな罠ばかりの通称『極悪罠ダンジョン』に入ってみすみす命を無駄にはしないで欲しい。

 なので、私は台座横の宝箱のひとつを必死に解除して極悪非道の罠がある道を折り返して来たな。いい槍だった。もう耐久が底を尽きて砕けてしまって手元にないのが惜しい。


 今なら前より楽に攻略出来るとは思うが……心情的には2度と行きたくないな。槍は欲しいが。


 代表者が頷いたところで、私はリアム皇太子にまた嫌われそうなことを口にしなければならない。



「安否不明の恭介様だが、恐らく……命が尽きた。間に合いそうな皇后様の方は人をやったが、助かるかは何とも言えないのです。多分、海に落ちて流れついてはいますが…………応急処置だけして、カイザス国の集中治療室行きでしょう。手は尽くしますが、生きのびるかは本人次第です」




「…………皇后様は……母上は、助かるまでそのまま行方不明の扱いに」



「では、その様に計らいます」



 多くは語られないが、発見されて意識不明の重体。発見を喜んで国民が希望を胸に抱いたところで、治療の甲斐なく亡くなったではな。

 それなら、目を覚ましてから発表した方がいいんだろう。


 亡くなったら、亡くなったで使い所はあるが……ここぞと言う時に軍の士気を上げるタイミングにな。リアム皇太子の中では今はその時では無いんだろう。

 あるいは、復興段階で皇后の分まで生きて行こうと希望を胸にだとか。喪に服して当分質素倹約にとか色々手はある。


 私の存在がリアム皇太子の中で『嫌いな化け物』に昇格したところで、この話は終わり。




 各国のとカイザス国の伝令をほぼフルに使って各地に指示を飛ばしたところで、何とか立て直しを図りたいが……特に飛竜を所持しているマティアス様のところはかなり無理な日程調整でユリエルの所やフォーゼライド国に行ってもらったのでな。

 マティアス様の護衛に着いてるはずの人員まで動員して貰ったので、帰って来たらいい酒でも与えなければ。



「マティアス様、正式なご結婚はいつ頃ですか?」



「なななな何でそれを!? ……ゴホンッ。書類の上では今月中には。式は終わってからになります」



「分かりました。おめでとうございます」



 と、言うことは今月中にはマティアス様にかなりの権力が手に入るのか……。駄目だな、(おぼろ)げ過ぎて分からん。


 私の自由な時間の期限は1週間。コンスタンティン様は10年連絡がなければ探しに来ると言ってたが、嘘っぱちだ。アレは直ぐにでも私で何か調べたいんだろうな。


 10日は持つと勘は働いたが、伸びたら伸びた分だけコンスタンティン様の信用を失う気がする。

 ここまで読めない相手を読めないまま相手にするのは中々骨が折れる。



「祝いの言葉を言われのはいいが、何で何も喋らん? おーい」

 


「何か考え事をしているようです。多分長くなるので、お気になさらず……たまにあるのですが、こうなると長いが……ズームォ様後にして下さい。今は話の続きを」



「……あ、キンか。すまん。えっと……とりあえず他にお話がなければ一旦解散にしましょう。次は大輔副隊長が帰って来てから集めたいと思います。宰相だけ残ってもらっても構いませんか?」



「はい!」



「では、私はこれで」



「おう。じゃあ、私も……ふぁ〜…………酒でも呑みながら寝ます」




 部屋から出て行った2人を見送り、その後宰相に向き直る。



「『仮宰相』から、宰相就任を祝っていいものか……国には戻られないのですか?」



「……今戻ったところで、他に国の代表者になる者もいないのです。下手したら共通語も満足に話せない者が送られて来るでしょう」



「本音をお話して。今の私はあまりに役立たずだ……貴方の未来の生死も分からない。そのよく分からない胸の内を話して、スッキリして仕事をしてもらいたい。急に色々仕事を押し付けてすまなかった……ベスティア国に滅んで欲しいのか?」



「…………もう、国に忠義を尽くしていいのか、見限って滅べばいいのか分からなくて……父も兄も死に絶え、私は猫種の文官最後の直系生き残りだ。このまま国に戻っても……」



 こんな緊急時にベスティア国に戻っても過労死まっしぐらだよな。文官業務の前宰相が亡くなって、引き継ぎも(ろく)にされていない、補佐官業務しかしてなかった者に宰相位を与えるほどのヤバい国だ。


 あの若い獅子の王の元に戻ったら、この猫種を使い潰してしまうと予想出来る。

 猫種の直系はもうこの1人しか残ってない。種の存続を危ぶまれる宰相にしてみたら、国に仕えて過労死するより、よっぽど戦場で生き絶えたいと言う方がまだマシなんだろう。


 ぐっちゃぐちゃの胸の内を今の内に吐き出してもらいたい。



「『宰相』と言われるのが好ましくないようなので、妥協して名前で呼んでも良いだろうか?」



「はい。『ジュード』と呼んで構いません……失礼ですが、水島隊長を下の名前で呼んでも?」



「ありがとうございます。『ズームォ』と言うのですが、呼びずらいでしょう。『水島』でも『ズー』でも構いません」



「ずーむにょ……」



「ズームォ」



「ずーむにょ?」



「ズームォ」



「ズーむニャ? ……『ズー』さんと呼んでも?」



「ではそれで。私はジュードさんと呼ぼう」




 よっぽどまいってるんだな。カイザス国だとラフだが、生粋(きっすい)のベスティア国の獣人族だと本人の名前はあまり呼ばない。

 家族や親しい友人のみ許される行為で、大体は愛称や通称で呼ばれることが多い。


 強者に無理やり名前を呼ばれることはあるが、それも侮蔑(ぶべつ)に近いな。「お前の名前を呼べるほど自分は上の存在だ」と、言った感じで。



「では、これからは『第1隊長の水島』としてではなく。国も何も関係なく、貴方に名前呼びを許された対等な者としてジュードさんの話を聞きたい」



「ズーさん……私……いや、俺……本当は文官になりたくてなった訳じゃなくて……にゃあぁぁぁあぁぁぁんっっっ!!!? きいてくれよーっ! 酷い話なんだよぉぉおぉぉっ!!!」







 それから私は、ジュードさんの愚痴(ぐち)と言う名のベスティア国の文官の不当な扱いや、強者の圧政など内部的な話を赤裸々(せきらら)に語られた。


 そっかー、前宰相は毎日年中無休に近い睡眠3時間か。ジュードさんはまだ若いって事で、月に2日は休めてはいたみたいだが……前宰相が休み捻出(ねんしゅつ)してくれてたのか、よしよし。いい子だな、ジュードさんは頑張り過ぎなくらい頑張ったよ。


 下手したら、今のベスティア国軍人よりタフ。

 てか、実際は強そうだけどな。

 でも、己の強さのみを求める国では、攻撃魔道具や武器を使うのを恥としているお国柄。何だか意図的にも思えるが。




 王を決める1対1のルールあり気の大会での戦い方重視なので、実戦とは完全に別物だな。



「予選突破したんだ1回は……しかし、前王が気まぐれに退位すると言い出して次の大会でいきなり予選落ちで敗退だ。強いのばっかりに当たって……」



「仕組まれたんだろうな。ジュードさんの兄は良く()い潜って予選突破したよ。お前の兄はガッツがある」



「やっぱり! やっぱりそうなのか!? 悪知恵だけは働くんだ本当……酷いよ、俺頑張ってたのに……たとえ底辺でも、兄と俺が軍に入れば父さんを無理に働かせなくても生きて行けるって……養ってやれると思って……ごめん、不甲斐ない息子でごめん父さん……兄さんまで死んで、俺この先あんなベスティア国に帰っても、仕事なんてしたくないよ!」




「ジュードさん、2つ謝らなければならない事がある」



「ふぇ?」



 君の兄……最初の伝令が死ぬと分かってて送り出したのは私だし、前宰相の父親を()き付けたのは私だ。そう話すと、ジュードさんは涙を流しながら、酷いと私をなじりはじめた。



「憎んでくれて構わない。しかし、口煩(くちうるさ)いようだが……それほどベスティア国が酷い状況だった。前宰相以外にまともに頼める相手がいなかったんだ。今の獅子の王に同じ事しろと言っても十中八九出来なかっただろう。不敬になるかも知れないが、私は今の王より前宰相の方を高く評価している。アレは生まれながらの戦士であり、人格者であり、国に忠義を尽くしながらも立派な人だった。私には到底真似出来ない。尊敬すべき相手だ……本当に惜しい人を殺してしまった。すまないジュードさん」



 あの元宰相が録画した映像記録がキッカケでカール様がハイルング国の援軍要請を出してくれた。犯罪者にしてしまって、殺してしまって申し訳ないと謝ると同時に、私は感謝しなければならない。



「カイザス国軍人としては表だってお礼は言えない。けれど、私個人として……本人に直接言えないのが心苦しいが息子のジュードさんにお礼は言いたい。ありがとう」




「グスンっ……そ、そんなお礼喜べないよズーさん……」



 キンがどこからか持って来たティッシュボックスをジュードさんは抱えさせられて、自身で涙と鼻水を拭く。



「あんな死ぬ時までバカ獅子が何とかしてくれると思って……哀れだ……」



「ジュードさん、きっとアレは皮肉だ」



『息子よ、エデンの行く末は頼んだぞ。王はクソわがままだが、お強い方だ。私と違ってきっと何とかしてくれる』



 (訳)何とかすると、あのバカ獅子が自分で言ったんだ。出来るもんならやってみろ。


 お前には無理だバーカ。



 って感じだろうな。最後の『バーカ』辺りは余計かも知れないけど、多分合ってると思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ