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つばめと学ぶ異世界生活事情  作者: とりあえずごはん(・ω・)
第六章 グールVSエデン連合軍編
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380話




 花子殿はまだ到着していないが、食事の支度も粗方終わったとの事で現在私はミアと戯れている。


 と、言っても寝てるのを抱っこしてるだけの簡単なお仕事なので、マジックバッグから余りの小さな魔石を取り出して魔法陣を掘り込み、歌や口笛を録音。


 王太子はどうやら音痴らしいので、歌えないんだ。

 カール様は歌えるだろうが、あの方がミアに歌う事は今のところなさそうだな。


 質が悪いのですぐに壊れるかもしれないが、歌が好きなミアのためにせめて少しでもミール様やシャルルの音楽を贈りたい。


 エゴだな。両親を殺した男が生まれた子どもに名前を付けて、何かを贈るなんて……将来刺されても文句は言えないが、多分私は返り討ちにするしかない。



「鈴木商会と兼任ですか?」



「おや、やはり分かりますか? おかしいなぁ……腕が鈍ったんですかね?」



 部屋の隅にいる三角耳の狐の御人に声をかけると、笑われた。

 魔族のミアの監視だろう。この方がついているなら、滅多な事は起きないな。



「天狗は結局、種族研究所に引き渡しました」



「桃仙モドキの毒抜きしないと、確かにあれは駄目でしょうな……可哀想な事をススメたかも知れない」



「いえ、いつかは死ぬか人里の病院に連れて行かないと駄目でしたからね。しぶとい奴ですから案外上手くやってるでしょう」



 狐の御人はそれだけ言ってまた部屋の隅に戻った。花子殿が到着したらしい。




「すみません、急に呼び出して」



「よろしくってよ。早速調べまますのよ」



 もう目が爛々と輝いてるな。久しぶりなのに挨拶もなしにミアが寝てる隙に色々調べ始めた。研究者って皆んなこんな感じだよな。



「……随分と大きいですの」



「かなり腹に留めおかれたようだ。あまり喋れませんが、思考はハッキリしていて、ちゃんと言葉も理解していますね」



「ミルクと並行して、離乳食も直ぐに必要になりそうですのよ。ミアちゃまの好きな食べ物何だろな〜ですの……まさかの『肉』ですわね」



 魔道具に表情されたデータを読み取りながら、色々書き込んでいる花子殿を邪魔しないためにジッとしている。


 たまにミア起きそうになるので、トントンあやしながら必要な検査を終わらせる。



「水島副隊長はいいお父さんになりそうですの」



「……軍人の親なんて碌なもんじゃないですよ。大事な時に家にいないので、いい父親にはなれない」



「あら、佐藤家ですと『旦那は丈夫で留守がいい』が理想ですのよ。それにしても素敵な性能のオムツですわ。私も子どもに欲しかった……けど、快適過ぎてオムツ外れが遅れそうですの。使用は要相談ですわね」



 嫁に意識を向けようとして……やめた。今は考えてる場合ではない。言い訳だな。見ないようにしたとも言える。

 諦めの悪い男だな私は。もう、嫁が生きてさえいればそれでいいじゃないか。


 私がボーっとしてる間に粗方検査は終わった様だ。


 カール様と王太子にキンも合流。花子殿は既に王太子に挨拶を済ませたと言うことで、私はミア以外のこともお願いした。



《王太子殿下、共通語の読み書きを花子殿から学んで下さい。カール様の代わりにハイルング国の代表者として王太子殿下が必要書類にサインする事もあるでしょう。書類が読めないと困るのはハイルング国側だ。それと、所持している剣と鞘用に魔力を注ぎ込んでおいて下さい。それで多少時間稼ぎになる……すまない、急ぐので失礼する》



 早口で一方的な話しをした後、走り出した私を追ってキンも並走して来た。



「どちらに?」



「作戦司令本部に真っ直ぐ向かう」



「先にズームぇ様の到着を知らせに行きます」



「ありがーーー」



 お礼言おうとしたら、キンが凄い速さで消えた。おー…私もあれくらい動ける様になりたいな。キンが行ってくれたなら、間に合いそうだ。よかった。










 内側の城壁を越えて、医療都市に入る。

 作戦司令本部に設定されている中等部学校をガンガン進んで、講堂の一室にたどり着いた。元はスクリーン室と呼ばれる映像を映し出して授業を受ける場所だろう。

 教壇が前にあり、席は段々になってうしろに行くほど高さがある。かなりの広さだな。人はまばらだが、皆一様に驚いた顔付きをしている。


 道中もビックリされたが、私が急いでいると知ると直ぐに検問など通してくれたな。



「水島!」



「遅くなってすまない。一時指揮を譲り受けたい」



「作戦総指揮を水島第1副隊長改水島第1隊長に譲る書類は後回し。許可は私が出す。承認ここにいる者全員手を上げろ。よし、いいぞ喋れ水島」



「まだ集まってないが時間もないのではじめる。伝令! 1番早い羽馬をいつでも飛び立てるように準備。後は医者を1名手配。羽馬の準備出来次第この座標に迎え。持ち物と休む場所は今書く。準備出来次第出発。神聖帝国の王妃が瀕死でいるはずだ。何としても助け出せ。商会のまとめ役を集めてくれ。メスのクラーケンが出て来る。海路と陸路見直し、まだフォーゼライド国は1週間以内に合流しない。苦戦中のフォーゼライド国に酒を供給したいので、日付変わって2日後にヴァニア大陸から来る神聖帝国の入国審査用の島に到着する船を補給して酒はそのままフォーゼライド国に、肉はーーーー」




 ダーーーっとひたすら言葉を喋って指示書を並行して書いていると、粗方人が集まって来た様だ。書記すまん。実は音声記録で大輔が録音してくれてるので、後でゆっくり書いて欲しい。今は時間がないので言えない。


 大輔は指示書にサインして、ポンポンと自分のハンコを押しては関係各所に速やかに渡してくれている。有能過ぎて本当助かる。敵なのが惜しい。


 喋っていると、キンが途中で温い白湯を渡してくれたので一気に煽ってまた喋り続けて手を動かす。




「以上。とりあえず3日分の早急な行動だな……すまんが、少し休ませくれどうやら無理したようだ」



「後は任せろ。私の部屋を使って構わん。伝令が足りない。足の早いの走れ!」



 お前その足が早い人どっかの副隊長だろう。私に似て使える者は容赦なく何でも使うよな。


 キンに肩を借りながら、講堂に併設された小部屋に入る。緊急時に軍が使う事を想定された宿直室みたいな作りだ。

 何箇所かこんな作りの学校や施設場所があるが、今回ここが選ばれたのは点検したてで不備が1番なさそうだったからだろう。


 ベッドがぐしゃぐしゃなのは就寝中に起こしてしまったからだな。

 急いで支度したのか、ズボンにシャツに軍服の上着羽織っただけでボタンも止めずに出て来たらしい。珍しく髪も後ろに撫でつけてなくて、寝癖まで着いていた。



「外しますか?」



「いや、自分でやらせてくれ。キンは眠くないか?」



「はい。1年くらい寝なくても大丈夫です」



「そうだったのか。しかし、擬態したいなら休みのポーズくらいはした方がいいか……お前は今誰になってるんだ?」



「前とかわりありません。辞表の受理はされずに、ズームォ様の部下と言う事で処理していただきました」



「わかった。では、30分で起こして欲しい……本当に起こしてくれ。その後まとまってキチンと休むから。集まった商人にちゃんとクラーケンの話をしないと海路が使えないから……」




 30分ちょっと過ぎたところでキンに起こされた。考え事してボーっとしてるのをいい事に身支度をされてしまった。顔まで拭いてくれてありがとう。

 お陰でスッキリして頭も冴えたな。



 小部屋から出ると、一斉に視線が集中。気にせず大輔の方に向かうと紙を手渡された。

 作戦総指揮並びに隊長になる為の書類だな。サインして返す前に私は一文付け足した。



「1週間限定だと? どう言う事だ?」



「左眼の摘出手術を受けなければならないんだ。次はいつ復帰出来るか分からん」



「……その目早急に摘出しなきゃいけない程そんなに悪くなっていたのか。すまない気がつかなかった。脚も……どこか他に悪いのか?」



「信じないだろうが、いたって絶好調だ」




 物凄く不審な目で見られた。いや、嘘ではないんだがな。どこか悪いかとあえて言うなら、お前より頭が悪いよ。



「商人には私が説明するから、ここは任せる」



「わかった。無理するなよ……おかえり水島」



「ただいま大輔。迷惑かけた説教はほどほどに頼む」



「ほどほどの説教は後日に3時間くらいだな。今は無理なのが残念だよクソ野郎」



 入隊したばっかりの時はドコの貴公子だって感じだったが、コイツも変わったな。悪い意味で。その親指下にする『地獄に落ちて酒盛りしてろ』のサインは止めて欲しい。本当に1週間後に死ぬかも知れないから。


 霞がかかっている先の出来事を何とか覗き見て、憶測と予想で物事の全貌をとまでは行かないが何とか危ない所は回避して行きたい。1番はクラーケンのメスだな。アレは不味い。何が不味いって気が立ってる所だ。


 あんなのがコンスタンティン様の風呂の横にいたのかとすくみ上がったな。多分明日辺りには海に放たれるだろうな。


 クラーケンのオスよ、嫁さん産後でかなりナイーブ? になってるから優しくしてあげて欲しい。きっとクラーケンにもホルモンバランスの崩れとかあると信じたい。常時あの状態じゃない事を願う。



 さて、そろそろ集まる頃だろう。出発してしまっている船はもう何隻か手遅れだが、港に残っている船だけでも何とかしたいな。



 空き教室の一室に入ると、着席していた方々が挨拶して来る。こんな真夜中なのに皆様大変身なりがいい。

 学校で使用してる椅子と机を併用してるんで、何とも違和感が半端ないな。


 私もキンが用意してくれた椅子と机にこしかける。



「申し訳ないが、挨拶と前置きを省略。質問は後で受け付けるが、文句は他の方の話の邪魔になるので最悪退場願いたい。では、先ずはエデンの海路図を見て貰いたい」



 明日カイザス国近海に放たれるだろうであろうクラーケンのメスの話しから始まり残念ながら、明日戻って来る予定の船は積荷を諦めた方がいいとも。

 事後で申し訳ないが、明日カイザス国の港から出港予定の船は出来れば午前中は出港しないようにと知らせだけは出した事を説明する。



「クラーケンに攻撃しないで、食料品を1つ残らず全部海に投げ捨てれば助かるかも知れません。もし、躾の行き届いた羽馬を所持しているのであれば船に知らせても良いかも知れませんがーーー」



「そんな世迷い言を信じろと言うのか?」



「助かるかはクラーケンの気分次第です。しかし、話せば分かるクラーケンだとも思います。触手に絡められたら抵抗しないでおはようございますでも言って差し上げて下さい。クラーケン流儀の挨拶みたいなものです。産後ですので、お疲れ様でも構いません。かなり苦労して産卵した様で、疲れ過ぎて怒り狂ってます……アレが通常状態じゃない事をーーー」



「話を聞いてたのか? お前の耳は飾りか?」



「祈ってーー」



「おい……人の話を」



「ますが、船ごと大破されて損害を出すよりはマシかと思います。3日後にヴァニア大陸から神聖帝国の入国審査用の島に積荷を満タンに積んだ船が来ます。主に酒と肉。船はそのまま肉だけ下ろして優先してフォーゼライド国に酒を運んで貰いまーーー」




「何故言葉を発するタイミングが分かるんだ?」



「すが、肉はその場に留まりますので、もしよければドコかの商会が運んで下さい。丁度大型船2隻分にはなるでしょう。クラーケンの警戒はとりあえず、明日の昼までになります。鈴木商会はお帰りの様だ。キン、摘み出せ。それで、その先のクラーケンのおおよその動きになりますが、ハイルング国方面に向かうのでフォーゼライド国から回り込んで行けば回避は可能だと思います。明日早くて14時過ぎに出発を希望するなら、そちらで調整して下さい。話は以上になります。仕事が立て込んでいますので、ご質問がないようなら私もコレで失礼します。後の話は皆様でどうぞ」




 時は金なり。どこの商会が港に知らせに行くか話し合って、後はあちらで何とかしてくれるだろう。

 多分大手の商会が纏めて羽根馬に手紙を持たせて伝令よろしく、飛ばすことになるんだろうな。



 商人は情報通だ。私の事を『死神』だと知っているし、新規参入者の神聖帝国から来た商会も、半信半疑な者も周りの雰囲気に呑まれて「本当に信じるのかあんな言葉?」と、言い出せないんだろうな。



 古参の商人は話が早くて助かるな。

 ちなみに鈴木商会はワザと私を煽って他を出し抜いて先に準備を進めてる。恐らく、もう自前の羽馬飛んでても不思議じゃない。


 多分、朝出港予定の船を前倒しで出して、そのまま神聖帝国の入国審査用の島に到着した肉は鈴木商会が運ぶんだろうな。



 商人って強かだよな。こんな時こそ心強い。


 

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