372話
「まだ迷っているのか?」
「えっと…」
「ウェルエルの目を見て『帰る』と言えるのか。言えるものなら言ってみろ」
隣にいるクマさんの顔をチラチラって見てみたけど、眉毛が下がってるしお目目ウルウルさせてる。言える訳がない。
「お姉ちゃん……」
「悩みがあるなら打ち明けろホラ。何ウジウジ悩んでるんだつばめらしくもない」
「私らしいって何ですかね?」
「つばめはどちらかと言うとポジティブだろう。考えなしとも言えるが、本来明るい性格だと思う。些細な事に喜びを感じ、皆んなでワイワイするのが好きだし、それをただ見てるだけも好きな変わった性格だと思う。ウジウジするのは私の役目だからな」
「カールさんとの事100年募らせてましたもんね」
「未だに募らせてるかもしれないからな。記録更新中だ……ウェルエル、どうしてもつばめと2人きりで話がしたいんだ。すまないが、お前のねーちゃんを俺に貸してくれないだろうか?」
「…………」
「大地神教者は神に誓うし、ドワーフ族は酒に誓うが……ウェルエルは何に誓えば俺を信用するだろうか?」
クマさんは真剣に考えて考えて、腰が折れるくらい考え抜いて「閃いた!」みたいな顔をして、ユリエルさんに向き直った。
「僕、お父さんと約束破ると好物の蜂蜜お預けの刑にされてたんだ。お姉ちゃんに変な事したら、好物を一生食べないって誓ってくれるなら僕は信用する」
「苺ジャムと生クリームだな。つばめの手料理をかけてもいい。絶対お前のねーちゃんに危害は加えないと約束する」
「わかった。エルフ族のユリエル長官は約束する時どうやって誓うの?」
ユリエルさんは、神咲さん直伝『指切りげんまん』らしい。ついでにそれもやると。
やり方を教えて指切りげんまんしたらーー。
「エルフ族って物騒な約束の仕方するんだね」
「いや、ウチだけだと思う。じーちゃんが物騒なだけだ」
「ちょっと納得したよ。でも、流石に寝る時は僕に返して欲しいな。どんなに夜遅くなっても構わないから」
「分かった。話が終わったら声をかける」
クマさんは1回軍の方に顔を出してから、ついでにお風呂入って来ると言って出かけて行った。
「つばめ、話の前に確認したい事があるので特級免許を見せて欲しい」
「分かりました」
1回クローゼットに閉まったファイルをまた持って来て、ユリエルさんに見せる。
「やはり、本物みたいだな」
「偽物とかあるんですか?」
「パッと見て上級魔道具使用免の用紙とかは変わらないからな。少し待て」
ユリエルさんは懐中時計を取り出して、いじり始めた。結界出すのかと思ったら違うらしい。
「音声登録名ユリエル。管理室に問合せ許可願う…………通じないな。やはりここはダンジョンらしい」
「何かしたんですか?」
「諜報部の管理室に問い合わせしただけだ」
「へー……」
電話みたいなものかな?ダンジョン内は圏外なのかな。ちょっと欲しいかも。
「コレが通じないと言う事は、俺の監視も現在出来てないんだろうな」
「やりたい放題ですね」
「言い方。つばめ、酒でも飲むか?貴重な酒だからな、ちょっとだけだぞ」
「チーズと鮭とば出しますね。ナッツ残ってないんですよ」
ユリエルさんが秘蔵の貴腐ワインを出してくれたので、いただきます。甘くて旨い!
「あーまー。美味しい」
「ドワーフ族には内緒だからな」
「コレも駄目なんですか?」
「意見が分かれるな。甘味料混ぜて作るのもあるらしいので……ところでつばめ、特級を取得したと言う事は恐らく国……いや、コンスタンティンに属してる事になるが何か覚えてるか?所属とか、配属先とか」
免許の発行許可者はコンスタンティンさんになってるけど、全くこれっぽっちも覚えて無いです。
「私もしかして、国から出れないですか?」
「諜報部の仕事の場合は別だが、申請書が必要だな。だが、部署を知らないなら直接コンスタンティンに許可を求めるしか今のところ方法が思いつかない」
部署とかあるんだ…………あーれー?私帰れないんじゃないかな?
「私このまま帰ったら扱いどうなりますか?」
「秘密の犯罪者だな。つばめは追えないだろうから、連帯責任で家族に秘密裏に罰金刑もしくは魔力の強制徴収が施される。普通はそーっと消されるだろうが、養父がコンスタンティンなんでどうなるかよく分からん」
「わ〜お。それはマズイ。コンスタンティンさんなら何とかしそうですけど」
「本人に聞くしかないな。しかし、遺産級の方は全く分からん。俺は限定特級だが誓約書の控えも渡されないから、つばめの行動制限がどの位なのか皆目検討もつかない。原本のみでコンスタンティンが保管してるな」
そっか。誓約書があるのかー。コンスタンティンさんに聞く事多すぎて質問事項忘れそうなんだけど。
「……つばめ、それで何ウジウジ悩んでるんだ」
「残っても、帰っても迷惑な存在だな私って。ユリエルさん異世界召喚とか何処まで知ってますか?」
「贄を使って呼び出すヤツか?渡り人の方か?」
ユリエルさんも、そんなに知らないらしい。やっぱり『番』うんぬんのは知らないのか。
「もしかして、他にも召喚の様な方法があるのか?」
「他の人に話さないって苺に誓ってくれますか?」
「ああ、構わない。苺に誓う……マヌケな誓い方だな」
一応手首についてる魔道具を確認。大丈夫そう……だけど、ポーションも用意しよう。
「……龍神種に会った事ありますか?」
「龍神パイロンだな。1度だけあるが……じーちゃんの追加の弔いの旅で会ったな」
「カイザス国に辿り着いたので終わりじゃなかったんですか?弔いの旅もう1回おかわりして行ったんですか?」
「そうだ。死ぬかと思った。じーちゃんマジ許さない」
そっか。ユリエルさんも魔王城に行ったのね。お仲間でした。
「私多分、あのバイーン美人に攫われてコッチ来たんですよね。ちゃんと覚えてないけど」
「言い方。乳のデカさは獣人族牛種並みだが……つばめ、無理するな。ポーションを飲め」
貴腐ワインと、桃濃縮微炭酸サイダーで口の中甘ったるい。
「多分……帰ってもアレが居たら私またこちらに連れ戻される。でも、残ったら残ったでいつかアレが私を攫いに来るかもしれない……。龍神種の『番』になれるかもってコンスタンティンさん言ってました。誰も敵わない世界最強種なんでしょう?違う人は逆にもう番ではないから、多分暴れるって」
「マジか…………。つばめ、思ったよりも悩みが大き過ぎるな……ウジウジする気持ちが分かった。すまん、想像以上で何て言っていいやら……」
最初は帰ろうかと思ったんだ。でも、お母さんも隼人もいないなら別に帰らなくてもいいかなって。
結婚約束した人もいないし、丁度恋人も居なかった。友達には会えないのは寂しいけど……マスコミ関係に巻き込まれるかもなら、帰らない方が逆に迷惑じゃ無いだろうって。
でも、結局この国に居て気まぐれに龍神種のパイロンってバイーン美人?が迎えに来たらなぁ……。
寿命長いなら、時間の間隔がコンスタンティンさんみたいに麻痺してるだろうから、いつ何時来るかも分からない。
「番って、認識したらたとえ相手が結婚してても、子ども居ても何も関係なしに攫うって本に書いてありました。しかも、番を失うと狂うって……私の魂変質してて、龍神種の美人の番になれないんですって。『番狂い』で暴れて世界滅亡フラグですよ……スケール大き過ぎますよね。1回会ったんですけど、まだ被害が出て無いって事は本人未だに気づいてないみたいですけど」
「…………一生気づかないでいて欲しいな」
「私の寿命、コンスタンティンさん並みでこの星の寿命より長いらしいので、一生気づかないは恐らく無理ですよ」
「つばめ、ワインも飲め」
「はぁ〜……美味しい。ユリエルさんどう思いますか?」
「そうだな……悪魔認定で封印するのが有りか、それとも弱体化させるか、いっその事つばめの世界に送ってしまうのも有りだと思うが……」
思ったよりも手段あってビックリなんだけど、どうゆう事?




