366話
フローラルな匂いにちょっと硬めのモフモフを全身に感じながら、頬にスリスリする。
「お姉ちゃん起きた?」
「?……っ!?私また記憶……じゃないか。普通に横になってただけか。おはようクマさん」
そうだった。ハルさんが鈴木邸に合流してから結局エルフ族大使館に移動したんだっけか。
今は神咲さんのダンジョン部屋の2階に敷いてもらったお布団の中。
家に帰ろうとしたら、ゾンビ化するかもしれないからもう少し様子見した方がいいと言う事で結局こちらにお世話になってる。
お狐様と烏丸井さんは鈴木さん共々お別れした。
神咲さんは隣の部屋で何か作っているみたい。ハルさんはそっちにいるね。大輔さん何処だろうと思ったら、お茶を飲みながら何やら針仕事をしている。
「ウェルエル、スーツは終わったから後は自分でコツコツやれ。針と糸などは此方に置いておく。これじゃないと糸が切れるらしい」
「ありがとうお兄ちゃん。僕より上手だね」
「何が上手なの?おー……ミアちゃんも刺繍するって言ってましたけど、こんな感じなんですね」
「新兵が1番始めに習うのは刺繍とアイロン掛けだからな……今は違うか。ハルと神咲殿に声をかけて来る。つばめとウェルエルはちゃんと服を着替えろ」
「「はい」」
スーツのジャケットの『ウェルエル』という刺繍を見せてもらいながら、返事をする。
「折角だからスーツ着てみようかな。神咲さんネクタイも付けてくれたんだね。びよ〜〜〜ん」
「のびるのびる」
カイザス国軍ノーネクタイでも問題ないらしいよ。全身獣化すると首絞まるかもだから。
神崎さんが作ったネクタイはどこまでも伸びる。何素材なんだろ?
「ネクタイってどうやって結ぶんだろ?」
「こうだよ」
「お姉ちゃんもう一回やって」
横に並んで私もネクタイを結びながらクマさんに説明する。よしよし、そんな感じ。
似合う。似合うよクマさん!何かSPみたいでいいね。
私も神咲さんに借りたパジャマを畳んで、元の服に着替える。
寝巻きどれにするって出された時にセクシーなネグリジェばっかりだったから焦った。
ハルさんが「きゃぁあぁぁっ!」って言ったからね。1番平気な顔してたのはクマさん。
大輔さんの方は怖くて見れなかったよ。生脚も駄目ならランジェリーみたいなのも駄目だと思った。
パジャマでお願いしますって言ったら縞々の無難なパジャマを新たに出してくれたよ。ありがとうございます。私のお腹冷えなくて助かりました。
クマさんファッションショーしてると、隣の部屋に居た3人がこちらに来た。
「……普通の姉弟は男女でも目の前で着替えなどするものなんだろうか?それとも獣人族のウェルエルに合わせてだろうか???」
「私は移住前は普通に妹の前でパンツ1枚でもいましたし、家族全員で同じベッドで寝てましたけど……最近反抗期なのか、それとも人族の友達に合わせてなのか嫌がってますね」
「俺はマッパでも何も言われた事ないけどな。色々だろ。流石にハイルング国ではやった事ないけど。一応王子様だし」
「え……大輔さん的にはアウトですか?」
「いや、いい。2人に合わせるが、頼むからウェルエルに慣れてからにして欲しい」
苦悶の表情の大輔さんは、こめかみを抑えてから深呼吸していた。
「もしかして変かな?コンスタンティン様も気にしないよ。一緒にお風呂入ったし」
「お父様もそんななのか?家長に合わせるのが普通なのだろうが……手伝いならともかく、流石に一緒にご入浴など恐れ多くて……ふぅー……。いつか慣れるだろう」
「無理はしないで下さい。無理に合わせなくても大丈夫ですから。駄目なら駄目ってハッキリ言って貰った方が助かります」
「助かる。しかし、善処はする。慣れるまでは色々言ってしまうかもしれんが……私の神殿での服装は前見たと思うが、アレが普通で肌など見せないものだったのでな」
大輔さんの最初の服装は…………コンスタンティンさんみたいな神父さんが着てる様なので装飾してあって色は白だったね。もうちょっとダボってしてたかな。
食事の時とかは手袋外すけど、普段はずっと装着してるらしい。
今は黒い皮手袋?みたいのしてるね。料理する時とかは外してるけど、パン食べない時はたまにそのままの時もあるし。
洋服買う時に真っ先に手袋探してたねそう言えば。いいのがなくて、結局大通りの方に探しに行ったくらいのこだわりの品である。
「大輔さんってお風呂も入れてもらう人ですか?自分でドア開けないとか」
「いや、神聖帝国では半々だろうか?次期最高司祭予定だったので神殿では身の回りの世話や自分の事をする訓練みたいのがあってな。軍に入る皇家とはまた違った感じになるが……買い物はしなかったな。大体商人が持って来た物を選ぶ感じた。神殿から出る事もあまりない。ジョンはまた別だ。次期最高司祭にならない様に、アレは何でも周りにしてもらうのが当たり前の生活だった」
結婚して巫女の家系の僻地に行かせると思わなくて、可哀想な事してしまったとちょっと後悔してるらしい。
ロジャーさんは産まれて直ぐに『巫女』と言う地位を賜わったので、聖女の家系から派遣された分家筋の者に蝶よ花よと育てられたが、カイザス国に来てから分家も撤収。
ロジャーさんが居なくなった事で、人手不足で身の回りの事を何でもしなければ行けない生活をジョンさんは強いられる羽目になったと。
「ロジャーさん、バナナやリンゴに齧り付いた事ないって言ってましたね」
「まぁ、聖女の家系の地位向上の為に巫女様は傀儡にする予定ではあったからな。何でも出来てしまったら困る…………自力で脱出されるとは父上も私も思わなかった訳だ。あまりいい話しではないので話題を変えようつばめ」
「はい。何かすいません。何を話そう……とりあえず、私は1回家に帰っても大丈夫ですか?」
「HPゲージは満タンだから、俺のポーション何本か持って帰るか?一応改良してつばめさん用に濃縮して作ったからなくなったらまた渡すよ。微炭酸に調整したから」
「助かります。これ、いくらですか?」
「男から貰うプレゼントに、値段は聞いちゃ駄目だよつばめさん。ラーメンに乗せるチャーシューオマケでもそっとしといて」
「……チャーシュー麺にして、餃子とチャーハンも付けてもいいですか?」
「ヨダレ出そうになったわ。んじゃ、それでお願いします」
神咲さんと夕飯にラーメンを食べる約束をして、1回自宅に帰る事になった。
ラーメン作りの材料は鈴木さんから譲ってもらったんだ。
エデン臨時会議前倒しで、各国の予約されてた会食やらが急遽キャンセルになったので食材余ってるらしいよ。
勿体ないから神咲さんが駄目になりそうな肉や野菜など時間停止の亜空間収納で保管してくれてる。果物とかもだね。
鈴木商会には会食のキャンセル料が入り、神咲さんは必要な物は原価から多少上乗せして勝手に使っていいと言われているらしい。
食材が高級過ぎて、市場に出しても売れない物もあるんだとか。
特にベスティア国に出す筈だった大量の肉がいっぱい。レオンさんごめん……私はチャーシューとか作るね。美味しくいただくから無駄にはしないよ。特に余ってる牛肉どうしようかな?
大量の食材と共に家に帰宅。現在は昼過ぎだ。
料理は使い慣れてる私のキッチンでしようかなって事で荷物は全部2階に運んだ。
冷蔵庫に肉を仕舞おうとして驚愕。
「作り置きのおかずが何もない……。冷凍庫も殆どスッカラカン…………嘘でしょ」
「……お姉ちゃん。買い物行こう」
冷蔵庫の野菜も乳製品もないし、冷凍した肉どころか野菜やパン1枚すら残ってない。
調味料も減ってるんで、すき焼き以外もきっと食べたんだな。私とおそらくコンスタンティンさんに、皐月先生にユリエルさん。
パントリーに保管してた、いただき物の最後の1本だった梅酒が消え失せてる。ピクルスも、ジャムもないしね。あぁ、後は何か果物のシロップ漬けもない。
記憶と共に家の物の食べ物も消え失せてて、ちょっぴり悲しくなった。
「食材ないけど、増えてるのがあるんだよね。これ、炊飯器だ」
「炊飯器だと?ああ、お父様のところのキッチンに置いてあるのにソックリだ」
「冷凍してた梅の実と砂糖が大量にないから、梅シロップでも作ったのかな?何時に記憶飛ばしたんだろう???シロップ何処行ったー、出て来て〜……」(泣)
探したけど、結局梅シロップは出て来なかったよ。炊飯器の横に家庭用よりひと回り大きいオーブンも増えてる謎。
私は一体何をしたんですか?
ー
クマのパンツ平常運転
神咲「クマのにーちゃんめっちゃ普通で逆に出した甲斐がないな」
クマ「隊長……僕の所属してる軍の隊長女の虎種の人だから、全身獣化する時洋服とか下着どうしてるか1回相談したんだ」
ハル「え゛っ!ウェルエル君嘘でしょ!?きききき……既婚者の隊長に相談なんて自殺行為!!!」
クマ「?普通に答えてくれたけどなぁ。パンツは消耗品だから破れやすいのか、子どもの頃はカボチャパンツにしてたって言ってた」
つばめ「神咲さん、上下分かれたパジャマないですか?私寒がりなんでこれはちょっと……ワガママ言ってすいません」
大輔(最近の若いのは謹みと言うモノがないのか?わからん)※呆れ顔




