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359話



「あれ?雄也さん???」



「よっ。……は良くないか。ご来店ありがとうございます?」



「あ、普通でお願いします」



「了解。デザイン担当する雄也だ……誰がハンカチ注文者だ?」



「私ですね。よろしくお願いします」



 ザッと全員自己紹介して、五月雨書店の店長の雄也さんと私はデザインの打ち合わせ。

 元々は画家として雇われたらしいが、忙し過ぎでデザイン関係にも駆り出されているらしい。

 コンスタンティンさんは布選びで、累さんもユリエルさんの分お願いした。皐月先生は私の手元を見てる。



「あー……神聖帝国のマイナーな菓子か?資料あるかな?これは直接作る職人も連れて来た方がいいな。俺もオーダーメイドのハンカチ注文初めて受けるんだよ。同席させて構わないか?」



「はい大丈夫です。コンスタンティンさん、おにぎりの具は梅干しとシャケと何がいいですか?炊き込みご飯のおにぎりも入れちゃいます?」



「うん。後は昆布の佃煮。胡麻入りで」




「はい。……俵と、三角と……丸も入れちゃおう……色がちょっと寂しいから、菜葉の混ぜご飯〜♪」



「うわぁ……くいてぇ…………。ねぇ?それでネクタイも欲しいかもつばめ。時間余ったらハンカチの次でいいから」




 おにぎり柄もクリティカルヒットしたのか、コンスタンティンさんはデザインお任せでネクタイの注文承りました。


 私が何となく書いたり雄也さんに説明するとあら不思議。素敵なおにぎりの絵が出来ている。

 プリント柄なので、書いたおにぎりを紙に拡大したり縮小コピーして一個一個原寸大の布の上に配置して行く。


「すまん、資料は後から届くらしいから……とりあえず、おにぎりのデザインに柄配置を決めよう。職人が同席するが、俺の質問とかアドバイスくれるくらいだから気にしないでくれ」



「はい。生地はコレで……」



 コンスタンティンさん、スーツ着る時のポケットチーフとしても使いたいらしいのでそれに合わせて柄配置。



「ポケットチーフはワンポイント刺繍にするのもアリらしいぞ?」



「プリントじゃなくて刺繍もアリなんですね……ソレにします。コンスタンティンさん、どのおにぎりにします?」



「やっぱ三角に海苔かな?」



「そしたら、焼き鮭も添えますか」



「いいな、それ。今日昼飯鮭焼いて貰おう」



「そのおにぎりの私も欲しいわ。ロジャーに同じデザインであげてもいいかしら?」



 了承したら、皐月先生は布選び。累さんは布を選び終わったので、お菓子のデザインから苺と生クリームのを選んで店員さんと柄配置を一緒に決めてもらっている。


 おにぎりのポケットチーフ、ハンカチ、ネクタイが終わって……まだ資料が届かないので、1階で既製品のハンカチや小物の物色。


 準備が整ったとの事で、また2階に戻ると見知った顔が。



「今度は料理長ですか?」



「持ち出し禁止レシピをハンカチの柄にするようなのはお前さんしかいないと思ったらやっぱりか。何が欲しいんだ?」



「え……わざわざすいません…………持ち出し禁止のレシピで作ったら不味いですか?コンスタンティンさんにあげたいんですけど」



「いや、コンスタンティン様が使うならいいだろう。他なら許可しなかったが」



 一応、料理長のレシピで鈴木商会に登録されているので本人が来たと。登録はしてあるが、鈴木商会でレシピの詳細知る人は殆どいないらしいよ。



「よりによって最中。……羊羹……汁粉……草団子……たい焼き……あんみつ………桜餅……」



「どら焼き、きな粉とずんだと餡子のおはぎに苺大福ですね」



「……………………苺大福。まぁ、いい。どうだ?描けそうか?」



「全然見た事ないのもあるので……写真のコピーはダメですかね?」



「駄目だな。本当は目にするのも普段は禁止にしてるくらいだ」



 レシピの右上に写真が載ってるんだけど、コピーは駄目らしい。



「あ、苺大福断面スパンと切るので、こんな感じですね。コンスタンティンさん、たい焼きどこ齧ります?」



「普段は背中から齧るけど、どうせなら餡子たっぷりのお腹にしようか?」



「じゃあ、両方で。齧ってないのもところどころお願いします」



「お前さんやりたい放題だな。中身見せるのかよ…………」



「不味いですか?」



「いや、いい。もう好きにしろ」



 料理長のレシピ神殿古語なんだー……。

 そっか、餅米は加工品じゃないと持ち出せないからもしかしてここら辺だと食べれないのかな?白玉粉本当にないかな???



「料理長のレシピってお餅作るところからなんですね。白玉粉使わないんですか?」




「読むなよ。いや、待て。今なんと言った?」



「お餅作るところからなんですねって……団子も餅と米と混ぜてるみたいですし」



「違う、その先のセリフだ」



「白玉粉使わないんですかって……」



「『白玉粉』?」



 切り餅は神聖帝国内でも極少量出回っているが、粉状の物はないみたい。そっか、白玉粉も餅粉もないのか。



「ひとつ聞いていいか?」



「はい、何ですか?」



「原産地から持ち出せないが……離れた場所でつきたてのような餅を食いたい場合、お前さんならどうする?」



「粉がないなら、切り餅があれば茹でますかね。全く同じにはならないですけど」



「茹でる…………あんな高額な切り餅をあえて茹でる。その発想は思いつかなかったな。切り餅は焼く物だと思っていた。つきたてはそのまま食うしな。餅菓子はかなりの贅沢品だからな」




 電子レンジあったらお湯入れてラップなしでチンで済むけど。てか、餅って高いんだ。

 料理長のお汁粉に入ってる餅は確かに焼いてあるね。


 揚げてオカキにしないのかな……もしかしたら、あの料理長が持ってる『極秘』って書いてあるファイルの中にレシピあるかも。



「コレでどうだ!」



「おー!いい感じです雄也さん。どうですかコンスタンティンさん美味しそうですかね?」



「今すぐ食べたくなるよね」



「次は配置決めだな。後はーーー」




 雄也さんが和菓子を無事に描き終わったところで料理長は帰って行った。お忙しいのにすいませんでした。


 その後オーダーメイド品の注文を済ませて、各々既製品を買ってから一旦私の自宅前で解散。注文したコンスタンティンさんのは王宮に届けてもらう感じでお願いします。




 屋上訓練は終わったのか、大輔さんはコンスタンティンさんに捕まってお昼ご飯を作りに一緒に帰るそうだ。買い物して帰るって。


 皐月先生はエルフ族大使館に寄ってから、累さんは仕事で使う品々を見て回ってから王宮の仕事場にそれぞれ戻るみたい。


 私は当初の予定通りおかず作ろう。



 



 ー夕方ー



「「「「乾杯」」」」



 お店貸し切りでした。料理は料理長が作ってくれるみたい。おー……前は私があのポジションだったから、何か新鮮。



「キン、炊き込みご飯は?」



「ございますよ。おにぎりにして持って来ました」



「料理長の名前『キン』さんって言うんですね」



「今は『金井』だな。下の名前は『金太郎きんたろう』だからそう呼べ」



 金井執事長の義理の息子らしいよ。ロジャーさんがカイザス国に移住する際に金井執事長の娘さんと結婚したとか。子ども2人抱えたパパだとか。そうだったんだ。



「子どもは金井家から取った養子だがな。もう成人してるし、手もかからん」



「いっつも料理の話しかしてなかったから、全然知りませんでしたよ」



「高い講師料を会長が払って下さったからなー……皆んなお前さんの技術を学ぶのに必死さ。俺もだが。そうだ、近々ロジャー坊ちゃん経由で切り餅が届くから、神聖帝国の甘味を見直そうと思ってな。水菓子(果物)はそのままだが、苺大福と汁粉をドコかに足そうかと」



 ロジャーさん『坊っちゃん』って呼ばれてるのね。いつもはロジャー様って言ってるのに。



「そしたら、精進料理の方ですかね?それとも、聖女の家系と皇家混合料理も足しちゃいますか。最中、たい焼き、どら焼きを餅入りとかにして小さめの1個足しても大丈夫な気がします。芋羊羹のもありましたけど、大体シャーベットとかアイスでしたよね出すの…………あんみつにアイスと団子乗せたら多いかな?」




「…………最中に餅入り?あんみつにアイス?」



 餅入りの最中って割とポピュラーだと思ったけど、違うのかな?

 もしかして、金太郎料理長クリームあんみつみたいなのも食べた事ないのかも。


 神聖帝国単体の料理メニューは殆ど料理長が考えてくれたから、割と私手を出してないんだよね。




「キンが料理の事でこんなに頭悩ませてるなんて私見た事ないわ。1番詳しい人だと思ってたもの」



「…………餅が気になるんだが。前に汁粉に入ってたのとはまた別なんだろう?」



「ああ、あれは片栗粉で作った白玉……餅の代用品です。似てますけど、やっぱり白玉とかお餅の方が美味しいですよね」




「片栗粉?お前さん餅の代用品なんて作れるのか?会長がわらび粉もないのにわらび餅が出て来たと言ってたっけか…………」





 結局私も料理提供側に回るいつものパターン。

 そして、ずっと作り方とか金太郎料理長と話すんだよね。コレだからプライベートの話が出ないんだよ。お互いずーーーーーっと料理の話。

 強いて言えば、食の好みとたまに出るけど、それも料理関係だと思う。




「こし餡あるなら大福もどき作りますか?」



「…………コンスタンティン様。汁粉じゃなくてもいいでしょうか」



「わざわざ私に聞かなくても、キンが好きに作りな。強いて言うならこの間つばめに鍋いっぱい食べさせてもらったから平気だよ?」



 苺もあるけど、他のフルーツも入れちゃおう。本当は白餡の方がいいけど、私はメロンの入ったのが食べたい。



「何で苺だけじゃなくてメロンとみかんを手にするんだお前さんは」



「フルーツ大福にしようと思って。本当は白餡の方が美味しいんですけど」



「『白餡』????????はっ!?白い餡か!!!!?」



 あ、やばい。天ぷら書いてあった日記に、「白色の餡を使った芸術のようなコンストラスの生菓子を一度でいいから食べてみたい」的な事書いてあったかも。練り切りあるなら、白玉粉あると思ったんだけどな?アレは白餡に白玉粉とか入ってる筈だし。



「キンの目つき凶悪だね?ますます人相悪くなるから、眉間のシワ少し伸ばして伸ばして」



「すみません……とりあえず、フルーツの大福だな。メインもまだ出してないのに甘い物でも皆様大丈夫ですか?」



「全然。私みかんの食べてみたいわ」



「…………寧ろ嬉しいが。コンスタンティン大丈夫か?」



「餡子食えるならいいや。大福なんて久しぶりだなー……最後に食べたのいつだ?」



「神殿を出た前の年です。その年は確か雑煮にして出しました」



「かなり前だね?良く覚えてるね流石キン」



「「「…………」」」



 待て、2人の会話がおかしい。金太郎料理長の年齢が多分相当上なんだけど。この感じだとかなり親しいみたいだし、金太郎料理長って何者なんだろう?



 ミルク餅にしちゃおう。

 鍋に牛乳と砂糖に片栗粉を入れてヘラで混ぜる。ラップの上に片栗を薄く敷いて、その上にミルク餅をスプーンすくってのせて伸ばして、餡子にフルーツ。

 キュッキュッっとラップごと包んで氷水につける。水が入らない様に気をつけてね。食べる時はラップに包んだままの方がいいかな。



「……お前さん、コレは餅ではないな」



「だから、代用品ですって」



「…………この間と味が違うが?」



「牛乳入れてミルキーにしました。甘い方がいいかと思って」



 みかんのは切ろうかな。包丁にかなりくっつくけど…………付かないな?金太郎料理長の包丁謎仕様なんだけど凄い。



「みかんの断面が綺麗ねこれ!」



「コレはコレで美味しいけど、やっぱりみかんなら私は白餡の方が好きかな?」



「白インゲン豆で今度作りますね。ロジャーさん切り餅ちょっと分けてくれるなら、もっとフルーツ大福っぽいの作れるんですけどね」



「コンスタンティン様は白い餡の方がお好きか?」



「いや、単体なら普通の小豆の餡子のが好きかな?練りきりも嫌いじゃないし……久しく食べてないな?」



「『練りきり』???」



 やっぱり練りきりあるんだな。金太郎料理の反応を見る限り今はないのか。残念。

 試食みたいな感じで作ったので、餡子もまだまだあるから、後でお汁粉にも使えると思う。私は自分の席に戻って酒盛り再開!



「金太郎料理長、メイン何ですか?」



「牛すき焼きだ。わざわざ焼き豆腐を仕込んで来たからな。沢山食べろ。ユリエル様は肉団子になります。先に玉子焼きと白魚の塩麹の焼き物を焼いてしまうので少々お待ち下さい」



「キン、すき焼きなら白いごはんも欲しい。この空の皿返すね?」



 結構な量の炊き込みごはんのおにぎりが消え失せてる不思議。金太郎料理長もビックリした顔してる。



「そんなに召し上がれたのですか?前はあまり希望も言って下さった事もなかったですし……どうされました?」

 


「うん。ほら、1人前じゃないと変に気を使わせちゃうでしょ?ひたすら連日大量の炊き込みごはんだけ出された時は流石に飽きたな。残したら逆に2度と出て来なくなるし。そこまで食事にこだわりないから、よっぽどじゃなければ普通に食べるよ。毎回『何食べたい?』ってわざわざ聞かれるのも答えるのも面倒臭いし」



「そうだったんですか……」



 作る方も大変だけど、食べる方のコンスタンティンさんも結構気を使って食べてたんだね。

 アレ食べないなー?とか、皆んなで食べたい時もあれば、1人でゆっくり食べたい時もあるけど、コンスタンティンさんの気分に付き合わせるのも悪いから時代と共に代わる食事提供者に合わせていたと。コンスタンティンさんは笑いながら話していた。



「外で食事なんて最近まで出来もしなかったから、中々いつもと気分が変わって楽しいよね。何より酒が旨いし。ありがとう、そこのドワーフ族。日本酒お代わりちょうだい?」



「あいよー!」



「私もお代わり欲しいわ。適当に見繕ってちょうだい」



「ちょい待ってなー!」




 焼き立てのだし巻き玉子を食べながら、やっぱり金太郎料理長の玉子焼き美味しいなーと思いながら、魚が焼けるのを楽しみに待つ私であった。




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