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340話



 片付けを済ませて、寝室に入る。少し話しをしてから神咲さんとユリエルさんは既に帰った。これからはクマさんとお話しをする時間だ。




「クマさん」



「グスッ……ふっう……お姉ちゃんギュッとして」



「うん、私もギュッとしたい」



 掛け布団を少し空けてくれたので、滑り込んで抱きつくとクマさんもヒシッと抱き返してくれた。あったかいなぁ。



「ズビィッ…お姉ちゃん。僕ね、ずっと兄弟が欲しかったんだ」



「うん」



「……折角『お姉ちゃん』が出来たのに……離れるのは嫌だなぁ……」



「うん。……クマさんと私の立場が逆だったらクマさんどうしてたかな?」



「僕とお姉ちゃんが……………うわぁぁあんっ!そんなの嫌だ!お姉ちゃんが直ぐ死んじゃうとか無理」



「うん。私もクマさんが直ぐに死んじゃうのは嫌だなぁ」



 向こうに行ったらクマさん死んじゃうとか。私も無理だよクマさん。

 まさか、そこまでして私に着いて来たいとも思わなかったけど……私が帰るのはクマさんの中では既にない選択肢だったんだろうな。



「僕どうしたらいいんだろう。それでも……それでも離れたくないって言ったら僕はワガママなのかな?」



「クマさん……?」



 弟のクマの愛が凄い。諦めてこの世界に残る選択をすると思ってたのに。お姉ちゃん予想外だよ。



「クマさんでもワガママ言うんだね。お姉ちゃん知らなかったよ」



「……ごめんなさい。ごめんねお姉ちゃん、困らせてごめんね……うわぁぁあぁぁんっっっ」



 大泣きしてるクマさんの背中を撫でながら、私はコンスタンティンさんが鈴木さんに言っていた言葉を思い出した。




『ーーー仮に攫って地の果てまで逃げても、誰かが何処までも追って来るだろ。特にお前みたいなヤツが』



 本気の言葉と捉えてなかった。私を追って誰かが来るなんて考えもしなかった。自分にそんな価値無いと思ってた。


 でも、少なくともクマさんは死んでもいいから私と共に行きたいと望んでいる現状を、現実問題を無視は出来ない。

 コンスタンティンさん辺りに頼んで私を死んだ事にしてもらって内緒で帰っても、クマさんは信じないだろう。私を追って何を仕出かすか分からない。


 困ったなぁ……帰っても帰らなくても、私はずっと苦しみ悩みながら過ごす羽目になる。


 私の中では、クマさんを連れて帰る選択肢はないに等しいけど、クマさん諦める感じ今のところ皆無だし。


 クマさんの気の済むまでこの家に引きこもって一緒にいる?んー…私が直ぐに病みそうだな。どうしようかな本当。



 今考えても仕方ないな。コンスタンティンさんに会った時に何か解決策がないかヒントだけでももらおう。







「クマさん、神咲さんの出立ギリギリまで頑張って考えよう。コンスタンティンさんと皐月先生とユリエルさんに日曜日会うから相談してみる。クマさんも何かいい案浮かんだら教えて。とりあえず、今日は休もう。明日も仕事でしょう?」




「ズビッ……うん、うん。」



「ほら、顔洗って歯磨きしよう」




 鼻を啜ったクマさんは顔を洗ったら涙が引っ込んだらしく、無事に歯磨きを済ませて2人でムギっと引っ付いて寝た。

 クマさんと寝る様になってから、羊サン湯たんぽの使い道がないね。






 次の日、お弁当を持ったクマさんは心持ちショボンとしながら仕事に向かった。




「ウェルエル君元気無いですね。何かありましたか?」



「ちょっとね。さて、大輔さんが来る前に明日用の餡子を作っちゃおう」



「了解です」









 調理器具は私のキッチンと3階の共有スペースで使っている物を借りて来た。



 1階厨房で洗った小豆をたっぷりの水で煮て行く。エグみが出るから2回煮こぼして、3回目に本格的に煮て行く。途中水が少なくなって来たので1回足した。



 小豆をミキサーにかけた後。

 ボールに水を少し入れて、上に目の細かいザルを用意し、小豆をザルに開ける。ヘラを使って小豆を漉すと、ボールに漉した餡が溜まる寸法だ。


 漉した餡を布巾に開けてから、てるてる坊主みたいにしてぎゅ〜っと絞ると『さらし餡』の出来上がり。



 晒し餡を鍋に移して、砂糖を加えて火にかける。砂糖が混ざって好みの硬さになたら塩を少し入れてまぜまぜ。バットに移せば『こし餡』完成。冷めたらラップして冷蔵庫だね。





「相変わらず凄い手間ですね。量も多いし大変でしょうつばめ様」



「手間か……でも、安上がりだし凄く美味しいよ」



 ハルさん的には煮こぼしたり、わざわざザルで漉す作業が手間みたい。


 スーパーでこし餡買えれば楽だけど、カイザス国には売って無いからな。獣人族はあんまり餡子食べないみたいよ。

 農家さんの話だと、大体買い付けに来るのは人族の人だって言ってたらしい。








「すみません、早く来過ぎましたね」




「おはようございます大輔さん。もう少し待ってて下さい。もう片付けだけですから」



「えっ!?あ…あの。私が片付けしとくので、良ければ3階に上がってて貰って下さい。直ぐに向かいます」




 片付けをハルさんにお願いして、3階の共有キッチンスペースに案内する。

 大輔さんからカールさんの手紙を預かったので受け取る事に。

 お茶を淹れて出し、手紙を読んでいるとハルさんが直ぐに来てくれた。



「ひとつ確認してもいいですか……間違ってたらごめんなさい。オリバー様がつばめ様のお兄さんですか?」



「はじめまして。オリバーの名は捨てましたので、これからは大輔と名乗らせて頂いております。以後良しなに」



「はははははじめましてっ!?第3警護隊所属のハルと申します!お会い出来て光栄でありますっっっ!」



 ビシッと敬礼してるハルさんに驚きを隠せない私。どうやら次期最高司祭と名高いオリバーさんでも、カイザス国の元第1部隊隊長でゴブリンのスタンピードではトップでエデン全体の総指揮をしていた大輔さんで有名らしい。



「凄い……ベスティア国の教科書に載ってる方が目の前に……今度帰ったら父さんに自慢しよう」



「そんなに凄い人だったんですか……」



「昔の話ですよ」



 履歴書を見ながら、ズラッと並んだ資格一覧と簡単な職歴を見る。軍に入隊とかは書いてあったけど役職とかは省いてあったな。

 本人に聞いたら、役職や移動含めて全部書いてたらキリが無かったから書かなかったらしいよ。


 料理免許と店舗販売資格は持っていて。

 中級魔道具使用免許(限定上級)、後は医療系の魔道具に、言語関係。その他色々。



「…………思ったんですけど、もしかして通訳の仕事とか出来ますか?」



「履歴書に書いてある通訳の資格範囲なら可能ですが、どちらを想定されてますか?」



「取り急ぎだとハイルング国ですね……後は私が臨時会議で担当予定のベスティア国です」



 カールさんからの手紙を開いてそのまま大輔さんに手渡すと、微妙な顔をされた。駄目かな?


 手紙には、ハイルング国の先ぶれが到着した旨と、王太子を含む団体が明日の午前中に到着予定。

 臨時会議前に内輪で食事会をするので、私の都合の付く日に料理と、料理説明の為に通訳をして欲しいと書かれていた。


 本当はカールさんが料理作る予定だったが事情により無理になったと……野放しに出来ない神咲さんですね。書いて無いけど察しました。

 ユリエルさんも出席予定だったが急遽キャンセルって書いてあるし。



 出席予定のミアちゃんが代わりに護衛と、心許ないので私の護衛担当を誰か付けて欲しいと書いてあったが、折角大好きなお父さんと食事する機会をミアちゃんから奪ったら可哀想な気がする。


 そのまま、手紙をハルさんに渡して読んで貰う。



「…………私も行くんですか?」



「ハルさんには料理補助兼護衛で大輔さんは通訳兼給仕みたいな立ち位置でお願い出来ればなと思っています。私がメインで料理するんでどうでしょうか?」



「つばめ様、絶対大輔元第1隊長の方がお強いですから。大輔様を差し置いて私を護衛と言うのはどうかと。通訳と給仕と言う肩書きとか………」



「護衛兼、料理補助兼、通訳兼、給仕……忙しいですね大輔さん」



「くくくっ………ええ、忙しそうですね。分かりました。引き受けましょう。ところで、私は採用で宜しいのですか?」



「あ、とっくに採用した気でいました。時間給の場合により食事やオヤツ付きになりますけど構いませんか?下手したら夜勤もあるので、シフト調整とかどうしましょう。まだ此方の生活にも慣れて無いでしょうし、コンスタンティンさんの身の回りのお世話もあるでしょうから、最初は都合のいい日にちや時間から出て来てもらう形で大丈夫ですかね?」



 私の早口の言葉に大輔さんは大笑いした。何か変な事言ったかな私?



「…ははっ……いや、失礼。本当、至れり尽くせりの良い職場に巡り会えた事を神様…お父様に感謝申し上げたい。そちら側では無くて私の都合に合わせていただけるなど、今まで類を見ない程の破格の待遇だ。食事は分かるが……くくっ…オヤツ付きなど聞いた事ない。失礼ですが、つばめさんとお呼びしても構いませんか?」



「ハルさんも3食賄いオヤツ付きなんで不公平かなと思いまして。市場調査に参加されるなら出勤日じゃない時の食材費もお渡ししますよ。呼び捨てでも構いませんし、出来れば敬語もなしでお願いします大輔さん」



「では、お言葉に甘えてつばめと呼ばせて貰おう。よろしく頼む。ところで市場調査とは何の事だ?」



 現在ハルさんには朝市の出店もそうだし、何処の食材が安くて美味しいとか色々調べてもらってるんだ。ご好意で。本当助かるよね。お給料払えないのが申し訳ないくらいだよ本当。



「いえ、私の方が色々良くしてもらってつばめ様には頭が上がりません。引越しの物品まで手配して頂いて本当助かりました」



「私も生活必需品など買って頂いたのだ。この年で妹が出来るとも思わなかったが、服まで買って貰う日が来るとは思わなかったぞ。あれもかなり驚いたが……そうか、貴方もつばめの洗礼を受けたのか」



 買ったお手入れ用品のお陰なのか、最近ハルさんの尻尾のモフみがいい感じなんです。ありがとう目の保養。



 その後は出勤日と出勤時間について。早速明日の朝から出て来てくれるそうだ。朝市の出店が終わったら、皆んなで農業都市に次の日の材料を取りに行く予定。



「コンスタンティンさんの朝とか昼ごはん大丈夫ですか?」



「元々お父様はそんなには手がかからない。お食事も今は纏めてストックをお作りしている。

 しかも、交代制を言い渡されてな。先客が1人いるんだ…私が言えば、そいつが喜んでかわってくれるだろう」



「大輔さんみたいな方がもう1人居るって事ですか?」



「ああ、私よりお父様の崇拝者だろう。年季が違うな」






 ちょっと待てよ?兄がもう1人居るって事かな!あ、違うのね。訳ありでコンスタンティンさんの所に居るらしい。

 待てよ、寝泊まりしてるって事だよね?コンスタンティンさんは自分の寝室あるけど、大輔さんはカールさんの部屋使うって言ってて……先客の方は何処で寝てるのかな?



「カール様が使っていた部屋を2人で使っている。あの方もそうだが、元々私もそれ程睡眠を必要としないので不便は無いな」



 1ヶ月くらい寝なくても全然平気らしい。毎日寝るなら睡眠時間も短いとか。



「夜勤し放題ですね。バイト掛け持ちしたくなったら遠慮無く言って下さい」



「それは助かる。最悪人体実験協力か魔力提供でも何処かでしようかと思ったが、大丈夫そうだな。なるべく料理がしたいが…そちらの都合がいい時で、つばめの財布が痛まない限りは出勤したいな」



「………来週からジャムを売る予定なので、もしかしたらずっと煮たり、瓶詰め作業する羽目になるかも知れませんよ?」



「ほー……つばめのジャムのレシピか?それは楽しそうだな。心が踊る」



 本気で言っていらっしゃるね。目がランランと輝いているよ…獲物を見つけた肉食獣の様だ。ジャムへの食い付き半端ない。




「ジャム煮た事ありますか?」



「昔はあるが、つばめのジャム程は発色などは良くないし出来上がりの安定感に欠ける。食事会で出た苺や桃のジャムは素晴らしかったな」



 煮た事はあるのか。ハルさんは販売予定の苺とりんごジャム作りマスター済みなので、大輔さんが加わってくれたら他の種類も増やせるかも?


 全くジャムを煮た事がなかったハルさんが、苺ジャムに対しての評価が厳しいユリエルさんの合格を3日でもぎ取ったので恐らく行けると思う。

 試作のジャムはほぼユリエルの胃の中とハルさんのご家族行きになりました。


 単価の安い果物でもう少し種類増やしたいんだよね。オレンジとかキウイとか。待てよ。いっそジャム以外も売ろうかな?人手あるなら可愛くラッピングしちゃう?



「つばめは何故動かない?」



「考え事してるみたいです」



「あ、すいません。大輔さんが居るならジャムの種類増やすか、他の物も売るか、いっそラッピングして売ろうか悩みまして」



「他の物とは具体的には?」



「同じ瓶商品ならカラフルなピクルスとか、オイル漬け?果物のシロップ漬けとか、ナッツの蜂蜜漬け。甘いもので攻めるならキャメル売れそう。寒いから解けないし。後は数量限定の瓶プリンとか保冷袋付きで売ったり。あ、店舗販売者用にバックヤードのドア開けておいてジャムのサンドイッチとか売ってしまうのも…いや、待て待て。3人居るならなんでも売れちゃうどうしよう」



「素晴らしいな。つばめの頭の中はどうなっているんだ?で、これから先の事も考えると何を売るのが理想的だ?私は1ヶ月休まなくても大丈夫だ。好きに使うといい」



「野菜農家さんとも懇意にしときたいのでやっぱり最初のピクルスですかね。本当はジャム販売落ち着いたら売ろうとハルさんと話してました。大輔さんは何作りたいですか?普通の食べ物と甘いものと保存食と。西地下街で売るので、匂いのある物や火を使う物、その場所で食べる物はお客さんに売れませんが、バックヤードからなら食べ物売れそうなんですよね」



 大輔さんは片手で目を覆って上を向いてしまった。



「大輔さんどうしたんだろう?」



「感動してる様です」



 どうした兄よ。何を感動してるのか妹に話して下さい。



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