334話
「何をしていらっしゃるのですか?」
「日向ぼっこです」
「そうですか…」
現在、鈴木邸のお庭に再びレジャーシートを敷いてクマさんを背もたれにして日光浴中。
風は無くても少し肌寒い気候だが、背中にクマさんの体温と大きめの膝掛け、午後の日差しのおかげで寒さは余り感じない。
カールさんは予定があるとかで、何処かに行ってしまった。
兄弟の親睦を深めるとかで残った大輔さんだが、突っ立ったままでレジャーシート前で若干困り顔だ。
私は今週の朝市で売る必要な材料と物品を書き出している。蒸し器は鈴木商会から借りて、材料はハルさんに明日お願いしとこう。
農業都市の農家さんなどから直接買い受けると、結構安いとかで近所の人に声をかけていい物を安く大量に買って来てくれるんだよね。
リアカーはまだレンタルしてるので、荷物を乗せて南門で材料の検査を受けてから私の自宅厨房まで運んでくれてる。
1週目は朝市で野菜の材料を揃えたが、2週目のスープからこのやり方にしようとハルさんに提案されたのだ。
私は輸送費などの人件費削減で、ハルさんは筋トレになるので双方利害が一致。
朝市で買うより更に安く済むので、スープよりも値段は抑えられると思う。
高い醤油とかお砂糖大量に使うと、一般的な朝市の屋台の食べ物の値段より肉マンはちょっと高め、餡マンはトントン。
朝市の必要な物を書き出したところで、保温瓶のマイ水筒に入れた緑茶を飲み、次は西地下街で売るジャムの方を書き出そうとしたら大輔さんがクマさんの横に腰掛けた。
そう言えば、クマさんと大輔さんは何か話していた様だが、私は耳に入っていなかったな?
「すいません、何の話してましたか?」
「獣人族の触れ合いについて話していました。ちょっと想定外なので、兄の扱いは徐々にでお願いします」
「?」
「お姉ちゃんと僕って、僕の方に合わせてくれてるでしょ?お兄ちゃんの姉弟ってあんまり身体くっつけたりしないみたいだよ」
「んー…なるほど。私も最初慣れるまでおっかなビックリでした。大丈夫、その内これが普通になりますよ」
クマさんに頬をスリスリされたので、私は手を伸ばして頭をナデナデ仕返した。クマさん頭撫でられるの好きだよね。
「……とりあえず、ウェルエルくんと獣人族流の挨拶から始めたいと思います」
「はい、頑張って下さい」
私はそう返事を返して、また必要物品の書き出しに戻った。
保温瓶の緑茶を飲み干し、必要物品も粗方書けたのでさて……2人が手持ち無沙汰だと今更気がついた。
「クマさんと大輔さんごめんなさい。暇でしょう?」
「僕は大丈夫、くんかくんか…」
「ウェルエルくんとお話しさせて頂いてますので、お気になさらず。失礼ですが、書き出した物を見せて頂いても良いですか?」
「はい、どうぞどうぞ」
紙をサラサラと流し読みしながら、ところどころ質問されたので答えて行く。
「なるほど、農業都市で材料を現地購入すると安く済むのですか……私はカイザス国だと大通りか馴染みの商会から取り寄せた物しか買った事が無いので知りませんでした」
おっと、ユリエルさんみたいなタイプだったのね。
前にカイザス国にいた時は王宮の寮と、高級住宅街住みだったと。凄いな…お金持ちだ。
「ふむ…………実はご相談があるのですが、宜しいですか?」
「どうしました?」
「軍に復帰も有りだと思いましたが、幾ら金で罪をある程度減らせても犯罪歴は残ります。恐らく出世が見込めないのです。もしかしたら入隊拒否かも知れません」
おぉふ…なるほど。前は軍の偉い人だったらしい。
「うわーうわー!?お兄ちゃん昔の第1隊長だったの?」
「今の第1部隊は王の親衛隊みたいなモノですが…ちょっと私の時代は違いましたね。王政も廃止されて解散したと聞きました。これから軍の方もかなり配置換えや仕事内容の見直しがあるでしょうね」
「昔の第1隊長って、軍で1番偉い人だよね?昔は番号の数が少ない程先鋭揃いだったってウルスラ隊長言ってた」
「ああ、ウェルエルくんはご存知でしたか。昔の話ですから…今入隊しても下からになるでしょうね。顔ぶれも変わっていて、軍で私を直に知る者も殆どいないでしょう」
大輔さんが思ったよりも偉い人だった事が発覚して、かなりビビりました。
「お父様のお世話もしたいので、良い就職先を探しているのです。良ければ、つばめ様の所でアルバイトなどいかがでしょうか?つばめ様に比べれば料理は嗜む程度ですが、ある程度は出来ますので」
大手の鈴木商会…と言うか鈴木さんに神聖帝国の神殿関係として嫌われているので、食品関係に携わる仕事がしたくても伝も無ければ他も断られるのが目に見えているので、実質当てが私の所しか無いらしい。
「コンスタンティンさんの所は就職と違うんですか?」
「お父様の身の回りの世話に関わる費用と私の生活費も出すと言われましたが………妹と弟が自立してるのに、私だけお父様の脛を齧るのはちょっと兄としての威厳が。妹に頼ろうとしてる時点で威厳も何も有りませんが、出来れば自分が好きな仕事に着いてみたいのです。少しの間でも構いませんし、せめて学園の寮に入るまででもある程度お金を稼ぎたいのです」
大輔さんは、カイザス国の高等学校を卒業しているが、規定が変わって1ヶ月強制寮暮らしと、一部の基礎学科を受け直さないといけないらしい。
入学手続きはコンスタンティンさんがお金でゴリ押ししてくれたので、私と一緒で来年度入学予定だとか。大輔さん同級生か。
学費はコンスタンティンさんに借金したらしい。財産は没収されたので、実質今無一文だとか。
就職先が決まるまではコンスタンティンさんが生活費を出してくれて、就職祝いと支度金で100万円貰う手筈だとか。
「それって…」
「そうです。お父様からウェルエルくんとつばめ様はどうしていたのかと聞いたら、その様にしていたと聞いたのでつばめ様の方を取りました」
「僕は、入学金とか最初の生活費はお父さんに出してもらったよ。僕の結婚祝い金を貯めてたのをベスティア国から出る時に丸々くれたから、それを使ったんだ」
入学してから強制寮暮らしが終わったと同時に速攻で飛び級して、授業をジャンジャン終わらせつつ高額アルバイトをして、ある程度お金が貯まったところで安定収入と身体鍛える為に軍のアルバイト一本に切り替えた様だ。
飛び級したけど、結局年齢制限のある授業や資格、免許取得などの為に2年生のまま在籍してたみたい。その方がまた入学金支払うより安く済むらしいよ。
「どうやら、弟がこの中では1番生活力がある様だ」
「みたいですね…」
「総資産はつばめ様でしょうが」
「コンスタンティンさんに比べれば、私の持ってるお金なんて大した額じゃ無いですよ」
「お父様と比べてしまったら大抵は大した事では無くなります」って言われてから苦笑された。おっしゃる通りです。
「大輔さんはこれから何処に住むんですか?」
「とりあえずは…カール様が使っていた部屋になりますね。あそこはお父様のお世話をするのに便利ですから」
ちょっと待って、あの殆ど何も無い部屋で生活するの?ベッドとタンス位しか無かったよ。
「よし、買い物に行きましょう」
「今日は夕方カール様が迎えに来るまでお暇を言い渡されましたので、良ければ共をさせて下さい」
「僕も荷物持つよお姉ちゃん。何買いに行くの?」
「大輔さん、生活必需品と洋服買いに行きましょう」
「………え?」
その後、私の欲望の赴くまま買い物三昧。
大輔さん人族にしては長身だから、ドワーフ族や獣人族用の店の方が良いかと思って大きめサイズの服屋さんがある通りや西地下街、更には大通りの店を梯子。
盛大に遠慮する大輔さんに「働いてから言って下さい」と心をエグるひと言で何回か説き伏せて、買い物続行。
「あー、スッキリした」
「……それは…良かったです」
「僕の毛に…あんな高いの……」
途中お狐様が居る美容関係のお店に寄って、シャンプーとリンスとボディソープ買ったんだけど……店内を歩き回っていたクマさんに使ってる入浴用品と毛並みを整える物等の商品の値段がバレた。
バレたので、潔く?開き直ってクマさんに軍の大浴場で使ってくれと新たに色々買い与えた。ふはははは。
高級ブラシだけは流石に辞めてと拒否されたんで「うん、いいよ」と、言っておいた。
代わりに大輔さんにクシを買ったから大丈夫、満たされたよ。
大輔さんは迎えに来たカールさんの馬車に乗り込み、大量の荷物と共にコンスタンティンさんの居住区に帰って行った。
さて、私も皐月先生が帰って来たら自宅に帰ろうかな。




