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331話




 ベッドの上でクマさんを背もたれにしたままで話を聞いてもいいと言うので、そのままお話続行。

 皐月先生とカールさんはベッド横に椅子を持って来て腰掛けて準備は整った。




「魔力暴走の症状自体は、何も珍しい事じゃ無いのよ」



「……そうなんですか?そう言えば、保健体育の教科書に載ってた気がします」



「そうなの。ただ、つばめさんの場合は時期がちょっと違うわね。普通は3歳前後の産まれたばかりの子とか、思春期に入った時に身体が急成長した影響でなる場合があるわ。恐らく、つばめさんがかなりの魔力保持者だからだと思うのよ。厳密には診断名は下せないけど、魔力暴走と似た症状が出ていると言った方がいいわね。コンスタンティン様も、健康診断の時に測定するけど…医療用魔道具を壊すくらい乱してしまう事が度々あったわ」




 医療器具を壊しながら毎年健康診断に臨んでいたんですねコンスタンティンさん。




「魔力暴走の症状は人それぞれだけど、つばめさんは『内向型』に当てはまると思うの。周りの人を傷付けたく無いと思う子に多い症状ね。ウェルエルのも教えてあげてもいいかしら?」



「うん、いいよ。僕は『攻撃型』だったね。イライラすると、力が入り過ぎて物を壊したり…よく、家のドアノブ壊しちゃってた」



「ウェルエルは我慢強い子だから、物や人に八つ当たりしないけど…我慢するのも良く無いのよ。そう言う子は身体をなるべく動かしてイライラを別の事に向けるのをオススメしてるわ。獣人族には『攻撃型』の子が特に多いわね」



 私の場合は不安を取り除いて、なるべく本人の好きな様に過ごす事が望ましいと皐月先生は話してくれた。



「攻撃型と違って目に見え辛い症状だから、ある日突然感情が爆発する事があるのよ。ストレスをなるべく貯めない様にが基本だけど、そう言う時って中々自分では分かりづらいわよね。症例は少ないけど、高魔力保持者の大人なら多少乱れる事はあるのよ……………つばめさん、カールと何を話してたのかちょっとだけ教えてもらっても大丈夫かしら?」




 私は……何の話をしてたんだっけ?確か…。




「確か……アドバイス?私が立ってるのが不自然?的な事をカールさんに言われた気がします」



「カール、どう言う意味?大丈夫よ、ちゃんと魔道具で数値を見てるから危なくなったら止めるわ。ウェルエルはつばめさんをもう少し抱きしめてあげて」



 クマさんの両腕がお腹に回されたので、私はもふもふしながらカールさんの話を聞いた。

 


「………『聖女召喚』や『渡り人』として此方に来たのなら、恐らく長くは生きられない筈です。私は、1人だけ異世界人に会った事がありますが……その少女は1年もせずに死んでしまいました。神聖帝国に500年前に召喚された『聖女』の称号を受けた方だ」




 富士山大好きの慈悲深い聖女さまか……コンスタンティンさんの禁書庫に伝記があった。




「でも、コンスタンティンさんは、私は女神経由で来たから身体の作りを変えてこちらに来たって……」



 カールさんは首を振って私の言葉を否定した。



「………………ハイルング国に壁画がありますが………………女神様は…今いない筈です。貴方は女神様より遣わされた異世界人とは……私は思えないのです」




「…………………」





 じゃあ、何で私今ここに居るの?





「つばめさん、少しウェルエルを撫でて何も考えない様にしてちょうだい。そうそうその調子よ」



「とうっ!」



 腹に回されたクマさんの腕を目掛けて、顔面でスリスリしてやった。顔いっぱいフローラルな香りに包まれて落ち着く気がする。


 クマさんにうしろからのし掛かられて、頭とうなじに毛を感じるので、多分クマさんも私にスリスリしてる。ちょっとくすぐったいかも。



「はい、いいわよ。そもそも、『聖女召喚』と『渡り人』と『女神経由の召喚』?があるのよね。詳しい違いとか何かあるのかしら?」



「『聖女召喚』並びに『勇者召喚』は『生け贄』を使います。今は世界協定で禁止されていますが、昔はそんなに珍しいものでもありませんでした……成功例はかなり低いみたいで、眉唾ものの話しも有りましたが。500年前にエデンで『聖女』が、1000年前にヴァニア大陸で『勇者』が召喚されている筈です。その前は記録はありませんし、長らく現れていなかったんだと思います」




「魔大陸のスライム刑を受けてる人が異世界人だって言ってましたコンスタンティンさん」



「………きっと表には出て来なかったんでしょう。ハイルング国でも何回も試したと伝わっていますが、成功しなかったみたいです。後は『渡り人』ですが、これは空から突然降って来るらしいです。それも、長らく確認されていないし…女神様が遣わした異世界人と違って、体を作り替えて降って来る事は無いので、長く生きられない」




「お姉ちゃん僕の上に降って来たよ?」




「えぇっ!!私クマさんの上から降って来たの!?初耳なんだけど………クマさん怪我しなかった?」



「お姉ちゃんはいっぱい傷があったけど、僕は大丈夫だった」



 マジか。知らなかった。



「コンスタンティン様はつばめさんは『次元の裂け目』に迷い込んで此方に来たって言ってたわよ?魔力が無いと言うか、魔道具が使えない世界から来たからって確か説明を受けた気がするわ」



「次元の裂け目は…開かない筈です。確か主が塞いで、もう開かない様にしたと言っていました。開けたら直ぐに分かります…空間に亀裂が入ってポッカリそこだけ開く様に、不自然に開いているらしいのです。壁画には黒い裂け目から稲妻の様なモノと共に『渡り人』がそこから落ちて来ると書かれていました」




「稲妻?お姉ちゃんが降って来た時はキョロキョロしたけど…別段何も無かったよ???」



「そんな事が王宮内で起こったら、流石に他の誰かも気がつくと思うわ?」



 残るは女神経由だけど…カールさんはちょっと言いにくそうにゆっくりと話し始めた。



「その…女神様から遣わされる異世界人と『聖女召喚』、『勇者召喚』も似ている部分があります。壁画には贄を捧げて魔法陣から異世界人が現れる様子が………ありました。恐らく元々同じものだったのかも知れません。元は『渡り人』と『女神様の御使い』としてでしか異世界人は現れなかったんだと私は思っています。術式自体は殆ど一緒の様ですし」



「………私はどうやってこちらの世界に来たんでしょう?カールさん、結局誰が焼いたパンケーキを食べたんですか?」




「……………」




「カールが言えないって事は恐らくコンスタンティン様だわ。全く、何がしたいのかしら?」



「言うなと命令された訳じゃありません。しかし、元の世界に帰るなら…コンスタンティン様同様、私もつばめ様が知る必要は無いと思っただけです」



「お姉ちゃん故郷に帰るの?」



「あ……うん。迷ってるの…」



 正直言うと、何で私が今現在ここにこうしてクマさんをモフリながら存在してるのも気になるけど…はぁ〜……まさかコンスタンティンさん私に嘘教えたのかな?もう、訳分からん。

 何か昔は高魔力保持者の『番』になれるから異世界人よく頻繁に拐われたってコンスタンティンさん言っては筈だけど……カールさんは知らないのか?もしかしたらもっと前の話なのかも。んー…分からん。









「お姉ちゃん故郷に帰るなら、たまにご飯食べに行ってもいいかな?」




「「…………」」



「…え?」



「僕お金貯めて会いに行くから。お姉ちゃんの故郷?『異世界』ってどこら辺にあるか教えてくれる?お姉ちゃんも会いに来てくれると嬉しいけど駄目…かな?」



 会いに行ける距離なのかな?私は再びカールさんのほうを見た。首を振っている……。



「………行ききするのは難しいでしょう。しかも『生け贄』が必要になります。それも……成功するかも分からない」




「『生け贄』って何を『生け贄』にするの?僕のお給料で足りるかな?何回やればお姉ちゃんに僕は会いに行けるの???」




「………ハイルング国は100回程行いましたが、全て失敗してます。貴方がつばめ様を呼び出すとしたら、かなりの歳月を必要とするでしょう。恐らく、1度帰ったら今生では逢えない。仮に成功して『異世界人』が召喚されたとしても、それがつばめ様だとは限らないのです。それと、『異世界召喚』は世界協定で禁術指定を受けています。術式を発動したら貴方が犯罪者になってしまう」




 今度はクマさんの二の腕顔をうずめる。そっか…帰ったらやっぱりクマさんに2度と会えないのか。



「サミュエルがどの様にして、魔大陸の悪魔やつばめ様を返すか分かりませんが、私が知る限り異世界人が帰ったと言う話は聞いた事はありません。帰ったと言う明確な確認方法も分かりませんし……我々にとっては未知の世界です」





「僕………どうしよう?そしたら、僕もお姉ちゃんの故郷に一緒に行けないかな?折角『お姉ちゃん』が出来たのに、お別れするのは寂しいよ」




 弟のクマが優しすぎる件。

 私はクマさんを日本に連れて行くのを想像した………………………ポジティブに考えるのは無理な気がして来た。

 熊になったり、人になってもケモ耳付いてるとか。出身も確かじゃ無いクマさんと一緒に果たして暮らして行けるだろうか?


 この星の寿命がどれくらいか分からないけど、コンスタンティンさんの話ぶりからして…100年200年じゃ無い気がする。


 私自身も向こうに帰って…普通の生活が望めるだろうか?




「お姉ちゃん、泣かないで。僕も何か泣いちゃう…てか、泣いてる」



「私、向こうに帰ってもいい事無い気がして来た…グスンッ…でも、こっちに残っても不安だし……」



「つばめさん、何が不安なのか私に話してちょうだい。話すだけでも楽になるかも知れないわ」



 さっき頭の中で考えていた…クマさんや私が日本で普通の生活が出来ないかも知れないと思った事。こちらに残って『異世界人』として果たしてやって行けるかの不安を洗いざらい話した。




「僕向こうに行ったら珍獣扱いだね。多分観察されて、死んだら解剖とかされちゃうかも」



「つばめさんとコンスタンティン様ってそんなに寿命長いのね…なるほど、確かにそれは不安にもなるわ。異世界人の知識はまぁ…余り気にしなくてもいいと思うの。異世界人より遥かに危険な人なんて結構な該当者がいるわよ。私やコンスタンティン様に、カールだって危険よ。ユリエルが世界樹の国を出た時は全世界が警戒したもの」




 皐月先生は神聖帝国滅ぼせる的な事言ってるし、コンスタンティンさんは何となく分かるけど…カールさん危険人物なの?てか、ユリエルさん全世界の人から警戒されたとか初耳なんですけど。




「昔はやんちゃだったのよカール。危なすぎて一時期お仕置きでダンジョンから出されなかったくらいだから。聞いた話だけど、ユリエルなんてまだ可愛らしいものだったわ」



 そーっとカールさんの方をみたらニコリとされた。そうは全然見えないな。



「カイザス国建国前に首都クリスタ周辺を焼き払って…とか聞いたわね。私が見た時は更地になっていたから、どんな状態か知らないのよ。今の内側の城壁にポツンと王宮があるだけだったわ。ね?それに比べれば、つばめさんなんてお仕事キチンとして、美味しいお料理やお菓子とか作ってるだけですもの。私からしたら無害に近いわ」



「そうです。皐月なんて神聖帝国の神殿都市を壊滅状態にしてから道すがら暴れ回ってカイザス国に亡命したらしいですよ?その後、自身の研究データや神聖帝国の裏の話を論文に掲載したので…神聖帝国が大打撃を受けた位ですから、それに比べたらつばめ様の存在なんて大した事無いですよ。仮にこの先つばめ様が何かしたくなって国が1つ滅んだとしたら、代わりの国がまた出来上がるだけです。貴方が気にする事では無い」




「私は気にしてません」的な事を付け足して、カールさんは話を締め括った。ガクブル。

 経験者は語る的な話しだったけど、もうコメントしづらくて何も喋れないよ。若干クマさんの腕に力が入った気がした。


 ビビったのは私だけじゃ無いっぽい。もふもふしとこう。もふもふ大事。



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