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329話



「別に俺は今のままでもいいと思うぞ?もぐもぐ」



 1人1枚分のパンケーキが焼けたところで、天ぷら屋さんならぬパンケーキ屋さん開店である。



「いや、でも不便じゃ無いですか?」



「儂は堅苦しいのは嫌いなんで、別に気にせんがな」



「俺も。普段は大皿料理から自分で好きな量取ってから下げ渡してるな。別に給仕がいなくてもこんな感じなら不便じゃ無い」



「下げ渡すって何ですか???」



 レオンさんの所は、偉い人から順番に食事を盛ってからその下の人に食事を与えているらしい。

 ベスティア国は色んな獣人族が居るから食事の仕方も多種多様だとか。


 国の正式な食事の作法は、王様の食事の仕方に合わせるのが習わしみたいよ。


 鈴木邸の料理人さん達とメニュー決めてた時は盛り付けの指示が各国何か違うなとは思ってたけど、どうやって食べるかとか深くは考えなかったよ。

 





「つばめが料理担当の時は…まぁ、好きにしてくれと俺は言いたい。前回の鈴木会長主催の夕食会の時はビックリしたが。まさか、立食式みたいに好きな料理選んでから席に座って食べるとは思わなかったが……よく考えたら、各自好きな物気にせず食べれるからいいんじゃ無いか?種族がごちゃ混ぜだったのもある。今回もそうだ」



 ドワーフ族は酒がしこたま飲めるし、獣人族は肉が食えるし、一部の人族やエルフ族は逆に肉や酒もダメな人は入って無い物を食べたり飲んだりすればいい。


 好きな味付けも違えば、甘いのや辛いのも調味料で各自調整出来るから食べる方としては楽だと。



「そうですね……ハイルング国だと、素材の味を生かすと言う形で食事が出て来ますから、普通は料理に後から手を加えるなんてしませんでしたね………はぁ……」



「どうしたんですかカールさん?」



「カイザス国の料理に慣れてしまった私がハイルング国の料理人が作った食事を食べるのかと思うと………」



 決して不味くは無い。不味くは無いが美味しくも無いと。


 カールさんがこちらに出て来た当初はこちらの料理が食えたもんじゃ無いと思っていたが、もう慣れしまったので今度は逆にハイルング国の料理では物足りない。




「基本は食事は常温もしくは少し冷たくして出されます。それは温かいと食材本来の味が分かりづらいからです。野菜は基本生で、味付けは少量の塩ですね……後は茹でたりスープにしたり。炒める、焼くと言うのは無かった気がします。揚げ物もありませんね」



 なんかその料理、身に覚えがあるよ?王宮の客間で出されてたご飯はハイルング国基準だったのか!ワザと冷まして出してくれてたのね。あれは優しさだったのね。


 カールさんに王宮で食べてたご飯を説明すると…もっと質素と言うか、味付けもそのままか、本当に少量の塩のみなんで多少カイザス国流にアレンジされてたっぽい。食事量も人族より少ないらしい。カボチャ生で食べるんだ。凄いなハイルング国。



「栄養足りますかね?」



「今思うと…製菓技術は結構ありましたね。パンもそうです。基本エルフ族は余り食事は必要としませんから、少量の野菜に豆とたまに魚など。パン、お菓子と紅茶を嗜めば死にはしません」



「その代わり、腹いっぱいになる事も無くなるがな」



「じゃあ、ハイルング国に行ったらカールさんがご飯作るしか無いですね」



「ふふっ……」



「いや、つばめ…あのなぁ。さっき自分じゃドアすら開けないって言ったろう?料理なんてさせてもらえる訳無い」



「儂…厨房になんぞ入った事無いぞ?」



「フィールドで肉焼く位はするが、流石の俺も料理する所は入らせてもらった事無いな。てか、ベスティア国だと厨房に行くって選択肢が無い。自分から厨房に行くなら料理人呼び出す」




 あ、そうかカール国王さまだもんね……いや、でもあの冷めた料理を体験した身としては、流石に可哀想だと思う。



「よし、自室にアイランドキッチン作っちゃいましょうカールさん。料理やお菓子作りは趣味です趣味。それか、ベスティア国に習って王様になったカール国王さまに食事の作法も料理も合わせて貰いましょう」



「ふふっ…くくくっ………ああ…駄目です……くくっ……可笑しい……。ちょっと失礼…………ふはっ……こんなに人前で笑ったなど、いつぶりだ?皆無だな……くくくっ………」



 カールさん笑いすぎて息できないってよ。

 カールさん的には大爆笑してるらしい。全然そんな感じに見えないけど…プルプルしてるように見えるだけだ。



「でも、健介さんの国の偉い人達って料理とかしてるんでしょう?大輔さんはカールさんの後任ですし、かなり手際良かったですよ?」



「『聖女の家系』は特殊だからな……しかし、ユリエルを伴侶に迎える気なら確かにハイルング国の料理改革は必要かも知れん」



「……くくっ……それは困る…ふふっ……」



「無理して喋るなカール様、ほら酒でも呑め……駄目だ悪化した!儂の注いだ酒が飲めないって言うのか!」



「……やめて下さいよ……まさか、くはっ…ドワーフ族に酒を注いで貰って心配される日が来るとは……あー、可笑しかった。いただきます。これは美味しいですね何処の銘柄ですか?」



「儂ももう呑めないと思っとったが、150年物のブランデーの古酒だな。大輔が隠し持ってたらしい」



 その後、マティアスさんとカールさんは酒の話に花を咲かせていた。



「もしかして、100年や200年以上経ってる酒は売れますかね?フォーゼライド国で買い取ってくれませんか。恐らく国を移す時にゴロゴロ出てくる」



「ふぉーっ!!!!?欲しい、それは欲しいぞ!」



「エルフ族が作った物ですが?大丈夫ですか?」



「誰が作っても酒は酒だ!で、いつ手に入る?何だったら飛竜で取りにーーー」



 マティアスさんの食いつきぶりに若干引き気味のカールさんは、ちょっと試飲用に幾つか取り寄せの為に日にちを調整してみると言って話を締めくくった。



「今日はもう解散致しましょう。つばめ様とレオン国王は残っていただきたい」



「つばめ、今日もご馳走。気が変わったら料理人としてハイルング国に来てもいいからな?おやすみ」



「また酒の席は呼んでくれよー」



 パンケーキを食べ終わった2人が出て行ったけど、マティアスさんは酒樽を担いで出て行った。これからまだ呑むんだね…流石酒好きのドワーフ族。





 2人が出て行ったのを確認してから、カールさんは話し始める。






「国に帰るかも知れないと主から聞きました。本当ですか?」






 国って……日本って事か。そうか、コンスタンティンさんカールさんに話したのか。




「えぇ……正直迷っています」



「……そうですか。いつになるか分からないと言ってましたが、実はお願いがあるんです。少しだけレオン国王の話を聞いてくれませんか?」



「レオンさんの?どうしたんですか?」



「実はなーーー」




 ベスティア国は、長年文官の育成に力を入れてその努力の甲斐あって国が上手く機能してるらしい。



「昔は力こそが全てと言って来たが、時代の流れが変わったんだ。いい事もあれば…その弊害も出て来た。国王決定戦の廃止を進めているが、その後が問題なんだよなー…」



 約10年に1度の国王を決める大会だが、その闘技場の運営をどうするか国で揉めているらしいよ。現在は軍の演習場に使っているらしい。



「国営にして、税金から維持費を出してもいいが…全く使い道が無い。朽ちるのに任せるにも、場所が王都にあるんでなぁ。解体するのも勿体ないし何かいい案無いかなと思って」



 作りは知ってる。写真で見た事あるけど…アリーナとかコロッセオみたいな感じだったかな?



「コンサート開いたり、スポーツの競技場にしたり、訓練所、観劇にイベント開場。全部でも良いと思いますよ。日替わりでもいいですし、周りを整備して公園にしたりマラソンコースにしたり学校や企業に貸し出したり……後はお祭りの時とか便利そうですね。あそこ屋根も付けられたら雨も防げそうですし、何なら外壁に絵でも書いて観光スポットにして見学ツワー組でも………すいません、笑わないで下さいよ」



「くくくっ…………」



「…俺は笑って無いからな。笑いの沸点が低くなったカール様だから。まさか、そんなにスラスラ出て来ると思わなくて………とりあえず詳しく聞いてもいいかな?メモを取らせてくれ」



 レオンさんに待てと言われた。ここには筆記用具の類は持ち込んで無い。



「あ、カラオケ大会とか楽しそうですね。あんな広い所で歌ったきっと気分いいだろうなー。それとも、施設が広いのでスタンプラリーとか宝探しとか。いっそ夜に肝試しなんかしちゃったりーーー」



「待て待て待て。メモ!誰かメモとペンを!ひとつひとつ説明を!」



「説明で思ったんですけど、大規模な就職説明会とか…軍の職業体験とかいいと思いますよ」



「ふえるー!!!」



「大丈夫です、メモは取らなくても。私が覚えててあげますから。と、言うかまた日を改めてにしましょうか。多分つばめ様がひとつひとつ説明してたらどんどんアイディアが増えて朝になってしまう」



 レオンさんもベスティア国から来て疲れてるだろうから、今日はゆっくり休んでくれと言われて「また今度な!」と、言ってから部屋を出て行った。



 残ったのは、カールさんと私。


 片付けしながらカールさんの食べるスピードに合わせて特大パンケーキを焼きつつ、居残りである。何だか人がいなくて急に静かになったなぁ。






「カールさん私の知識は、この世界にとって危ういものでしょうか?」




「そうですね……………今の私には分からないとしか答えようがありません。それを決めるのは恐らくもっと後の人間達でしょう。我々では無い」



 人は変わるし、時代も変わる。その時々で評価など、それこそ人によっても感じ方や考え方も変わる。




「私は、ユリエルをちゃんと愛してるつもりでいました。しかし、与えられた本人やつばめ様からしたら私の愛など『欠けている』モノに捕らえられた。良かれと思ってやっていた事が裏目に出る場合も有ります。周りの評価と言う物は、中々自分では分かりづらい」




「……………」



「正直に言うと…今でも死にたくなりますよ。ユリエルにとっての愛は私にとって全てと言っても過言では無い程ですからね。エルフ族の本能とも言えるこの衝動と戦いながら、頑張って生きて行かねばならないと思うと………胸が締め付けられて苦しいのです」



「………すいません」




「でも、生きると決めたのは私自身だ。この苦しみの先に、もしかしたらまたユリエルの愛情を再び手に入れらる可能性が残っているなら……もう少し頑張って見るのも良いのでは無いかと。それを私に教えてくれたのはつばめ様だ」




 違う価値観、考え方。受け入れるもそれを吸収するのも本人の自由。

 カール様が生き残ってハイルング国の王になると決めた未来の先に、人々の幸せや苦悩や国の滅亡がかかっていてもそれは私の責任では無いとカールさんは言ってくれた。



「今のハイルング国王太子が王になったとして、本当に滅亡するかは分かもわからないのです。もしかしたら、私より国を上手に治めて奇跡でも起こったら国を発展させる未来が待っていたかも知れません。でも、未来など誰も分からないでしょう?つばめ様の知識を生かすも殺すも本人達の自由なんですよ。全てを貴方1人が背負う事はない。とりあえず、私は部屋にキッチンを作るか、寝所の横に厨房を移動させようかなと貴方のアドバイスでやってみようかなと考えて…くくっ…」



 常識破りな知識で、誰も思いつかない様な案だったが、カールさん的には悪くないなと思ってくれたみたいだ。


 恐らく、家臣たちの反発もかなりあるだろうと…身の回り全て他人に任せている立場の人間が、趣味と言えど料理するなど普通は思いもよらないらしい。そっか、趣味で料理は無しだったのか。



「王になったら、私が法律ですからね。文句の有る者は私以上か、私が食べても良いと思う料理を作れと言ってやりますよ。ハイルング国の伝統料理が廃れるも発展するも、私の料理を食べた者達が決めればいい。需要が有る方に自然と傾くでしょう。誰も私の納得出来る料理を作らないなら、自分で作れば良いのです」



 カール国王さま、自炊するってよ。

 ユリエルさんは少なくとも、賛同者になると思います。



「それと、私からつばめ様にアドバイスがあるのですが聞いていただけますか?」




「はい、なんでしょう!」



 私は背筋をピーンと伸ばして、カールさんのアドバイスを聞く事にした。カールさんらアドバイスなんて……な…何だろう?

 私は片面焼けたパンケーキをひっくり返して、カールさんの言葉を待った。




「私は、つばめ様がどうやってこの世界に来たのか不思議に思っていたのです。どうして今ここに、こうして立っていられるのか貴方はもう少し自分自身を疑問に思った方がいい」






「え???」





 カールさんの言葉を聞いてーーー。





 私の皮膚が鳥肌がを立て、頭の中で何かがグズリと動いた気がした。


 




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