327話
海老だけだと寂しいかなと思って、先に野菜天ぷらを揚げる事にした。
大葉、アスパラガス、オクラ、カボチャ。
昆布出汁の天つゆと大根おろし、塩で食べてもいいしマヨネーズや唐辛子オイルなど好きに使って食べてもらった。
大輔さんカツオが食べられないから、花鰹で出汁が取れないのが残念です。
作業工程食い入るように見ているので、途中から野菜切って貰った。助かります。
「カボチャ揚がりましたよー」
「アチチッ…これも中々。」
「酒が進むなー。大輔何だか1人だけ料理見学会みたいになって無いか?儂も面倒だからそこで食べたい」
大輔さん、椅子とテーブルをアイランドキッチンの前に用意して、野菜の天ぷらを揚がった側から1番に食べている。
結局、長テーブルを用意して、皆んなで並んで座って食べる事になった。気分はまさに天ぷら屋さん。
「ちょっと、待っててもらってもいいですか?物品取ってくるんで」
「はい、かまいませんよ。それでは他の料理を粗方食べてしまいましょうかね」
………カールさんって凄い食べるんだと始めて知った今日この頃。「今お腹何分目ですか?」と、聞いたら「なんですかそれは?」と本気で聞き返された。生まれてこの方、お腹いっぱいを経験した事無い人種らしい。
ユリエルや健介さんより上がいると思わなかったよ。
皐月先生もお酒無限に入る胃みたいなので、長生きの人は凄いなと思う。
野菜厨房に向かうと、料理長にまた来たのか今度はどうした的は事を言われた。
「揚げ物用のバッドと網が欲しいんです、小さめの」
「揚げ物用の小さいの?ちょっと待て……………コッチか、もっと小さいのはこれだ」
「んー……これより小さいの無いですよね?」
「無いな」
私の中の理想は文庫本サイズだが、ハードカバーサイズで妥協しよう。
1セットじゃ無くていっぱい欲しいとお願いすると、10セット渡してくれた。ありがとうございます。
「そんなに沢山何に使うんだ」
「………揚げ物?」
「まあ……また今度お前さんには聞こう。今はお客様をお待たせする訳には行かないからな」
よっかったー。料理長に説明を求められると事細かに説明どころか、実際に作って食わせろと言われるので今じゃ無くて本当良かった。
急いで密談用の部屋に戻ってバッドと網を食洗機に突っ込み………何か人が増えてる?と、言うかチョイもふが増えてる?
「お、噂の料理人だな。遅れて済まなかったな。俺はレオンと言う者だよろしくな」
「よろしくお願いします。つばめと言います」
頭の上には丸みを帯びたお耳に、尻尾の先にちょっとフサッとした毛が生えて……ライオンかな?
長テーブルの真ん中に鎮座したレオンさんは、どうやら腹ペコらしい。
どうも、ベスティア国から急いで来たとかで、3時間前に鈴木邸に到着して今まで休んでいたそうだ。
書類の束を見ながらカールさんに色々質問していたので、天ぷら屋さんは一回閉店して、肉料理を先に出そうと思う。
鶏肉たっぷりのホワイトシチューをおすすめすると、早速食べ始めた。
実はこのキッチン、コの字型になってコンロも洗い場も2つある。食洗機も2台だしね。冷蔵庫も肉と野菜で1台づつに分けている。
肉と野菜料理を分けるためでもあるし、単純に提供人数が多い場合は補助で何人か人が入れる様になっている為だね。
取り置きしていたローストビーフサンドも出して、お次は豚の香草焼きをオーブンで再度温めて塊のまま置いて、好きな量切り分けて食べて下さい。
「この白いの旨い!……このサンドイッチ旨い!肉の塊テンション上がる〜♪」
お肉料理は気に入ってくれたみたいで、食洗機から揚げ物用バッドセットを取り出して、空いたお皿をまた食洗機にセット。
それでは再び天ぷら屋さん開店である。
大葉、玉ねぎ、レンコン、にんじん、さつまいも、ナス、海老、海老、海老。長ねぎ、海老、海老、海老、海老、海老。半熟ゆで卵、鶏肉。
「すいません大輔さん、もう海老の在庫切れですって」
「残念です」
この異常な海老の数はマティアスさん以外が海老の天ぷらにハマってしまった所為である。特に大輔さん。
今日はひたすら桃を剥くのか、ひたすら海老を天ぷらにする日なのかも知れない。短調作業の連続で、この密談に料理人として参加した事をちょっとだけ後悔した。特に海老。
先週も朝市のスープ製作で小さめの海老の殻向きずっっっとやってたんで、飽きてしまっていたのもある。
バッドに網をセットして、1人1セットづつマイバッドを使ってもらった。その上に揚がった天ぷらを乗せて行く。
揚げたて天ぷら美味しいよね。もう待ちきれなくて、大輔さんとカールさんに海老の殻剥き付き合って貰った位だ。
取った頭はよく揚げてから提供しました。これは特にレオンさんが気に入ったらしい。ずっとバリバリ言わせて食べてた。
半熟ゆで卵と最後にレオンさんと健介さん、マティアスさんにかしわ天を揚げたら天ぷらは終了。
ついでに豚と牛串カツを揚げさせてもらって、揚げ物は無事に終了した。
よく手を洗って、さて次は何をしようかた。
「つばめさん、そろそろ1回休憩して来て下さい」
「……もうそんな時間だったんですね。すいませんが1回失礼します。何かお困りの際はドアの外で待機してる人にお願いします」
冷蔵庫の中の材料などは好きに使ってもいいし、果物や甘い物など出して食べて下さいとカールさんにお願いして私はまた野菜厨房に戻る。
「今度はどうした?」
「休憩です」
「お疲れさん。何か食いたい物あるか?」
「海老以外でお願いします!」
もう無いと、笑いながら言った料理長はサンドイッチと野菜スープを出してくれた。うまうま。
「それにしても、何であんなに海老取りに来たんだ?」
「揚げたんですよ。天ぷらにして」
「へー…『天ぷら』かぁ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ぉおぁあぁぁあぁぁぁっ!!?『海老の天ぷら』を作れるんですかぁあぁぁぁああぁぁっっっっっ!!!!!???」
「うわっ!ビックリした」
料理長の大声にビックリした私だが、料理長は違う事でビックリしたみたい。両手で頭を抱えている…あ、それ最近学びました。困った時にするポーズですね!
決して『頭を抱える程美味しい』じゃ無いね。料理長何も食べて無いし。
なんでも『海老の天ぷら』は秘蔵の海老料理と言われ、細かな作り方は大地神教の最高司祭にならないと知れないらしい。おーやー?
「…………」
「…………」
「物凄い海老好きの人がいたんで、その人が普通に食べた事にしましょう」
「ああ、そうだな。俺は何も聞かなかったし君は何も言わなかった。早く飯食って休んでこい」
寝はしないが、暖かい玄米茶とパウンドケーキの端っこにを貰ったので、居室でゆっくり食べようと思う。
私が何度も厨房に行ってるんで料理長多分ゆっくり休めて無い。
肉厨房にも1人夜勤で待機してるらしいが、そちらは静かみたいだね。
マシロさんとレーズンの入ったパウンドケーキを食べながら、私は暫くゆっくり休憩を楽しんだ。




