4話
ー約2ヶ月半前 王城ー
「無理です。絶対着ません」
侍女さんが手にしているのはヒラヒラ、ふりふりのショッキングピンクのドレスだ。
大事なコトなので2回言うがピンクではなくショッキングピンクだ。
「そう言われましても……こちらが今の流行りでして……つばめ様にとてもお似合いになると思うのですが………」
あぁ……侍女さん……そんな困り顔で言われても、無理なモノは無理なのだ!
「……早く着替えろ。先程の物より装飾が少ない」
ユリエルさんが言っている『先程の物』とはヒラヒラ、ふわふわ……フリルとレースで可愛らしいリボンの装飾がこれでもかと施され、さらにパニエ多用のパステルピンクのAラインドレスか?
それとも、ふわっふわのキラっキラなフラミンゴに宝石散りばめたらこんな感じだろうなと思わせるドレスの方かな?
今の流行りはピンクらしい。
ドレスの生地とかは大変いい物使ってるらしいよ。
ただし、「3歳児の私になら似合っただろうな」と思う可愛らしさを全面に押し出したデザインのドレスをアラサーの私が着るのは断固拒否したい。
2着を並べ「どちらになさいますか?」と侍女さんに聞かれ、秒で「チェンジ!」と答えた私は悪くないと思う。
そして、出来ればシンプルなシャツとズボンにして下さいと言ったのだが……何故またドレス……。
「確かに装飾は減ってシンプルになったけど、あぁ……そう言う問題じゃなくて!ただ仕事の説明聞きに行くだけでしょう?」
そう、私はこれから職場見学なのだ。
決してパーティに行くのでは無い。
いや、パーティでも遠慮したいドレスだが……そもそもパーティに行きたくも無いが。
「つばめ様……本日は10時からのお茶会に出席されると伺っておりますが、ドレスの方がよろしいのではないで…?しょうか?」
パーティではないがお茶会らしい…ん?
でもそんな話し私聞いてないな?
ユリエルさんに職場見学の案内をするから、朝ご飯食べたら自室で待って居ろと言われた……侍女さんも困惑ぎみだ。
ソファの肘掛けに片肘をついて侍女さんと私の会話を聞いていた上司(予定)のユリエルさんをチラッと見る。
「はぁー………………」
目が合ったらめっちゃ大きいため息吐かれたは。
「……招待状は?」
「届いてございません……非公式で内々ですませると伺っております」
「……誰の指示だ?」
「侍女長様でございます。2時間程前に急遽ご指示がございました」
「ロジャー」
「私は知りません。予定変更の連絡が来ていたら、つばめ様のお部屋に来る前にユリエル長官に知らせてましたよ」
「……行く必要はない。早く着替えろ」
侍女さんと、ユリエルさんと、ユリエルさんの背後に立っていたロジャーさんとやらの話しで何をどうやらサッパリ分からないが、とりあえずお茶会出席は回避したらしい。
しかし、ここでまたドレス問題振り出しに戻るだ。
「粗末な物は着せられない」だとか「頼むから着て?」、「つばめ様絶対似合いますから!」とパーティでも茶会でも無いのに何故かまだドレスを着せたい侍女さんと「動きにくい、無理」「高身長の28歳にはイタイ服装だから、勘弁して!」と全力拒否の私。
「はぁー……」なんでもいいから早く出かけたいユリエルさん。長くなりそうなので何処からか持参したお茶を入れ始めたロジャーさんと、とてもカオスな状態。
侍女さんと私が押し問答してる間にユリエルさんが紅茶を2杯飲み干し、シビレを切らしたユリエルさんが「侍女が似合うと言っている」と言ったのが不味かった……。
「『似合うから着ろ』と言うなら、ユリエルさんの方が似合うでしょ。貴方が着れば?エルフ族のユリエルさんが今着てる服は私が着るから」
私の発言で部屋の空気が一気にマイナス20度位になった。
実はこの世界は人族以外にエルフ族やドワーフ族、獣人族なんかもいる。
この世界のエルフも男女共に中性的で皆美人らしい。
ユリエルさんもエルフ族で例に漏れず大変美人だ。
きっと私よりピンクのドレスを着こなせると思う。
ユリエルさんの眉間の皺がヤバい事になっているが私も引けない。
一度このドレスを許したら部屋から出る時はこの先ずっとこんな感じの服装を強要されるだろう。
「はぁー…………ロジャー」
「はい」
「…………私の家から服と靴を」
「わかりました。つばめ様、身長と足のサイズを聞いてもいいですか?」
勝った!私は勝利を手に入れた!
「身長190センチ、足のサイズは27センチです!」
くっ……引き換えに私のデカさが露見してしまったが、悔いは無い!
ー
この世界の単位はほぼ現代日本と一緒です。
1日は24時間。
重さや長さもグラムやセンチです。