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319話




「その不愉快な胸の『隷属の魔石』を外せよ!」



「これは私の戒めでもある。ファイ様を逃がしてしまった私の罰でもあり、贖罪の為に必要な物だとさっき説明したでしょう?」



 カールさんが胸に付けてるらしい『隷属の魔石』とやらは元々はカールさんの戸籍上のお父さん…先先代のハイルング国王が付けたらしい。

 何でも、サミュエルさんのお母さん?『ファイ』さんって方がエデンを出た時にまたカールさんがコンスタンティンさんの所から逃げ出さない様にと付けられたとか。


 で、何故かコンスタンティンさんが今は所有者。



「何でですか?」



「強いて言えばカールがそうして欲しいっていうからかな?どうしてもハイルング国を助けたくて私の『友達』になる変わりに『隷属』したいんだって。バカだよね」



「……馬鹿はやめて下さい。まだ、コンスタンティン様が立て替えて下さったハイルング国の負債の支払いも終わって無いんです。ダンジョンと大幅に国土を削るしか無い。後は残った国民全員に魔力の強制徴収を段階的に施す」



「そんな事したら国が滅びるだろう」



「では、どうしろと?奴隷制度はエデン条約で禁止されている。自らなるのは構わないが、魔力しか取り柄の無いエルフ族です。結納金目当てで神聖帝国に嫁や婿を出す位なら魔力支払いの方がマシだし誰も行きたがらない。エルフ族仕様の魔道具の輸出も需要が無い」



 何か腑に落ちないんだよな。なんだろう?

 



「コンスタンティン、負債の支払い期日はいつなんだ?」



「期日過ぎてるんだよ実は。来年の本会議……夏のエデン会議までに案を出せとカールには言ってある。気が長いエルフ族はせっつかないと何時迄もそのままだから、返済計画位は立ててもらわないと困るよ?神聖帝国もゴネてるから臨時会議で皆んな呼び出したんだよ。面倒臭い事は一気に片付けるに限るよね」



 餃子は既に食べ尽くしたので、今は甘い物とツマミを出している。


 私は考え事をしながらキッチンで洗い物がてら、皐月先生リクエストのホットワインを制作中。出来上がったところで鍋ごと持って来た。



「皐月先生どうぞ」



「あら、ありがとう。今日はオレンジがぷかぷかしてるのね」



「蜂蜜とシナモンも入れてありますよ」



 私もフィナンシェをもぐもぐしながら、ホットワインをいただく。赤ワインベースでオレンジとシナモンのちょっとスパイシーな感じが好きだ。身体が内側からポカポカ温まるよ。



「つばめ、何か考え事かな?」



「そもそもカールさんって何でコンスタンティンさんの所に来たのかなって?後、そのファイさんって方も」



「………それは……私は『生け贄』だと思って来たんです…最初は」



「生け贄なんて物騒ね?」



「最初はと言う事は今は何だカール?」



「………コンスタンティン様の世話係です」



「いや…それはそうだろうが……」



「まぁ、元はそれも違うんだけどね。いつの間にかハイルング国では『昔からそうだから、今も行う』習慣になりつつあるかな?」



「…世話以外も何かあったのですか?」



 コンスタンティンさんもホットワインに手を付けながら昔の話になるけどね、と言って何かを懐かしむ様に話し始めた。



「今は誰が言い始めたか分からないけど『楽園エデン』って呼ばれる前の話しだね。元は『エルフ人族混合諸国』って言ってたんだ。エルフ族と人族が一緒に暮らしてたから。ドワーフ族が乱入、後から魔族と獣人族が来て、結局皆んな種族を分けて暮らす様になったんだ。いつの間にか誰もエルフ族と人族が一緒に暮らしてたなんて殆ど忘れちゃったよね」



 そのまま、静かに語るコンスタンティンさんはホットワインが気に入ったのか、ニコリとしてもうひと口呑んでから続きを話しだ。



「エルフ族とドワーフ族って仲悪いでしょ?それに巻き込まれた人族と更に追加で来た魔族と獣人族を、その当時皆んな仲良くまとめて暮らすのは無理だねって話しになって…エルフ族と人族は離れて暮らそうって取り決めをしたんだ。いつかお互いより良い国になったらまた一緒に暮らそうねって。今の神聖帝国…当時神聖国と名乗っていた教団設立者達が、それでは友好の証としてお互い交換留学みたいのを派遣しようって。人族側はいつの間にか人を送らなくなったけどハイルング国はその習慣が今でも残ってたんだ」



 コンスタンティンさんを中心に神聖国に来たエルフ族は魔道具の制作技術を人族に伝授して、人族でも使える城壁結界の製作と改良に力を入れた。「人族ほっといたら直ぐに死んじゃうから」らしいよ。

 一緒に住んでた時はエルフ族の結界で何とかなってたけど、離れて暮らすとそうは行かないもんね。



 ハイルング国に行った人族側は読み書きを教えた。

 当時主流だったエルフ族古語は勿論、一緒に暮らして行く内に人族の言葉とエルフ族の言葉が混ざって生まれ、生活の中で一般的に使われていた今のハイルング語の元になる言葉だ。


 その頃のエルフ族って貴族階級しかあんまり読み書きしなかったらしい。

 本とかなくても長生きなんでその分知識が蓄積されるからね。記憶力もいいしあまり必要無いみたい。



「それから、身の回りの世話を引き受けてた人族が、私の魔力に当てられる様になって、代わりに留学生みたいな扱いだったエルフ族の中に世話を引き受け始めたのがいたんだ。私は研究してるとご飯とか寝るの忘れちゃうからね。サポートや補助は人族。長時間の世話はエルフ族って役割り分担したみたい?月日が経つにつれて、色々ハイルング国が勝手に自国で派遣の意味が捻れて来たみたいだけど。そんな事が多すぎて、いちいち訂正して回るのも面倒だし、誰も私に今更意味など問わないし、そもそも疑問にも思って無いんだと思うよ?」



「……だから私に料理を強要したり、身の回りの世話をしろと言ったんですか?」



「まぁ、命令はしてないけどお願いはしたかな。キン………ちょうど私を好きで世話してた神聖帝国からカイザス国に来た者もいなくなっちゃったし、ちょうどいいかなって?最初の焦げた殻入り卵は傑作だったね。なるべく高魔力のハイエルフ種を送るのは私の魔力に当てられない為でもあったかな…私は研究さえ出来れば何でも良かったから、もう身の回りの事は好きにしてくれと思ってたからね。とりあえず分かってもらえたかなつばめ?」



「コンスタンティンさんはほっといても死にはしないけど、周りに人がいないと駄目な部類だと理解しました」




 「当たらずも遠からず」と、言ったコンスタンティンさんはカールさんに話を振った。



「私の世話の出来ない、魔力だけ高い鼻持ちならない王族を送って来て、送り返してもまた来るから面倒で神聖帝国に下げ渡したのは私だ。ファイは頑張って働いてくれたみたいだけど、君は途中から『炊き込みご飯』を教えてくれる神聖帝国側から来た人族もいなくて大変だったでしょ?」



 カールさんはとてつも無く最初大変だったみたい。かしずかれて生きて来た人間が人の世話をするのは大変だったと。



「……多分私は隷属の魔石が無ければ逃げ出していたでしょう」



「何度も外すって言ったのに本当前から頑固だよね?逃げれば良かったのに」



「もう、私以外国から送れる者がいなかったのです。ミアにコンスタンティン様の世話は無理でしょうし…」








「カールが王様になったらそんな習慣辞めちゃいなよ。私は1人でも大丈夫だし、つばめが元の世界に帰るなら自分の国に帰るのも有りかな?」



 コンスタンティンさん神聖帝国に帰るの?



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