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309.5 マシロ1




 我が名はマシロ!



 今、目が覚めたの!やっちまった!



 つばめ、もうお仕事行っちゃったみたい。



 おかしい。

 記憶では、お絵かきしてた筈なんだけどな?いつの間にかマイオフトゥンで子うさちゃんと寝てた。おかしい。


 ぬっくぬくのもっふもふオフトゥンにお別れして、つばめの代わりに子うさちゃんにご挨拶。おはよう、ぺこりん。



 テーブル下の寝床からずりずり出て来て、テーブルの上にピョーンと飛び乗る。



 やっぱり昨日寝落ちしたなわれ



 卓上ライトのお陰で夜も遅くまで色々出来るのはいいんだけど、つばめに朝のご挨拶が出来ないのは何だかちょっと寂しい気がする。


 お絵かき途中で、不自然に描かれたグニャってしたクレヨンの道筋をずりずりして消して行く。続きを描きが終わったところで…渾身の力作!さて、今日は何をしよう?



 とりあえずテーブル上を見渡して…本棚、ミニマムキッチン、お絵かきセットはテーブル上。

 絵を飾るボードに今描き終わった絵を飾ろうかな!



 触手を伸ばして、画びょうと絵を抜き取り、新たな絵を貼り付ける。

 うん、我ながらいい絵が描けたね!つばめが帰って来たら褒め称えて貰うんだ。あれはとっても気分がいいよね。




 褒め称え、崇め祀られるのなんて当たり前だったのに…何故かつばめに褒められるソレとは全然違う気がする。






 何でかなー。マシロにはまだその感情は良く分からない。いつか他の感情の様に分かる日が来るといいな。




 そう、いつの日かの様に。













「お前がやらかした後始末位、自分でやれ。反省するまでずっとそのままだからな。とりあえず罰掃除くらいキチンとしろよ?『マシロ』」






 辺り一面の血の海。我の最初の罰掃除は、時間感覚が麻痺する程続いた。数百年?数千年?数万年?数億年?良く分からない。





 荒野が広がる大地にポツンと取り残され、掃除が終わっても我はひたすらズリズリ這いずって我が身にこんな罰を与えたアイツを恨んだ。



 暫くすると、アイツが迎えに来たが私は罵る事も出来ないスライムと成り果てた我が身を嘆いた。何で私ばっかりこんな目に。




「ここまで反省の色無しとか。どうする?消す?」



「消滅は不味いかな?曲がりなりにも『世界の意思』だし。マシロを消すのは簡単だけど、その後始末の方が面倒かな?アレが出て来たら流石に太刀打ち出来ないでしょ?」



 

 

 消す。消滅させるのが簡単?






 逆らったら殺される。




 この世界には、我や母様より強い者などいないと思っていたのにこの世界はいつの間にこんな化け物が育っていたんだ。


 我は生まれて初めて『恐怖』と言う感情を知った。






 それからの毎日は罰掃除の日々だった。

 気まぐれに…逆らってはいけないアイツらに連れまわされ、移動させられる過酷な時は我には耐えられなかった。




 特に街中は酷い。掃除の途中で踏みつけられ、踏み潰され、物のように扱われ、終いには何か良く分からない生き物に食われて排泄された時はもう自分と言う存在意義を見失いそうになった。


 それを指を刺されながら笑われると言う屈辱に我の中の何かがボキボキ折れた。



 折れた感情は『矜持』『尊厳』その他色々。



 私はその日から、考える事をやめた。


 我は唯の『スライム』。『街の掃除屋』。



 泥や汚物に、時にはゴミ処理場でゴミや屍肉に塗れる日々。汚れているモノは何でも綺麗にした。




 人などよりも遥かに小さな生物は感情さえも人よりちっぽけで、持っていても意味が無いんだと身を持って思い知った。










『貴女にこの世界を任せます』





 遥かに昔に母様に言われた言葉は、使命は、我の感情と共にいつの間にか消えて無くなった。



 

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