304話
「もう、ほっときましょうカールさん」
「やっぱりつばめさんもそう思う?」
「カールさんにユリエルさんは事情があって国籍変えられない位は言っても大丈夫ですかね?」
「……まぁ、それ位曖昧な言い方なら大丈夫だろう」
とりあえず、カールさんが動くまでこの話は保留になった。
しかし、仕事に支障をきたすのは良くないとの事でユリエルさんはカールさんと話し合いをする決心は着いたみたいだ。
仕事中上の空とか『サイ』さんをエルフ族大使館に匿う時に、ユリエルさんが気まずくて所有者のカールさんに話が出来ない事もあったしね。
「つばめ、物凄く頼みがある」
「嫌です」
「頼むから同席してくれ。カールと2人きりになったら私は丸め込まれてしまうかも知れない……皐月も出来ればお願いしたいが」
「私はいいわよ。どうせならコンスタンティン様も呼んじゃいましょうよ。最近『カール仕事しろ』って言ってイライラしてたみたいだから。ユリエルが家出して、カールもかなりダメージ受けてるみたいね……あの『俺様野郎』が恥を忍んで私に相談するくらいですもの」
「それはいい事を聞いた。カールは俺がいなくてダメージを受けてるのか。『ざまぁ』と本人に言ってやったら吹っ切れそうな気がする」
「ユリエル、それは流石に可哀想だわ。もうちょっと何かに包んであげて」
何かに包めと言ってる割に皐月先生は物凄く楽しそうな顔をしている。
悪い顔の大人2人に挟まれて、私はここまで来たらユリエルさんに最後まで付き合うかと、同席する旨を伝えた。
結界を解除すると、珍しく累さんが私に寄って来た。どうしたんだろう?私も複雑な心境からあまり近づかない様にしてたので、2人きりで話すのは珍しい。
と、思ったら今度はユリエルさんのローブを累さんがガシッと掴んで結界を展開させて貰っていた。3人で話し合い。私はまた真ん中の席に座らされた。
私はシュガーラスクをポリポリさせながら、次郎さん作の果物シロップ入りアイスティーをいただきながら話を聞く所存です。
「実は、つばめさんにちゃんと直接もう一度謝りたかったのよ。本当は第3王子も連れて来たかったけど、またの機会にするわね…あの子も家の事でいっぱいいっぱいで今は全く余裕が無いのよ」
「第3王子……そう言えば王妃はあの後どうなりましたか?手紙が最近ウルスラさんでストップしてるのでお茶のお誘いの返事も出来て無くて」
「………つばめさんって…優しいわよね。あんな仕打ちをした私達の心配までしてくれるなんて、仕事とは言え本当にごめんなさい。私達が悪かったわ。王妃は…冬美様は今就活中だけど国を出て行く準備を進めてるの。第3王子は温情が貰えて、高等学校卒業までは寮で暮らせて行けるわ」
累さんは洗いざらいの全てを話してくれた。
「じゃあ、私に冷たく当たってたのは殆ど第3王子だったんですか?」
「そうなのよ。仕込みが足りなくて、感情の制御が上手く出来なかったのね…私の監督不足だわ。ごめんなさいね」
何でも、王妃の手紙も累さんの仕込みだったらしい。王宮に固執してるスタンスを取って、第3王子を神輿しにしてまた王政復活を企む者の炙り出しと、誘き寄せに王妃に私宛ての書いてもらっていたそうだ。私の精神的苦痛のお陰で色々釣れたらしい。
それでも、フリとは言え王妃を…母親を助け様としてくれない私に対して第3王子はあまりいい感情を向ける事が出来なかったそうだ。それでなんかトゲのある言い方が多かったのか。
波が有ると思ってとけど、累さんと第3王子が入れ替わってたりしたから当たり前なのかな。
私からすると「今日機嫌悪そうだな」と思っていたくらいです。
第3王子として私の前に現れた時も、それがモロに出てしまったと…累さんもやり過ぎだと嗜めてはいたが中々上手く行かなかったみたいだ。
「手紙も仕事もそうなのよ…本当は人の所為にはしたくないんだけど、ユリエル長官が喜ぶからわんさか持って来ちゃってごめんなさいね。私もそうだけど、特に第3王子は何処まで断っていいのか分からなくて次々と持って来ちゃってたのよ」
「な…なるほど。ユリエルさん、そうなんですか?」
「………すまん。調子に乗りすぎた。私が移住当初は手紙もあんなもんじゃ済まなかったので、つばめも大丈夫だろうと思ってしまった」
そんな理由だったのか。お陰でユリエルさんも無能な仕事しない給料泥棒の文官を内部監査に引っ掛けて何人も辞めさせられてスッキリしたらしい。
「じゃあ、あの『日本語』の手紙は累さんですか?」
「『日本語』?」
「『こんにちは』って書いてあった…」
あの手紙はコンスタンティンさんに書けと言われて書いて置いといたらしい。コンスタンティンさん???
「えっと…私もつばめさんの国の挨拶とまでは知らなかったのよ。変わった文字だったわね」
何でコンスタンティンさんあんな事したんだろう?累さんに聞いても仕方ないので直接聞いてみよう。
とりあえず、事情を知れた事で前より累さんの謝罪を素直に受け入れる事が出来た。
全てを受け入れられた訳では無いが、それも時間が解決してくれると思う。
何より、累さんと言うか…『瑞希さん』の事なんやかんや嫌いになれないなと思う。
累さんは結界を出て行って。私はユリエルさんに聞いてみる。
「色々知ってたんでしょう実は」
「……すまん。しかし、引き受けると言ったのはつばめだ」
「うっ…確かに」
「コンスタンティンは最後まで反対していたが、つばめがやると判断して渋々引き下がったんだ……私もかなり反省している。カイザス国の事につばめを巻き込んで申し訳なかった。しかし、お陰でこの国を立て直すのが早く済んだのも事実だ」
「過ぎた事ですし…もうこの話しはやめましょうか」
「累では無いが…つばめは優しいな。と、言うか優しすぎる。もっと警戒心とかどうにかした方がいいと思う」
「えぇ!?まさかのこの流れでユリエルさんからお説教?」
「つばめ、俺は助かったし今更だから言わせて貰うが、俺を家にいきなり泊まらせるのはちょっと常識的に考えてどうかと思うぞ?しかも、初対面のウェルエルも家にあげたんだろう。何か色々泣きながら嘆いていたぞウェルエル」
「クマさんが嘆いてた?」
そこは本人に聞いてみろと言われて、私はユリエルさんのリクエストで最後に卵焼きを量産して各々お別れを済ませ、2次会はお開きになった。
片付けは朝からの出勤者に任せると鈴木さんから言われて、私はお言葉に甘えてそのまま与えられた客間に引っ込んだ。
着替えてフッカフカのベッドにゴロン。マシロさんにおやすみと伝えてから瞼を閉じた。
起きたのは昼過ぎ。
まだ眠い様な気もするが、用意された料理長お手製の朝食兼昼食を食べていると目が段々と覚めて来た。やっぱりこのサンドイッチ美味しいんだよなー。もぐもぐ。
「つばめ様、私め折り入って御相談が御座います。」
「ふぁいっ!」
目の前で一緒に食事していた鈴木さんに話しかけられて完全に目が覚めた。
まだちょっと寝ぼけてたのかサンドイッチを口に咥えて間抜けな返事をしてしまったのが少し恥ずかしい。
「実は鈴木商会に正式にエデン臨時会議の食事を任せるとのお達しがコンスタンティン様から出ました。それで、良ければつばめ様にも料理提供にご協力願いたいので御座います。」
「えっと、具体的には何をすればいいんでしょうか?」
「する事はさほど今回の食事会と変わり御座いません。規模が少々異なるだけで御座います。」
メニューの考案に料理技術の指導。後は直接部屋付きの方のリクエストに合わせて料理を提供すればいいと言われた。
「部屋付きの方?」
「以前の男子会なるもので、つばめ様は神聖帝国の通訳担当になると伺いました。あそこは肉や魚の一部、酒の提供が御座いませんで少々大変で御座います。こちらも補助や交代要員など色々手配は致しますが、つばめ様が料理するのが1番適任かと存じます。あちらも料理人など連れて参ると思いますので毎回では御座いませんが、食材提供は鈴木商会が任されておりますので顔見知りのつばめ様が入っていただけるなら此方としても色々とやり易いので御座います。」
鈴木さん本人は神聖帝国側にだけは絶対顔出さないと言い切った。既にユリエルさんには了承の返事をもらっていて、後は私の返答待ちらしい。おぉ…分かりました。
「それと、大きな声では憚られますが臨時会議前に何やら一席設けるそうです。そちらにも隣席して頂きとう御座います。」
「はぁ…」
メンツを聞いてもピンと来なかった。マティアス?オリバー?健介さん。カール様の知り合いらしい。肩書きを聞いたら度肝を抜いた。
「フォーゼライド国王に前最高司祭の息子さんに…健介さんは皇子でしたね…」
「左様で御座います。もしかしたらご親戚が増えるかも知れませんが…」
待って、親戚って王族とか国の偉い人増えるんじゃ………大丈夫かな私。あ、カールさんも同席するのか。よし、私は料理作りに専念しよう。
この時の私は知らないが、この一席に料理人として参加する話を安請け合いしたのを後でちょびっとだけ後悔した。




