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303話




 くり抜いて残ったスポンジケーキをある程度小さくして、私は透明なグラスにうつしてフルーツに生クリームとジャム、更に余っていたミルクアイスを保冷箱から出して乗っけて食べはじめた。うまいのひと言。



「………つばめ、いちごのを作れ」



「もぐもぐ…セルフサービスです」



「……わかった」



 ユリエルさんに続く人多数。よく見たらケーキは粗方食べ尽くされていた。凄いな…皆んな何処にそんなに入るんだろう???



 スポンジケーキが無くなった所で飲み物に切り替える。


 秘密兵器の果物のシロップ漬けに炭酸水を注ぎ、クラッシュした氷の隙間にフルーツを所々入れて、飲み始めた私を見てユリエルさんは自作の苺パフェ片手に近寄って来た。




「……それもセルフか?」



「道具はあちらです。アイス乗せても美味しいかもしれません」



「よし、某アイスティーにしてシロップ混ぜたい」



「何それ美味しそう!ジジイ、私もアイスティー欲しいわ!」




 こうして2次会はフリータイムに突入。

 流石にウルスラさんとカンジさんは小さいお子さんがいるので日付けが変わる前に帰宅。

 健介さんとジョンさんはお礼を何度も口にしながら玄関までお見送りに向かった。



 私は隣に座ったロジャーさんとユリエルさんにの話に耳を傾ける。



「実は『巫女の家系』の現在の管理地を将来的にハイルング国にする話しが出てるんです。カール様がハイルング国王になるのが内々的に決まっています」



「…………な……は?カールが?」



「私は出張を言い渡されてまして…それで、ユリエル長官にお願いがひとつあるんです」



「……何だろうか?」




 ロジャーさんは深呼吸してから、話し始めた。






「血統結界の解析をユリエル長官にお願いしたいんです。今のところ貴方にしか頼めない」



「……………」




 血統結界は神聖帝国に返還される予定ではいるが、手続きや移動を考えて当面はカイザス国が所有する予定であるらしい。


 その移行期間を狙ってユリエルさんに解析して貰いたいそうだ。



 そーっと席を立とうとした私はユリエルさんにガシッとローブを掴まれた。大人しく席に座り直す。



「カイザス国の魔道具技師は殆どがドワーフ族の血が入っている方々です。多分、その魔道具技師達に依頼を出したら最悪城壁結界が使えなくなってしまう。エルフ族のユリエル長官にしかお願い出来ない」



「……私はやぶさかでは無いが、何故そんな事をわざわざするんだ?」



「コンスタンティン様に聞いたんです。あの血統結界にドワーフ族が触ってはいけないと言う制約が無いと……しかし、それを鵜呑みにしてドワーフ族に触らせて結界が壊れてしまっては意味がありません。ドワーフ族が触っても大丈夫だとユリエル長官に証明して欲しいんです。これ以上、神聖帝国に罪を重ねて欲しくない。滅べばいいとも思いもしましたが、国民が可哀想だ」



 血統結界維持の為に権力が『聖女の家系』と『皇家』に集中した。ロジャーさんのお母さんが神聖帝国の上層部によって…ロジャーさんのお父さん主体で攫われた事が今でも許せないらしい。


 それも恐らく片鱗で、表には出て来ない話が沢山あると思うと。




「ハイルング国のエルフ族も数年に何人か行方不明になっているとカール様が言っていました。これは、証拠は不十分ですが神聖帝国の者が手引きしてるんだとお考えの様でした」



 カール様はハイルング国王になったら、国の代表者としてエルフ族返還を求めているそうだ。

 コンスタンティン様は神聖帝国をと言うか、大地神教者をウザったがっているらしい。

 潰すのは簡単だが、一応宗教の自由を説いている身としては自分自身が表だって動けないみたい。



「もの凄く月日はかかりますが、コンスタンティン様は霊山を御神体?としてエルフ族信仰辺りに切り替えたいそうです。寿命が長い私を見込んで、最高司祭の地位を後押しする代わりに意識改革を進めて行く方針をお考えの様です。元々言えば、大地神教はエルフ族を信仰していたらしくて…元の形に戻るとおっしゃられてました」



「…………そうだったのか」



 ロジャーさんもコンスタンティンさん本人から聞いた時はビックリしたらしい。


 私は守秘義務の関係から喋れないでいるが、確かに神聖帝国から解析依頼を出されたのにそれらしいのが載っていた。


 コンスタンティンさんは今現在神様の扱いだが、前はそうでは無かった。

 今の最高司祭に当たる地位の方に『お願い』をされて神様業を行ってるっぽい。




「……わかった。引き受けよう」



「代金は『巫女の家系』の管轄地にあるダンジョン入場券10回分でどうでしょうか?」



「ほぉ……100回は欲しいな。あそこの苺は毎日でも食べたい」



「じゃあ、1年分にしましょう。それ以降はハイルング国になってしまうかもしれませんので、私が約束出来ないんです…すみません」



「………そうか。仕方ない、それで手を打とう」




 ロジャーさんは詳しくは臨時会議中にと言う事で、と言ってから席を立った。お見送りが終わったジョンさんと健介さんの方に向かったので、多分今後の話しをまたしに行ったんだろうな。



 誰か横に座ったと思ったら皐月先生だった。


「つばめさん、今日はごちそうさま。どれも美味しかったわ」


「こちらこそ食べていただいてありがとうございました」



「ユリエル、カール王様になるらしいのよ。貴方の為に……馬鹿よねー」



「何故だ?俺の為だと???」



「部屋の結界とは別に小さいの張れないかしら?」



「………ちょっと待て、設定をいじる」



 ユリエルさんはいつもの様に懐中時計を弄り始めた。あれ?皐月先生とユリエルさんに挟まれた私もですか。ユリエルさんに再びローブを掴まれたので、また逃げ遅れた私は会話に参加する羽目に。



「これでいい。で、何故私の為なんだ?」



「ハイルング国王になってユリエルをお嫁さんにするんですって……」



「……………」



 ユリエルさんはチラッと私の方を見たけど何だろうか?



「無理だろうそれは」



「そうねー…私達この国から監視無しでは出られないものね。どうやってカールに説明しようか私も迷っているのよ。機密にゴッソリ触れちゃうもの」



「……あの、私席を外した方がいいですかね?」



 曲がりなりにもコンスタンティンさんの養子なんで大丈夫だろうと皐月先生に言われた。


「つばめに話して大丈夫なのか?」



「いつかは知る事になるだろうから、いいんじゃ無いかしら?ユリエルもカールの求婚断ったとか言ったらつばめさんに説明する時困るでしょう。今話しちゃいましょうよ」



 え?カールさんフラれる前提で話し進んでるけど…国から出れないってどう言う事だろう。



「つばめ、免許と資格一覧表に『上級魔道具使用免許』の蘭に特記事項があったが、覚えているか?」



「特記事項?……『限定特級』かな?」



「それだ。俺と皐月はその『限定特級』の免許を持っている。」



 特級魔道具使用免許単体では存在せず、必ず『上級魔道具使用免許』とセットじゃ無いと取れない資格だ。

 『国から選ばれる場合がある』としかは書いて無かったけど、詳細は無かった。何だろう?



「その『限定特級』を取ってしまうと、一生国に縛られるのよ。婚姻も国内から人を選ばないと駄目なの。『上級魔道具技師』より更に制約が厳しくて、24時間監視されて……このユリエルの結界も部屋の人に話が漏れない様にしてるだけで会話自体は諜報部に筒抜けかしらね」




 え、怖いんですけど。思わず私は結界に視線を向けてしまった。



「一般の人はよっぽどじゃ無いと日常生活を覗かれたり、犯罪の証拠を世に出す為に記録を情報開示したりするけれど…まぁ、コンスタンティン様がその気になれば一般も何も無いかしら?」



「……つばめの家くらいだろう。覗けないのは」



「あら?そうなの。へぇ〜、つばめさんのお家って凄いのね」



「はぁ〜……カールになんて言えばいいんだ?どうしたものか…そもそも、カールと結婚したいのかも俺は良く分からなくなって来たのにな。今更普通に求婚されても……てか、わざわざハイルング国の王にならんでもいいだろう」



 それは私も思う。カールさんは現在ハイルング国籍だが、ユリエルさんと結婚してカイザス国籍になっても大丈夫な気がする。

 わざわざ王様なんて面倒臭い様な者にならなくても、普通に求婚すれば大丈夫じゃ無いかな?



「カール知らないのよ。24時間監視がついてるって事は神聖帝国に攫われたり、殺されたりする様な事があればカイザス国が助け出してくれるって。王様になれば自分がユリエルを守れる気でいるのよ。ハイルング国もユリエルを狙わなくなるし……ユリエルなら自力で何とかしそうだと私は思うけどね?」



「皐月にその言葉をそっくり返してやる。どっかの国を滅ぼして自力で帰って来そうだな…私は首輪は何とかなるが、身体に直接隷属の魔石でも埋め込まれたら恐らく無理だぞ」



「埋め込まれる前に何とかするでしょう。滅ぼすと後が面倒だがら、痛めつける位で済ませるわよちゃんと」




 何だろうか。不穏な単語聞こえてるけど、私は話をまとめてみる。



「要するに、皐月先生とユリエルさんは国の保護下に入る代わりに国から出られないって事ですか?」



「そうなのよ。その代わり、限定とは言え魔道具の使用制限が無くなるから結構危ない存在でもあるわね。特に『特級魔道具』をたらふく所有してるユリエルは。…魔道具技師に限定特級指定が無いのは今のカイザス国の技術者では特級指定の魔道具を作る技術がないからなのよ」



 私は椅子を少しズラして皐月先生の方に寄った。ユリエルさん危険人物だったのか。と、思ったら笑顔のユリエルさんは皐月先生に言い返した。



「特級魔道具も無いのに素手で一国滅ぼせる皐月だけには言われたく無い」



「あら、『秘術』を使って滅ぼした事はないわよ。ロジャーが言ってた半壊くらいだったわ」



 私は椅子を元の位置に戻した。真ん中がやっぱり丁度いいらしい。





 いや、でも本当カールさんどうしようである。1人だけ事情を知らずに話を聞いた私から見れば空回りしてる気がする。




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