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つばめと学ぶ異世界生活事情  作者: とりあえずごはん(・ω・)
第四章 ゴブリンのスタンピード編
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293話





 軍人の命は一般人より軽い。



 99人の軍人を犠牲にして、1人の一般人が助かるなら私は迷わず軍人99人に死にに行けと言って肩を叩く。自分の中で決めたボーダーラインは100人。

 そんな状況滅多に無いがな。その滅多な状況と言うゴブリンのスタンピードにぶち当たった私は運が無いと思う。



 もし仮に軍人1人で3人一般人が居るとしよう、まさにこの状況だな。


 キン、女王陛下、間もなく産まれる胎児…子どもだな。


 キンは辞表を出したんで一般人だが、元軍人で、今は兵役の義務で軍復帰者の扱い。辞表受理されても敗走兵になるが、私が連れ回してたと言えば罪に問われない。

 ちょっと私が配属先の書類出し忘れた程度だな。


 次は、裁かれる前の犯罪者の女王陛下。私刑は許されないので、ほぼ一般人の扱いだ。

 これはエデン全体で裁いて、他国に賠償請求する案件だな。


 胎児は完全に一般人で子どもだ。この中で助ける優先順位は1番上。




 そして、軍人より軽い…もはや人の扱いなどしなくていいのが今目前にいる『死霊王バルバロッサ』。



 私の勘は完全に本人だと認識している。


 『悪魔』認定されている魔族がエデンに足を踏み入れた時点で、私の目前に現れた時点で駆除対象だ。

 そもそもエデンの外から許可の無い魔族が入り込んだら、殺傷権は遭遇者に委ねられている。



 スライム刑罰を受けている『悪魔』達は魔力の強制徴収期間が長いからスライムになったんじゃ無い。



 どうやっても殺せない、あるいは野放しに出来ないからスライムの中に閉じ込められ、スライム刑罰で魔力を強制徴収して刑を執行してる。




 ここはカイザス国じゃ無い。ハイルング国。援軍要請でハイルング国に来たんじゃ無い、しかも『悪魔』認定を受けている魔族。


 駆除して感謝されこそ、罪に問われる事は無い。



 ただの刑罰用スライムに入って魔大陸で大人しくしていればよかったのに。









《バルバロッサ。一騎打ちを所望する》




《何だと???》



《カイザス国軍第1部隊所属、副隊長職を賜る水島ズームォ。貴殿に一騎討ちを申し込む。騎士道まで捨てたスライム野郎に成り下がったなら、地獄で言いふらしてやるからな。腑抜けた『死霊王バルバロッサ』など敵にもならなかったと》




《貴様ぬけぬけと……いいだろう。その申し出受けてくれるわ。楽に死ねると思うなよ》




《場所を移動したい。淑女の前で戦いなど不粋だろう?》



《はっ、ぬかせ。散々私に弓を向けといて言うセリフがそれか。いいだろう。私は貴様とは違う。着いて参りれ》




 私はバルバロッサの後に続いて寝室を出た。扉を閉めてからキンに小声で呟く。




「キン、直ぐに戻るから寝室の前で待機」




《何をボソボソ言っている?》




《お祈りですよ。戦い前に》











 女王の居室から2人で出た所で、私はバルバロッサに魔道具から出した結構な量の水をかけた。






《ぶふっ!!!!!な!???貴様卑怯だぞっっっ!!!?》




《卑怯で結構。私は騎士じゃ無くて軍人だ。騎士道など元から持ち合わせて無い。カイザス国の軍人はどんな事をしても生き残るが心情だから………なっ》



 これくの騙し打ち、どっかの仮想敵国の奴らにしても引っかからないどころか罠を何重にも巡らせて、一騎討ちに勝ったと見せかけるだろうな。

 エルフ族だったら逆に罠を警戒して一騎討ちなんて受けない。


 絶対中身は獣人族かそれに近い種の魔族だろう。随分と生温い時代で殺戮者やってたんだな。




 膨れた身体のバルバロッサ…もとい、青いスライムは水を吸ってじたばたうねうねしながらその場で動けなくなっていた。



 ぐちゅりっぐじゅっ



《ひぃいぃぃぃっ!!!!?》



 うねうねしてる水の塊に手を突っ込んで、私は核を取り出した。


 水の塊はその場で動かなくなったのでそのまま放置。



《はなせぇー》



「へー…核ってこんな小さいのか。もっと大きいかと思っていた」




《はなせぇー》



 

 核は丸いビー玉みたいなので、色は青。

バルバロッサが話すと少し光る。


 随分くぐもって小さくなった声を無視して、私は居室の中に戻った。



 キンの顔をチラリと見ると「はやっ!え?アレをどうにかしたの?」と言う顔をしているが、気にせず女王の寝室に入室許可を求める。許しが出たので入室した。





《……アレはどうした?》




《この中に封印されています》



《はなせー、出せー》





《そなた、本物なのか???》



《腹の子が起きたみたいですね。もう産まれる準備をしている『頑張ります、お母様待っていてくださいね』と鼻歌混じりにルンルンしている》




《え?…………っ!?ハァッ…ふぅー……確かにその様だ……》



 バルバロッサはとりあえずマジックバッグに突っ込んでみる…やはり入るな。

 女王が産気づいたので備えるとしよう。



 お産なんて保健体育で習っただけだが、未来の予測から……風呂にお湯張りか。

 腹の子も痛い痛いと泣き叫んでいるが、とりあえず2人を結界の外から励ましてみる。

 女王は必死に息を整えてるが、物凄い痛いらしい。


 命が生まれるって大変。壮絶と言うのか。


 私が女だったら子どもを産めそうに無い。2人から伝わって来る痛みの感情が凄い事になっている。

 生まれる筈なのに「死にそう」とか思ってるのか…何だか真逆の事柄なのに不思議な感じだ。




(もうムリーッッッ!!?いくよー!!)



《今です、いきんで》



《うぐぅぅうぅーーーーーっっっ!!!》



《ぶはっ!!!!ゴホッゴホッゴホッ!?カハッ!うぇーーーん!うぇーーーん!》



 生まれた子は人族で言う1歳児くらい。立派過ぎる赤ちゃんだ。



《はぁ…はぁ……》



《お疲れ様です。よく頑張りました2人共》



(お…おなかすいた……)



《お腹が空いたと》



《………そうか…はぁ…はぁ…》



 私はナイトテーブルに置いてあったカップを掴んで魔道具から水を出し、彼女に手渡した。



《飲んで下さい。授乳しましょう。子どもを風呂に入れても?》



《………そなた男であろう?》



《既婚者ですので……駄目でしょうか?》




《……いや、今回だけは不問にする》



 シーツに包んで受け止める。

 さて、入浴か。我が子より先によその子を風呂に入れる羽目になるとは。









 入浴終了後。

 タオルに包まって水気を取って…新しいタオルで……次は何だ?ああ、彼女にお湯で軽く絞ったタオルを渡すか。


(おなかすいた〜)



《ちょっと待て、今連れて行くからな。お前お利口さんだな…偉いぞー》



(えへへ。嬉しい)



 表情筋は余り動いて無いが、嬉しいらしい。褒めて伸びるタイプだな。




 お湯で洗い流した髪の毛はシルバーブロンド。少し色白で目の色は分からない。まだ開いて無いからな。




 でも、どう見てもこれはゴブリンには見えない。


 しかし、エルフ族じゃ無い……多分魔族だ。体内の1箇所に急所を感じる。耳の先がほんの少しだけ尖っている。



 皐月殿も研究論文からカイザス国籍の魔族鬼人種。

 ベスティア国には魔族竜人種や人狼種などが居る。




 それなら、今産まれたばかりのこの子もエデンで生きてもいいんじゃ無いだろうか?



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