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つばめと学ぶ異世界生活事情  作者: とりあえずごはん(・ω・)
第四章 ゴブリンのスタンピード編
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289話




 恭介様を送り出し、私と過保護な部下は時間差で出るよていだ。



 その前にマジックバッグから、大輔に貰ったお菓子を2つ取り出す。これで最後だ。



「もぐもぐ…半分食べてくれ」



「いただきます」



 ひとつを過保護な元部下に手渡すと、喜んで口に入れて噛み締めてる。最近甘い物食わせてやれなかったからな…。



「お前、何処まで着いて来る気だ?」



「どこまでもお供します」




 うーーーん…………どうしよっかな?




「家に帰らなくても怒られないのか?」




「ああ、やはりご存知でしたか。大丈夫『我が君』は我々を必要としないのですよ。帰る家はとうの昔にありません」




「後で怒られても知らないからな」






 私は金髪に金眼の強面の男の肩を叩いた。





 本名は知らない。



 調べる術も今は無いし、戸籍もしっかりある。私が金眼の男を見たのは入隊当初。数年、あるいは数十年に1回は名前が変わる。

 時には私の先輩の後に金眼が成り代わり、同僚になり、部下になり。



 本物がどうなったのかも知らない。



 成り代わった金眼の男に聞いたら、私の先の未来は皆無。



 面接時の履歴書の写真と金眼の男の顔が一致して無かったので、恐らく周りには履歴書の方で見えてるんだろうな。

 面接も受けずに成り代わってるのが多かったが。




「昔から聞きたかったんですが、私の事水島さんはどう思ってます?気持ち悪く無いですか?」




「いや、気持ち悪くはないな。金髪金眼の強面の甘い物好きの変わった奴だと思ってるよ。最近は世話好き通り越して、過保護な奴だなーと正直思う。お前こそ、私の事どう思ってるんだ?直接お前の口から聞いてみたい」



「あ、『認識阻害』の方が機能して無い?神のように崇拝してます。水島さんは『我が君』よりよっぽど手が掛かるので、仕え甲斐があります。毎日充実した日々を過ごさせてもらって私は幸せです」




「……………」




 やっぱりそうなのか。分かりづらいが長年一緒にいれば、そりゃ見えて来る事もある。


 最近なんて毎日24時間ほぼ近くに居るからな。人生で最高潮に勘も冴え渡っているんで尚更そう感じる。




「しかも、ちゃんと私の好きな物を下げ渡して頂けてとても良いあるじだとーーー」



「いや、お前のご主人様になったつもりは無いからな?」



「勝手に思う事は自由でしょう?」



「………それもそうか」



 うん、心の中で思う分には自由にしてもらっても構わないかな。

 まさか、殺されたいと思われてるとは最近まで知らなかったが。



「やっと肩を叩いて頂けて私は嬉しくて仕方ありません。ここまで粘ってお供して良かった。いつ捨てられるのかと正直ヒヤヒヤしました」



「捨てはしないが、帰してやらないと…とは思っていたな。こんな所まで付き合わせて申し訳ないが。何て呼べば良いんだ?」



「下僕…はお気に召さない?んー………ぼく…ダメですか。信者?…違うな。犬?全く駄目か擦りもしない」




 私もこの金眼の男の機微に聡くなった様に、相手も相当私の事はお見通しらしい。



「名前は?あ!名前か。どうたものか……『カイザス』と『橘』どちらがお好みで?」




 私は思考を巡らせ、金眼の男が1番好みそうな名前を口にした。







「『キン』」






「はい、死神様」



「その呼び方も良くない。頼むから、私の事は『子墨ズームォ』と呼んで欲しい。水島でもいいが」



「ずーむぉ様」


「『ズームォ』」


「ズーむぉ?」


「『ズームォ』」


「ズームォ」


「正解。」



 私の名前、発音難しいらしくて誰も呼ばないんだよ。オヤジが軍に在籍してた頃や……弟達が生きてた時はもっぱら『水島の息子』や『せがれ』と言われてたな。弟達は呼びやすい名前付けてもらったんでそのまま呼ばれてたが。今生きてる妹もそうだな。


 私の名付け親は祖母になる。意味は「物事に動じない冷静な人に育って欲しい」とか色々言われたが…小さな時に説明されたんで、それしかちゃんと覚えて無い。オヤジに聞いても「忘れた、すまん」と言われる始末だ。

 オヤジも私と同じ様な事しか覚えて無かった。そんな所で親子を発揮しないで欲しい。


 『すみ』がどうのこうの言われたが、何だったかな?まぁ、いいか。キンが正しく発音出来てれば、意味なんていいだろう。

 祖母が死んで、オカンが死んで、弟達もいなくなり、今ではオヤジくらいしかちゃんと発音されない私の名前。妹は私の事を『お兄い』と呼ぶしな。

 キンなら呼べそうだと思ったが、正解だった。地味に嬉しい。



 そして、キンから「頭撫でて欲しい」って言わんばかりにズイッと頭部を差し出されたので、よしよししてやった。コレで満足か?大満足らしい。


 何で犬なんて単語が出て来たのかと思ったら、そうか…尻尾が生えてたらぶんぶん振ってそうだよな。

 確かにこれはどちらかと言うと犬っぽいよな。




「ズームォ様」



「なんだ?」



「ズームォ様」



「はいはい」




 この歳で、自分より遥かに歳上で身体のデカい男に膝枕しながら頭を撫でる日が来るとは。なでなで。



 最初は、友達にでもなれないのかと思ったが…キンが望んでいるのは何だか違う。

 『あるじ』が欲しいだけらしい。他は何もいらないと。


 人扱いといよりは、顎で使われて主に尽くして生活したいとか…たまにご褒美欲しいとか……変わってるけど、それがキンなんだろうな。


 能力は高いのに驕るどころか、目立たず騒がず影の様にひっそり主に尽くすのが生き甲斐とか。

 理解は出来ないが……私の太ももに頭を乗せて、恍惚とした表情で頭を撫でられ続けているその姿に何も言えない。本当に幸せそうだ。



 それでもーーー。





「本当は家に帰りたいんだろう?」




「そうですね…でも、帰ってももう誰も居ないんです。ファイが狂って出て行って、元から狂ってる様な出雲家の研究者も出て行って、弟もクリスタも殺されたし、息子は生かして貰う代わりに自ら奴隷に成り下がって家に帰って来なくなった………『我が君』はそれでも何もしないどころか、見向きもしない。我々が勝手にお側に侍っていただけで、神様は………コンスタンティン様は私など必要として無い」




 難義だな………。


 邪険に扱うどころかそもそも無関心なのか良く知らないが、いっそ捨てられた方が気が楽だっただろうに。


 それでも『我が君』を求めてしまうキンはどうしていいのか分からないんだろう。


 本当は帰って『我が君』とやらに尽くして生活したいだろうが、元の家に帰っても苦労を分かち合える同胞は誰もいない。


 『我が君』を独り占め出来たと喜ぶには、失った者の比重が多すぎるんだろう。孤独の中で『我が君』に仕えても、無関心なコンスタンティン様の世話を焼くには孤独感が強過ぎる。虚しくなるだけだ。




 はじめてコンスタンティン様に声を掛けられた大輔の嬉しそうな笑顔を思い出し………それの末路がキンなのかと思うと、何だか同情すら湧いて来る。敵だけど。








「あの頃に戻りたい………」





 私の太腿に顔をうずめて涙を流しているであろうキンを、ご褒美とは別の意味で頭を撫で続けた。










「『我が君』が、ズームォ様の10000分の1でも優しさを我々に向けてくれればいいのに」



「………そんなにコンスタンティン様って優しく無いのか」



「『我が君』は無慈悲ですね。優しくすると付け上がるそうです」



「な…なるほど」



 無慈悲か。何だかしっくり来る言葉だな。



 キンは川で顔を洗っている。なでなでと泣くのは気が済んだ様だ。





「ズームォ様、この後のご予定は?」



「とりあえずこちらでまた一泊だな。羽馬の世話を頼む。その後は黙って私に着いて来い」




「はい♪」




「それと…」




「?」












「ちょっとまた肉を確保しに行って来るな…大丈夫、ちゃんと帰って来るから」





「………わかりました」




 ちょっと不服そうな顔のキンを置いて、食料調達の為に森に入った。


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