287.5 死にゆく者達2
「魔道具はどこまで扱える?」
「私のです?初級になります」
第1隊長室と言う所に呼び出されて、密書の他に何か色々持たされた。え?こんなにいいの?羽馬まで……思わず食事の礼を述べて、この先の武運を健闘すると始めて深淵の眼が私を捉え、肩をポンポンと軽く叩かれた。
「協力に感謝する」
水島隊長は、そのまま部屋を出て行ったが、私は暫くその場で動けないでいたが…案内役の者に促されてあれよあれよと言う間にいつの間にか城壁の上に来ていた。
風はあるが、だいぶ弱まっていた。
「カイザス国の端にある城壁に乗り換え用の羽馬を準備しています。良ければ使って下さい」
「………何から何までありがとう」
「お気をつけて」
良く調教されているであろう立派な羽馬は、嫌がりもせずに私を乗せてくれた。
賢い羽馬で目的も分かっているのか、手綱を軽く握るだけで空をスイスイ飛行して行く。
片手を離して途中持たされた水筒の冷えた水を喉に流し込むと、火照る身体が幾分かマシになった。しかも、夏の夜空を眺める位の余裕まである。
カイザス国の端の都市が見えてくると、城壁上から羽馬に乗った人が先導してくれて、城壁内に誘導される。
地面に降り立つと、体調を確認された。
「随分お疲れの方だと首都クリスタの軍から報告を受けていましたが、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ…ありがとう」
程よく冷えた建物の中に入ると、私はトイレをお借りて暫く横になる様に言われた。
「カイザス国の部屋は冷たいんだな…」
「ああ、貴方が来ると聞いて部屋を冷やしておく様にと水島第1隊長から命令があったんですよ。今日は特別です。これ位しか我々はできませんが、少しだけでもお休み下さい」
汚れた身体で寝転ぶのが申し訳なくなる様な真っ白で清潔なシーツが敷かれたベッドに寝かされ、私は暫く瞼を閉じた。
1時間程の休息だったが、まだ少し眠気のある顔を洗っていると上半身だけでもお拭きくださいと、温かいタオルが手渡された。
私は礼を言って受け取り、身体を拭かせてもらう。汗と土埃で汚れた身体がタオルで拭う事にスーッとして気持ちがいい。
食事を軽く済ませていよいよ出発だ。
「氷水は追加して起きました。余りにも暑くなる様なら頭からかぶって下さい」
「ありがとう…」
「お気をつけて」
今度の羽馬も、立派な肢体の良く手入れもされた艶やかな毛並みの奴だった。
城壁上から見送りの者に手を振られて出発し、私はこれからの事を考える。
父親が、何故カイザス国に助けを求めたのかやっと理解した。この短期間で国力の違いを見せつけられた気がする。
皆んな誰も彼も優しい。一見近寄りがたい『死神』でさえ、私を…私如きにこんなに良くしてくれる。
誰かに優しく出来ると言う事は、それだけ心に余裕があるからだ。
ベスティア国は実力主義の国。ある意味、他者を蹴落として強さを求めるあまり殺伐としている。
弱い者は守ると言う心情もあるが、あくまでも強者目線の者の考え方だ。私も『弱ければ筋肉をつけろ』と良く軍の先輩に言われていた。
強い故に弱い者の生き方や考え方がまるで分かっていない。
底辺の者は導き手がいた方が良い時もあるが、どうしても強者に依存しがちの生きた方になる。それが悪い事だとは一概に言えないが………私には自立心が無いとも思える。
更に、中途半端に力を持った者の扱いはおざなりだ。
強者には考え方を押し付けられ、弱者の保護を求められる。自分自身の事で手一杯なのに。
羽馬の世話ひとつとっても、「良く食わせれば大丈夫」とか言って餌代の費用は沢山あるが、世話する場所の維持費や人件費などがおざなりだ。
お陰で体重が増えて、長時間飛べなくなったんだろうとこのカイザス国の手入れされた羽馬に乗せて貰ってやっと気がついた。
他国から『脳筋』と呼ばれているらしいが、私も脳筋のひとりだったんだな笑える。あんな奴らと一緒にするなと思っていた無駄な筋肉ついた自分を殴り飛ばしたい。
カイザス国の羽馬を操る者は私より小柄だが、無駄な筋肉が無かったな。動きで分かった。
魔道具が入った箱を眺めながら、果たしてこれをベスティア国の者がちゃんと使いこなせて、撮影出来るのか心配になって来た。
姑息な手段が嫌いなベスティア国民だ。きっと正面突破するから「必要ない」と言って壊されるかも知れない。橋すら現時点で渡れないのに。
しかも、王様に黙って出て来たしな。どうしよう………あんなに良くしてくれたカイザス国の方々に、何とか情報だけでも届けたい。
ギリッギリカイザス国と言う様な所に木が1本生えてたので近くの地面に穴を掘って行く。
あんまり浅いと魔物に掘り返されたりすると困るので少し深めに掘り、そこに封印がされた『ビデオカメラカメラ』を埋めて行く。
目印に大きめの石を置いて、もう使う事の無いナイフで石に文字をガリガリ刻む。
持っていた地図に印をつけて、『木が一本、石の下』と記載してから羽馬の元に向かった。
結局、私はそのままハイルング国に向かった。
『使い捨てカメラ』の使い方は教わったし、ちゃんと説明書もある。
そのままハイルング国まで一気に目指して、幾つかの場所を撮影して行く。
煙が上がって壊れた城壁、平原にポツンと1匹ゴブリンが居たので近くで撮影したり、橋の位置やハイルング国の地形。
途中魔道具が動かなくなったので、ベスティア国を目指した。
ベスティア国の橋を越えると羽馬の集団が居た。通り過ぎようとしたら、1匹近づいてくる。
「あー。こないだの犯罪じゃだぁー。待て待てー」
思わず苦笑いして速度を落とす、此方に飛び乗って来たので私は荷物を持って、下手くそな芝居の者が乗っていた羽馬に飛び乗る。
「うわっ…何だこの羽馬ツヤッツヤ!あ、待ってちょっと待ってフラフラじゃん。ごはんあげるからあっち行こうあっち」
ハイルング国内で何度か休憩はさせたが、かなり無理をさせてしまった。
そのまま下手な芝居の奴と艶々の羽馬に心の中でお礼を言って、私はベスティア国の王都を目指した。
私は静止の言葉を無視して、そのまま王宮に羽馬で突っ込んだ。
意識が朦朧とする中、必死に何度も「父親を」、「宰相の元に」と何度も何度も呟いて意識を手放しーーー。
顔に水をバシャリとかけられて、私は目を覚ました。
「軟弱だなお前の息子は。鍛錬が足りないのでは無いか?」
「…………」
「はぁ……はぁ…さい…しょ……にもつ…を………」
「確かに受け取った。後は任せろ……良くやった」
生まれて初めて父親に誉められて、何だか幸せな気持ちで私は再び瞼を閉じた。
気がつくと私は黒い門の前に立っていた。
ハイルング国側から撮影されたとされる写真の数々で、地形や城壁状況など詳細に知る事が出来き、軍事作戦に多大な功績を残した。
ゴブリンのスタンピード時、初めて近距離からのゴブリン撮影に成功した者として、後の世の教科書に写真と共に名前が記載される事となる。
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後続の伝令 END




