285話
「私はちょっと散策して来るから、2人は寝ててくれ。一応簡易結界を張っておく」
「「了解」」
道なき道を歩いて獣道を見つけたんで、更に進むと川があった。トイレ済ませよう。
手を洗って、上半身だけ服を脱いでから頭を川に突っ込んだ。そのまま頭をゴシゴシ。
「ぶはっ」
ちょっと大きめのスライムを捕まえて、顔を数秒埋めて張り付かせた後に頭の上に乗せておく。うん、やっぱりこいつ水スライムだったか。
そこら辺に生えてた大きめ葉を2枚むしって頭に乗せてた水スライムを押しつけて、綺麗にしてもらう。
私の頭も葉っぱも水分と汚れが取れてスッキリした後に、弓を構えて木に止まっていた鳥を仕留めた。食い出がありそうだ。昼食だな。
鳥から矢を抜いて、川まで持って来たら首を落としつつ血抜き。羽をある程度むしってむしって、大きめの羽はマジックバッグに仕舞い込んだ。ついでに鉄串を数本出す。
血抜きがある程度済んだら、腹を裂いて内臓を取り出す。
火を起こして鉄串を刺した鳥の表面を焼いて行くか。
丸焦げになったら表面をナイフでこそげ落として、中の肉が適度に焼けてる所は葉っぱの上に切り分けて行く。生焼けのところはまた焼けばいい。
鳥の残骸はそのまま川に流して、葉っぱに乗せた肉を3分の1食べて、残りは包む。お土産だな。
肉と頭に水スライムを携えて、寄り道しながら幾つか木の実をもいで……持ちきれなくなる前に2人の所に戻った。
2人はまだ眠そうだったが、結界を解いて魔物避けで一服していので私も参加させてもらう。
「ふぅー………短時間目を離した隙に何やってるんですか貴方は?」
「いや、散策して夕飯調達してただけだからな。食べないのか?」
「食べますよ」
「ご馳走来たな。美味そう」
水スライムを地面に下ろして、木の実を押しつけて綺麗にして貰う。2人に投げて寄越した。
元同期は腹が減ってたのか、渡した側からそのまま皮ごと齧り付いた。
「うーまー……過ぎるな?普通の黄桃じゃ無いなこれ???」
「桃仙の亜種だな。大丈夫、食べても寿命伸びたりしないだろう」
「ぶふっ!!!!!???」
世話好きの元部下は食べようかどうしようかまだ迷っている。
私も折角なんで皮ごと齧ってみた……もぐもぐ。不味くは無いが、口当たり悪いんで2個目はちゃんと皮剥こう。
桃仙もどきを口に咥えながら、水スライムに綺麗にして貰った物は2人に投げて寄越す。世話好きの元部下は溜まる一方だな。
次は葉っぱを開けて、肉を目分量で半分に分けてから投げて寄越すのは無理なので、立ち上がって各自に手渡した。
「まーたーかー…美味過ぎるな。何だこの肉?」
「鳥がいた」
「…………………え?もう一回言って?」
「鳥がいた」
「魔物の鳥系じゃ無くて、天然の只の鳥?」
「焼いてしまったんですか……………」
家畜じゃ無い動物って中々フィールドにいない…らしい。普通はもっぱら魔物になるんでな。私は探そうと思えば見つけられるが。
動物は滅茶苦茶強いか、隠れたり逃げ足が速かったり、猛毒持ってたり極端。魔力豊富な肉なんで、魔物に狙われやすいからな。
因みにこの鳥の名前は知らない。多分、隠れるのに特化した個体なんだろう。わざわざ調べてもらった事無いんで分からないな。
鈴木商会で働いてた元同僚は鳥の焼けた肉を凝視していた。「これ幾らだ?」と顔に書いてある。
「水島しきか…ゴホンッ。水島さん、桃は食べたらどうなりますか?」
「いや、どうもしない。美味しいだけだよ…本物はもっと大きかったし」
「…………そうですか」
「ホンモノオオキイ?………水島、『自重』って言葉知ってる?」
「もちろん」
「どうしちゃったのお前?知ってるなら自重少しはしよう?」
「すまん、自重はカイザス国に置いて来たんだ。欲しかったら取ってきてくれ。作戦司令本部に落ちてるからよろしく」
「いや、そんな怖い所行かないからな。まぁ、いっかな…飯マズイより」
話しながら食事を済ませる。
クラーケンとの再会の話しを元同期としていると、世話好きの元部下もやっと桃仙もどきを食べ始めた。顔に「甘くてジューシー、マジ最高」と書いてある。
「散策して来ます」
「いや、お前は森に入らない方がいい。その木より先に進むと戻って来れない」
「………わかりました」
「そういうのはもっと早く言えな?」
「お前に予め言うと森に入ってたろ」
「あははは!否定出来ない!」
テントを2つ張って、交代で水スライムに身体を綺麗にしてもらう。
1つのテントに桃仙もどきとダンジョン産の桃の種を数個別々に、後は手持ちのサンドイッチ全部を入れて置く。
そのままもう一方のテントで3人横になり、ぎゅうぎゅうになりながらも寝る事にした。見張りは今日も無しでいっか。どうせ雨だし。水スライムは外に置いとくな。
「狭い」
「今夜は冷える。明日の昼まで…ゆっくり寝………」
言い終わる前に寝てた。
「ぎゃぁあっ!!?」
「?」
「見てきます」
「いや、私も行った方が早い…ふぁあ〜……ネム……あ、こんにちは」
「誰っ!え、これ誰っ!?知り合い?」
「落ち着け。取って食われたりしないから…多分?」
ギャーギャー騒いでる元同期はとりあえず置いといて、私は目前の美丈夫に向き直った。サンドイッチはもう食べたんだな。パンくずが口についてる。
自分の口元を人差し指で指して「パンくず付いてますよ?」とアピールすると、手で拭っていたんで通じたらしい。
私は構わずに、昨日外に放置しといた水スライム…元々大きめだったが、体積が5倍くらいになって更にデカいな。
ナイフで表面を削いでから、自分の口に入れた。うん、水。
「よっこいしょっ。良かったらこれもどうぞ」
無表情で見ていた美丈夫に水スライムを押し付けると、ちゃんと受け取ってくれた。
「折角だしもらうか」と、多分思ってるみたいだな。
水スライムを1回地面に置いた美丈夫は、昨日テントの中に置いといた桃仙もどきの種が入った袋からひとつを取り出して、私に差し出して来たんで……そのまま両手で受け取る。
「ありがとう」
私が礼を言うと、美丈夫は水スライムを抱えて森の中に帰って行った。
「で、あれ誰?」
「知らない。初対面だな」
「えぇ〜???」
「あれは……人なんでしょうか………」
「種族分類だと魔族かエルフ族か?私も会ったのは数える程々しか無いんで、良く知らないんだ」
多分、ジャンケンしてチョキしか出さないブラックバードの仲間なんだろうな。
姿形はブラックバードだったが、違うんだろうなー…。
「カーカー」大爆笑してたのは、恐らく本物の桃仙を守ってる奴でもあった。
昨日食べた桃仙もどきを守っている、濡れ羽色した黒髪の美丈夫が森の奥に消えたのを確認して、私は桃仙もどきの種をマジックバッグに仕舞ってからテントを畳み始めた。
「説明は?」
「よく知らないのに説明も何も無いだろ」
「はぁ〜………水島さん、あちらは私が畳みますから、終わったら休憩してて下さい」
「了解。一服するかな」
「めっちゃモヤモヤする。あれ何?てか、誰だったの?」
とりあえず一服しようぜと誘っておいた。
これくらいでいちいち騒いでたら、この先身が持たないぞ。
ー
死神の同行者のつぶやき
元同期「いや、ツッコミどころ満載過ぎるから。」




