282話
大きめの作戦立案用天幕に足を踏み入れると、クソ重い空気が漂っていた。健介様が特に酷い。
「お待たせさました。それでは私共の話を聞いて下さい」
「分かりました」
今度は大輔パパの血統結界が展開された。色が微妙に違うんだな。話しを進めるのも大輔パパ…気が抜けないな。
「王太子救出に助力しますが、その経路は秘密にしてもらいたい」
「分かりました。他に条件は?」
「それだけです」
「……………」
嘘は言って無い様だ。
「神聖帝国も馬鹿では無いんですよ、警戒しないでいただきたい…最高司祭様は『国が滅ぶかも知れない』と言っていました。エデン全体の問題だ、ちゃんと協力させて下さい」
嘘は言って無いが、大輔パパが言うと滅茶苦茶嘘くさい。
とりあえず、神聖帝国側の優先順位を教えて貰った。
「1位は健介皇子、これは皇位継承の序列が高い為です。残念ながら私が2位、健介皇子と似たような理由。3位が巫女の家系どちらか。4位以下はそちらが決めて構わない」
「分かりました」
「しかし、救出に使う道はハイルング王家の血が必要だ。完璧な無色の…橘家の生き残りがいるなら、最悪ハイルング王家の魔力でも構いませんので心当たりは?カイザス国の新王は残念ながら該当しませんが」
ああ、なるほど。このお方は手柄が欲しいのか。
「すまないが私は心当たりは無い」
「………そうですか」
何だか一瞬怪訝な顔にをされた気がする。いや、本当に知らないから。
私が大輔パパを疑う様に、向こうも私を相当警戒してるみたいだな。私など警戒されてもな…何も出て来ないぞ?
「で、同行者はどなたが引き受けて下さるのでしょうか?」
「……………」
何で困惑されたんだろうか。大輔パパの考えはやはり私には分かり辛い。オヤジ程では無いが。カール様並みには読みづらいな。
「ユリエル・カミュを出して貰いたいが…」
「橋の解除と、橋付近に城壁を構えるサミュエル・カミュの派閥で実質無所属の貴族に渡りをつけるのをそちらにお任せしても良いのであれば止めはしませんが…私は余りオススメしたく無い。橋の製作者がサミュエル・カミュかも知れないとユリエルが言っていました」
「…………ひとつ言っても良いだろうか」
「どうぞ」
「私がこれから最終的に何を言いたいかわかるだろうか?」
「貴方が同行者に入るのでしょう。違うなら謝ります。次の総選挙頑張って下さい。私は大地神教者じゃ無いので投票権はありませんが。予備の人員は恭介様を出来ればお連れしたいが………」
「はぁあぁぁぁぁ〜…………皇后様。私はちょっと頭の整理をしたいんで、この直感型の『死神』様に代わりに話をして欲しい。話が通じている様で、寧ろ通じ過ぎてて何考えてるかサッパリ分からんぞ此奴」
「ジャンケンで主導権を得たのはそちらでしょう?嫌ですわ」
やっぱりジャンケンしてたんだ。
クソ重い空気から、何だか呆れられた雰囲気出された。すいませんね。回りくどい言い回しとか腹の探り合いとか、私には向かないしやりたく無い。
橋の解除は王族の血を引く者しか出来ないのを内緒にしてくれとカール様は言っていたが、神聖帝国でも試した事あるんだろうな恐らく。
今現在も橋が無事に掛かっているところを見ると、一方通行も解除出来なくて失敗したみたいだが。
「そもそも我々の中に何かの血筋が混じっている前提で話されてる様だが、何処で知り得た情報ですか?」
「勘です」
「皇后様…」
「嫌ですわ。ご自分で何とかなさい。私にも無理だから」
「義理父上、だから言っただろう。水島指揮官に頭脳戦の話し合いは無理だと」
「諦めて下さいジェームズ様。『死神』に読み合いなんて無意味です」
双子が何か言っているが、頭脳戦なんてごめん被りたいので黙っていよう。
優先順位をつけた割に、条件では無くて飲まざるをら得ない状況に持って行くのは神聖帝国っぽいなと思う。
優秀な文官、軍人をカイザス国に送り込む手口とかな。正規の手順で手続きや試験を掻い潜って来るんで、能力高ければ雇うしか無い。
大輔も戸籍改ざんじゃ無くて、産まれた時から母親しか居ない扱いなんだよ。認められて無いが、大輔パパの私生児なんだろうな。
一応調べたが血縁者に犯罪者いないし、戸籍は綺麗だったんで警戒対象扱いで最終的に採用になったらしい。
スペック半端ないんだもん大輔。軍の採用試験で筆記も実技もなんなら提出された学園成績も、ついでに魔力量も総合ぶっち切りの1位だったみたいだし。
仕事させながら尻尾出さないか様子見してたが、いつの間にかこちらが食われたと言うオチだ。大輔の方が1枚上手だったな。
結局その後、神聖帝国側の意見を全て飲んでついでにハイルング王太子救出後に何処の城壁から話しをしに行くか、頭の良い方々に意見を求めた。
カール様と健介様で1回話されてたので、それをベースにゴブリンの巣の位置をふまえて最終的な順番を決めて行く。最低3箇所。後は芋づる式に何とかなるだろうと言われた。
「最高司祭様より話しづらい奴がいるとは思わなかった」
「聖女の家系の者と話してる方が楽だと感じる日が来るなんて…疲れましたわ」
それは私も言いたいんだが。頭使って話して来る奴はちょっとリズムが違って中々話が進まない。「なんでそうなる」とか「いや、こうなるでしょ」とか言われてもな。
話が終わったところで、夜は雨だから早めに夕食を食べて大人しくしていて欲しいと伝える。
「意味が分からない」
「雨???」
「では、私は武器の手入れをする。健介付き合え。引き継ぎもしたい」
「了解」
「お…お待ち下さい!」
双子の軍人はこれからの予定を決めているが、他の4人はどうしていいか分からない様子だ。頼むから、面倒は神聖帝国で見て欲しいな。
夕方、スライム風呂の方から女性の、次いで男性の叫び声が聞こえた気がしたが、私は気にせず寝る事にした。おやすみなさい。
ー
スライム風呂体験
皇太后「きゃぁぁあぁぁっ!!!!!?」
女性軍人「大丈夫ですか?」
皇后「お肌ツヤツヤで素敵っ!!昔流行ったのよっ!また入れるなんて思わなかったわっ!?最高!!」
男性陣
ジェームズ「ぬおわぁあぁああぬぁんだこれはぁああぁっ!?気持ちぃぃぃ!!!」
巫女の家系1「ぎゃあぁぁぁっっっ!?」
巫女の家系2「そうか、若いのは知らないか。あんまり暴れて潰すのは良くありません。後の者が入る時に足元がクズ魔石だらけだと痛いので…頭までしっかりお浸つかり下さい、髪の汚れが落ちませんぞ」
ジェームズ「わかったぁあぁぁぁっ!!」
巫女の家系1「ぎゃぁあぁああばばばばっっっっ」




