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つばめと学ぶ異世界生活事情  作者: とりあえずごはん(・ω・)
第四章 ゴブリンのスタンピード編
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280話




ー数ヶ月後ー



 橋前は相変わらず防衛戦だ。

 何度かゴブリンを通過させてしまったが、予想よりは数が少ない。

 通過したゴブリンは城壁に滞在しているベスティア国軍に任せて、私達は橋前の防衛戦を主に力を入れている。



 野営地での治療が困難な者は国に返して、その代わり援軍が増援に駆けつけた。その中にはかつての同期や先輩達も混じった頃に、ユリエルから手紙が届いた。



 どうやら、サミュエル・カミュの支持派閥と渡りをつけた様だ。

 現在西の2本橋解除に協力すると共に、そちら側に来たゴブリン駆除に貢献して貰っているらしい。


 ハイルング語か、エルフ族古語を喋れる者を含めて援軍を送って欲しいとーーー。



「成長したなユリエル」



 思わず呟いてから、援軍用の部隊編成を組んで近場の部下に任せた。

 橋の解除が1本出来たらしい。思ったよりも早かったな。



 オヤジの井戸掘りも順調みたいで、怪我人を1人出しただけで追加の人員も要らないそうだ。

 竜人種のロックがいい働きをしてくれてるみたいだな。ジョゼフィーヌ見る目あるよなぁ。

 カイザス国の鳥種より先に単体で背中に乗れたみたいだ。

 鳥種の方もオヤジと2人乗りなら許されたので、オヤジと同乗して手綱を任せられる位なら確かに楽にはなっただろう。


 井戸掘ってたら1カ所中々水が出なくて変わりに温泉が出たとか流石オヤジ………予想外だが嬉しい誤算だ。




 しかし、ベスティア国の避妊の魔道具の普及が余り進んで無いらしい。

 元々魔力量が少ない獣人族だ。施術の際に使う魔力や医療機関が揃って無いんだろう。避妊薬の配布と共に大輔は専門の医療班をベスティア国に派遣する決定を下した。



 大輔からの書類を眺めながら昼食を取り、幾つか訂正を入れて書類を羽馬の伝令で送り返した。


 私は作戦立案場の大きな天幕に向かう。

 部下と共に天幕に入室許可を求めると中から返事があったので足を踏み入れる。


 天幕の中には、神聖帝国の者がズラッと並んでいる。要人は席に着いていたので私もいつもの定位置に腰掛けるか。



 恭介様は勿論。増援で送られて来た『巫女の家系』の者2名と、皇家から健介様、それと初めてお目に掛かる御仁が2名いる。



「お初にお目にかかる。最高司祭様の名代で参った『ジェームズ』と申します」



「はじめまして。息子達がお世話になっています。皇家代表の『真希まき』と言います。以後よしなに」



「はじめまして、指揮官を任せれているカイザス国第1部隊所属。副隊長職を賜る水島と申します」



 あ、大輔のパパ来ちゃった……最高司祭様の弟で大地神教者のNo.2。分家に任せると思ったら違うのか。恭介様の義理の父親だな。


 もう1人はこの場に似つかわしくない女性で、皇帝の奥さんで皇后。恭介様と健介様のママだ。


 カイザス国の作戦司令本部には皇太子が健介様の変わりに神聖帝国代表者で送られたらしい。




 個人的には大輔が可愛く見える位の御人ばかりだ………皆んな涼しい顔して腹の中真っ黒だな。特にジェームス様。これが黒幕か……カイザス国が内部から掌握されかけてる訳だ。 



 頭の中では色々考えながら、とりあえず様子見で当たり障りの無い話しをする。



 様子見が終わったところで本題に入らせて貰う。





「ハイルング国皇太子の救出を行いたい。その為にあなた方の力と知識をお借りしたい」




 皇后がさっと手を挙げると、ぞろぞろと神聖帝国側の人間が出て行った。私も部下を下がらせる。



 皇后はそのまま血統結界を発動させた。

 話の続きを無言で促されたので、私は言葉を紡ぐ。



「単刀直入に言わせて頂く。ハイルング国城壁の中に入りたいのです」




「ほぉ〜…そうですか、で?」



 優雅に紅茶を飲みながらもドスの効いた声が怖いですね皇后。何も言わない大輔パパも怖いけどな。


 私はハイルング国の派閥の話をした。知ってるだろうが…健介様がハイルング国の内部事情を報告しない訳は無いからな。




 「王太子を救出すれば、女王の派閥の幾つかは協力してくれると?」



「はい」




 カール様の派閥は恐らくカール様の手紙と使者を送れば協力してくれるだろうと、ご本人から言われた。

 ただ、場所的に緊急性も低いし、何より今は人員を裂けないどころかエルフ族以外が近づいたら攻撃されるので後回しにしている。

 井戸掘りを優先して、軍を派遣出来る体制が整ってからでも問題無いと思う。


 問題は、島地を占める女王の派閥だ。




「カール様がカイザス国に援軍派遣された条件は3つ。1つはフィールドの環境破壊を極力避ける事、2つ目は王太子の救出。3つ目は『ヌシ』の討伐です。後は、強制ではありませんが、城壁を任されている上級貴族の意向を確認してから作戦を遂行して欲しいとも言われました。その方が後々のトラブルも少なくて済む」



「上級貴族の意向?」



「主に攫われたエルフ族女性の扱いについてです」



 カール様は個人的には殺しても構わないと言っていたが、上級貴族に確認出来るならした方がいい。



「エルフ族の方は長生きです。我々が知らないエデンのゴブリンとも生きてきた時代の方々がいらっしゃる。ハイルング国の法律にはゴブリンに攫われた者の扱いについて『1番近くの城壁の上級貴族の判断に任せる』とあるそうです。エデン各国やハイルング国全土の調整役は王家だが、他国と比べてハイルング国貴族の裁量権は非常に大きい」



「味方にすれば心強いが、敵に回すと厄介ですね」



 大輔パパ正解。流石頭の回転速い通り越して高速だな。裁量権の詳細とか話して無いのに。

 話が早くて助かるよ…大輔パパも味方にするなら心強いよな。何で敵さんなんだろうな。

 神聖帝国に前線指揮とか任せられたら、私よりよっぽどいい仕事しそうだよ。その先混乱に乗じてエデン全土がほぼ神聖帝国になりそうだが。



「因みに、同派閥の結束は固いが、他派閥は仲が悪いそうです。私の中では、王太子の救出は現在かなり優先順位が高い」



 立ち上がって、ハイルング国の地図を机の上に広げ、カール様に教えてもらった派閥内訳を色のついた石で示して行く。


 途中健介様が手伝いを申し出てくれたので、2人でコトリ、コトリとひとつずつ色石を置きながら健介様が上級貴族の派閥内での立ち位置や性格、伴侶の派閥などなど細かく話してくれた。助かる。



 色石は置き終わったが、私は健介様が話している間に、いつもの円錐の緑色の駒を置いて行く。ゴブリンの巣の位置だ。



 1番大きな駒を置き終わったところで、健介様の説明も終わり、私は深呼吸してからハイルング国の王都を指し示した。



「この王都城壁に秘密裏に潜り込みたい」



「うふふっ…随分と大きく出ましたね」



 大きくどころか、かなりの無茶振りだと自分でも正直思う。






 神聖帝国側に、エルフ族の入手経路を明かせと言っているからな。



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