273話
世界各国、死にゆく者の送り方は色々あるがカイザス国は宗教など自由な国だ。各家庭、個人でも沢山の看取り方や看取られ方がある。
「ユリエルの家庭はどんなだ?」
「俺のは…世界樹の国でも特殊な『弔いの旅』が送り方だったんだと思う。近しいのだとカミュしか知らない。国で一般的なのは、『死んでも近くにいる』的なのだな」
「そうか。やっぱりカイザス国の軍人とはちょっと違うな」
火葬してる間に穴を掘る。井戸掘り用のスコップだったが、違う穴掘りに使う。
ユリエルの魔道具だとあっという間に焼けるだろうが…流石に焼いてくれなんて言えないしな。あんなに泣いて、今もたまに鼻を啜ってるくらいだし。
森の中だが、ジョゼフィーヌがいた開けた場所に移動して、木を組んでナロ元隊長を横たえて油を撒き現在焼いている。
焼く場所や、燃やせない場合は最悪首と胴体を離して埋めてやるのがフィールドでのマナーだ。
大体遺体を見つけたら油をかけたり、木を調達したりしてある程度は、どうにかしてある程度焼くけどなしてから埋めるが。
城壁に遺体を持ち込むと火葬してくれるんで、実際はコレが1番多いかな。
身分証らしき物があれば近くの城壁や立ち寄った城壁に届け出る。
遺留品の扱いは拾った者の自由だが、暗黙の了解でカイザス国だと大体持ち主の家族の元に返す。
ナロ元隊長は耳飾りが身分証なんで外してユリエルに持たせた。大体獣人族は耳飾りだな。全身獣化出来るのは特にそうだ。
話は戻るが、カイザス国軍での看取り方と言うか考え方は「お前が来るのを地獄で待ってる」とか死ぬ可能性が高い時だと「貸しひとつな。返しに来い地獄まで」とか色々あるが、共通して言える事は死んだ者が死者の国で待ってると言う事だ。
軍人だ、少なからず生き物を直接この手で殺してるので決して天国には行かない。
誰が言い始めたのかは知らないが、私の知る限りだと先輩方も皆んなそんな感じだった。
最高齢のナロ元隊長に教えて貰ったんだが、ナロ元隊長も自分の教官に教わったと言ってたから歴史は古いんだと思う。
地獄で待ってた先は、一般的に広まってるカイザス国の考え方だな。
死ぬ間際にひとつだけ、ささやかな心残りを思い浮かべる事だ。ささやかなのが肝心だぞ。
例えば、また「あの本が読みたい」とか「この料理が食べたい」とか思い浮かべて死ぬと、来世でその本や料理に会えるんだ。
本や料理を通して、関節的にそれに関わった人達にまた巡り会えると信じられてる。
生まれ変わり信仰とも言うか。
神聖帝国国教の大地神教者だと「神の元に行ける」らしい。死んだら神様にお会い出来るみたいだ。
実物の神様こと、コンスタンティン様に遭遇した私には、アレに会いたい気持ちが良く分からないが考え方は人それぞれだよな。
ベスティア国は結構直接的だ。耳飾りや遺留品を看取る者に渡して来世を約束する。
近場に来世を約束する者がいない場合は託したりするが。「これを○○に渡して欲しい」なんて言ってな。遺言もこれが1番多いみたいだ。
フォーゼライド国はドワーフ族主体なんで簡単だ。次も美味い酒飲みたいとか。天国でも地獄でも来世でも酒飲ませてくれって感じだな。
死ぬ時も酒を煽って死ぬくらいだし。
ハイルング国のエルフ族の考え方は良く知らないが、エルフ族だと最早一緒に死のうって感じだ…来世どころか今世でも1秒も別れたく無いらしい。長寿種の割に気が短い。
で、ユリエルのナロ隊長の看取り方だと「最早地獄に行かせない」に近い。笑って見送れとは言わないが、引き止めるのはダメだ。
死ぬ方が死者の国に行くのに迷ってしまう。妨害工作だぞ。
「地獄で皆んなで酒盛りしててくれ。先始めてていいよ。後から行くから」くらいの心持ちで送り出してやるのが、カイザス国軍流だな。酒盛りした後は各自お好きにどうぞって考え方で、待てないなら先に来世行ってもいいよのレベル。
ナロ元隊長、地獄での酒盛り不参加で、きっと奥さんとの来世の約束もすっぽかしてユリエルの再教育しに戻って来るんだろうな。待ってる方も可哀想だが、ユリエルに付き合うナロ元隊長も可哀想に。
あの人なら本当に帰って来そうで怖いわ。前世の記憶を持った生まれ変わりとか、本当にいるらしいしな。
後は悪い方だと未練を残して死んだから、オバケになるとかだ。あの人が悪霊になったら手の施しようが無い気がする。
と、言うのをユリエルに掻い摘んで説明したら唖然とされた。
「来世で…何故だ。面倒臭いから一緒に死ねばいいだろう」
「そうなるよな。ユリエルだから」
先程も一緒に死のうとしてたらしい。そんなにナロ元隊長気に入ったのか…ドンマイ鬼教官。エルフ族に目を付けられたのが運の尽きでしたね。引き合わせたの私ですが、恨まないで下さい頼みます。
ユリエルは100歳越えてるが、エルフ族にしては若い。身近な者の死に慣れてないみたいだ…毎回これでは本人の身が持たない、が………。
「でも、ニャン子に『また逢いに行くからそれまで何が何でも生きろ』と約束させられてしまったし……スビッ」
「そうだな。今は頑張って生きろ」
我が身を犠牲にしてユリエルを生かしたのだ。
軍人としては「自分の分まで生きろ」は結構タブーとされている。……普通のカイザス軍人にそんな事言ったら「地獄で会う約束されなかった、もしかしてコイツに嫌われてる?」とか「死ぬ奴が何言ってるんだ。お前の分まで働けってか」と、思われるな。
長寿種で規格外のユリエルなんで、機転を利かせて死んだナロ元隊長には頭が上がらないな。私には真似できない…死に様まで教官らしいなとも思う。
死ぬ時まで下の者を導く様は尊敬するよな。だから皆んなこの人には頭が上がらないんだ。
こんな死に方しても…プライベートも仕事もごっちゃ混ぜにして、世話をされた数々の部下も「また人の世話焼いて。ナロ教官なら仕方ないか」って地獄で笑って許してくれるだろう。
奥さんは多分許してくれないかもしれないが(苦笑)。
ー
カイザス国軍地獄にて(想像)
「ヒャハーッ!死んでやったぜ待たせたな」
「あ、お疲れ様で〜す」
「遅えぞ!いつまで待たせる気だよ。貸し返せ」
「まぁまぁ、いい話しいっぱいしてやるから許せよ!『死神』がやらかしてるから」
「何それ気になる〜」
「次こそはナロ教官だと思ったのに…いつまで待てば。来世で結婚の約束してるのにそろそろ不味い」
「水島さんの息子が遅いのは分かるが、父さんはもう来てもおかしく無いのにな」
「あ〜るぇ〜?」
「酒でも呑みながら気長に待つか。2次会どころか何次会目だこれ?」
「ずっとこのままでもいいな!地獄で飲む酒も最高!ゴクゴクゴクゴク…プハーッ!」
こうしてカイザス国軍の酒盛りはナロ不在で続くのであった。




