270話
数匹ずつ固まったゴブリンを葬り去る中、橋の中腹まで来た。
腕の立つ弓を扱う者で先制攻撃、槍で距離を取って1匹づつ仕留めて行く。
「なるほど、近くで見ると圧巻だな。時計塔より高そうだ」
長い橋の割に手摺りが無く、中腹辺りにそびえ立つ支柱を中心に、ワイヤーが張ってある。
現在薄暗くなって来たんで、常夜灯と言うのか…灯りが足元の橋の上ギリギリにいくつも灯っているな。手摺りが無いんでアレを踏み越えたら下は海だ。
橋の色自体が白いので足元は光を反射して結構明るく見える。
ゴブリンの体重は約10kg。こちらの人選は体重制限65kg以下にして、装備は軽装。1人あたりの総重量は大体70kg前後ってところか。私は別だ。そもそも体重が65kg以上あるからな
逃げようとした最後の1匹に矢を放ち、絶命したゴブリンから去り際に矢を抜き取る。
橋を渡り切った所で、合図を出した。
ヒューーーーーーパァンッ
夜空に浮かぶ発光型の使い捨ての魔道具を打ち上げて暫くその場で待機。
第2陣数人を待つ間に、近寄って来たゴブリンを屠りながらその時を待つ。
後続の者達は結構なスピードでお互い離れて駆けてきたのにも関わらず、息切れもしてない。流石高齢者、元気だな。
後続の者達は総重量100kg未満の高齢者。
特に魔力量が多い者に一方通行の橋前に設置型の簡易結界を扇形にニ重に展開させて、陣を張る。
結界内にいると魔力が徐々に吸われ、セーフティロックが甘い旧式のものだが、物理攻撃は通らない。その代わり、結界内からも攻撃出来ないがな。
取り扱いが危険なんで、上級魔道具使用免許が本当は必要なものだが、免許無くてもハイルング国内のフィールド上なので問題無いだろう。
外側の結界はわざと隙間を開けて、ゴブリンが通れる様にした。
内側も多少隙間はあるが、外側よりは通りずらい作りになっている。
最後に橋の目前に大きめの簡易結界を5つ展開させる。こちらは登録者式の物で、魔石に込められてる魔力によって展開するタイプだ。物理、魔法攻撃を防ぎ、内側からも攻撃出来る。
今回の作戦に参加する者は全員何処かしら登録してある。休憩と怪我人の一時待機場所だな。
物資を取りに行くがてら、一方通行の橋を駆けながら橋上のゴブリンを屠りに行く元気な高齢者を眺めながら、私は指示出しに勤しんだ。
橋上からもフィールド上からも「ヒャハーッ!」とか「うぉおぉぉっ!」とか雄叫びが聞こえた気がしたが、きっと空耳だな。
スライムの仕分けばっかりだったんで、身体を動かして今の内に鬱憤を晴らして欲しい。
陣の場所取りの確認が終わった所で、結界を一時解除して雨が降る前に交代で休憩をする運びとなった。
小雨が降ったら、橋前の陣は1番の年長者に後を任せて手の空いてる者を引き連れて闇夜に紛れて行動を開始した。
帰ろうとしてたゴブリンを引き止めて、大量に誘き出す簡単なお仕事である。早寝のヤツは既に寝てるかもしれないんで、叩き起こされる形かもしれん。
私は全身に仕込んだ魔道具のスイッチを入れて無駄にピカピカ光っているがな。灯りの魔道具を全身に纏ったかなり怪しい奴の出来上がり。こんなのが指揮官で申し訳ない本当。
小雨の中至ることこそで爆発音が鳴るのに耳を傾けていると、ゴブリンが押し寄せて来た。私はそのまま橋まで駆けて行く。
ゴブリンから「変なヤツ殺せ」的な気配を感じ取ったが、順調に着いて来てるな。
行動を共にする身体の軽い者達が途中合流して来たんで、「お疲れ様」と声を掛けながら一緒に真ん中の橋まで全力疾走した。
橋の中腹まで一気に行って振り返る。雨はまだ小雨。まだ大丈夫。打ち上げ式の使い捨て魔道具を一発夜空に打ってから、所定の位置についた事を伝える。
私はその場に座り込んで一人一人に指示を出し数名残して、後の残りは元来た道を逆戻りして行った。
「1人目が帰って来たら、お前が交代。15回穴開けたら戻って来い。次は………」
その場に残った数名にザッと指示を出しながら、入れ替わり立ち替わり戻って来た者に次々と指示を出して行く。
途中ベスティア国側から大量に矢を持った者が来たので幾つか受け取りながら、弓を打って行く。
落とし穴に掛からなかったゴブリンを仕留めながら、感覚を研ぎ澄ませて、私は思考を巡らせつつ、声を出しつつ次々と指示を出して行く。
落とし穴は、発動すると半径2メートルの円形に広がり周りを巻き込んで5秒後に元に戻る。
と、言う事は5秒以上橋の上で跳躍してれば落ちない計算だ。実際、獣人族の何人かはそれで落とし穴を回避したらしい。
滞在半日は人を選ぶのに、重さの方はそんなにシビアじゃ無いんだな。
固まって来たゴブリンの頭上にでも着地してそのまままた上に飛ぶか、もしくは2メートルの半径から出れば良い。
もしくは、身体の軽い者ばかりなんで数匹のゴブリンを抱えて総重量100kgにしたところに自分だけ落とし穴を回避するか、ゴブリン目掛けてゴブリンの団体に投げつけるとか色々手はある。
大体は落ちるゴブリンを足場代わりにして戻ってくればいいだけだ。
言葉にすると簡単そうだが、結構な身体能力と判断力が問われるデンジャラスな作戦だな。
能力もだが、よっぽど聞き分けいい人間じゃ無いと作戦に組み込めないし、度胸と言うか…命知らずな者じゃ無いとな。
私が参加しないと出来ないし、人に天候や色々な条件を選ぶ作戦なんでそう何回も使えないのが難点だ。
まぁ、今回ので大輔にバレるんで最初で最後だな。幾ら現場の指示優先でも、流石に毎度命令無視は良くない。2回目をやったら恐らくカイザス国に戻って来いと言われるからな………それに。
「やっぱりいたか」
弓矢を放ちながら、周りのゴブリンよりやや大きめな個体を回収して来させる。
「ホフゴブリン種…」
「動向した花子殿の部下の所に運んでくれ。すまん、手が離せないから矢を抜いて置いといて……そのままお前は戻って来なくて大丈夫だ。次の交代者、5回で戻って来い。無理するな。お前は20回頑張れ、行けそうなら25回」
「ご武運を」
「「了解」」
ゴブリン族ホフゴブリン種。最近は防衛戦ばかりで確認されて無かったので運ばれたヤツがハイルング国で最初に確認された個体になる。大きな騒ぎを聞きつけて出て来たんだろう。
普通のゴブリンよりちょっと大きいくらいだが、普通のゴブリンより知能は少し高くなる。
知能高くなる分、警戒心も強くなって毎回こんな罠には引っかかってくれなくなるだろうな。
雨が少しずつ強くなって来た。そろそろ次の作戦準備をしよう。
じりじり後退りながら、矢を放ち私は数人ずつ撤退させる為に思考を巡らせた。




