268話
「水島の坊主、こっちはどうだ?」
「それは印ついたタライに入れてくれ。分からないのは素直に私に回せ」
「了解」
「追加のスライム持って来ましたー!」
「ご苦労。普通のタライのは持って行ってくれ」
何をしてるかと言うと、現在退役軍人と総出でスライムの仕分け中である。特殊個体を探しているんだ。
そう言う私も、指示を出しながら仕分け作業の為に高速で手を動かしている。
ベスティア国と、退役軍人とは別に連れて来た部下はスライム捕獲。
橋のゴブリン攻防戦には大量に導入された神聖帝国軍に今は任せてある。
ユリエルはベスティア国側から見て3本の右の橋は破壊。真ん中は一方通行解除、左はまだ一方通行だが諦めて西の2本橋の方に向かったらしい。
2本橋は解除してるが、果てさていつ戻って来る事やら……………一度見に行った方がいいかもしれんが、今は手が離せないんで自力で頑張って欲しい。
「よし、今日の作業は終了。2日間雨なんで、印ついたタライのスライムは外に出してくれ…逃げ出さない様に少し水を入れとくか。さて、武器の手入れと仮眠をしといてくれ。夜には出る」
「やっとかー…ずっとこればっかりで参った。スライムは当分もう見たくない」
「水島指揮官、お父上がご到着です」
「ご苦労。直ぐに行く」
スライムは他の者に任せて、私はその場を後にした。
「ジョゼフィーヌ、元気だったか?」
「グガァー」
「そうかそうか、脚も治ってよかったな」
「息子よ、頼むからイチャイチャすんな」
ジョゼフィーヌが親愛の証にコツンッと頭を合わせてくれたところで、オヤジから待ったがかかった。
もうちょっと戯れていたかったが、これから大事な頼み事をするオヤジの機嫌を損ねる訳にはいかないので、名残惜しいがオヤジの方に向き直る。
「そろそろ来ると思ってたんだ。大輔から伝令だろ?」
「おう、ほらコレな。後は手土産に何か色々持たされたぞ?」
「ありがとう。おー…高級品だな。助かる」
手渡されたのは書類の入ったケースと有名店の高級焼き菓子だ。ちゃんと日持ちするんで大事に食べよう。
考え事するとどうしても甘い物が欲しくなるんでな。それと、何故か桃を箱でくれた。
携帯してたナイフで皮を剥きながら、桃を食べる。うーまー。何だこの桃?これも高いヤツか?オヤジは皮ごと齧り付いている。
ジョゼフィーヌにも数個けてやった。
「オヤジ、相談なんだがいいか?」
「もぐもぐ…どした改まって」
「井戸掘りの場所を決めて来て欲しいんだ」
「はぁ?井戸???」
地図を取り出して、およそここら辺と教えながら指差して行くと何となく言いたい事が分かったみたいだ。
「ハイルング国側を重点的、余裕があればベスティア国も行って欲しいんだが…本当は私が行ければ1番いいが、今はここを離れられない」
「うーむ…多分出来るが、ちゃんと掘り当てられるかは謎だぞ?」
「オヤジに前線指揮を任せられれば1番楽なんだがなー…」
「こんな老体に無茶言うな…もぐもぐ」
幾ら私でも、おおよその場所は分かっても、地図上でピンポイントで水脈当てるのは無理だ。
魔道具で調べる事も出来なくも無いが、アレはサイズがデカいんで機動力に欠ける。何十個も井戸を掘るなら、魔道具の搬入だけで相当数の人員を割かなければならない。
生身でやるなら私かオヤジ位しか出来ないだろう。精度は私の方が上だが、何とか勘で当てて欲しい。
因みに今の野営地は井戸掘りを既にさせた。
ハイルング国は川の整備があまりされて無い。直ぐに氾濫するし下手すると川の流れが変わる。大規模な野営地を川の近くに設定するのは難しい。
水が出る魔道具は魔力が必要なんで、個人持ちには向いてるが、大量に使うとなると話は別だ。
しかも、カイザス国だと中級魔道具使用免許が無いと使えない。
軍が優先的に購入出来るが、かなりお値段も高め。現在魔道具技師総出で作ってるらしい。
緊急時なんで支給されてるが、作るのに手間らしくてまだそんなには配布されて無い。
因みに私は自前のを所持してるので、支給されなかった。
もっと魔力効率を下げて、低価格で量産化出来ればいいんだがな。
話しに戻るが、カール様はハイルング国の都市の中には入れないって言ってたし、最初は生活水を分けて貰えない可能性があるんだよな。
なるべく城壁近くに野営地を指定したいが、エルフ族の性格と言うか警戒心からして恐らく最初は余り協力体制も厳しい気がする。
本土に港が1つしか無いので、輸送はもっぱら陸路になる。
「ジョゼフィーヌ、背中に他人を乗せるのは無理だが、籠なら何人かと荷物も運べるだろ?」
「グガァー…グガ」
「え?人はヤダ?頼むよジョゼフィーヌ。何人か連れて来るから、何ならジョゼフィーヌがその中から選んでいいぞ?なるべく良いやつ連れて来るから」
「……グガァー」
しょうがないなー今回だけだよ。みたいな雰囲気を醸し出されたので、気が変わらない内に人をここに連れて来るか。
今現在は野営地の外なんで、心当たりのある退役軍人やベスティア国の該当者が遠いんだ。
遠巻きに人影が見えるが、目当ての人物達はいない。
ジョゼフィーヌに桃を追加で渡して、私はメモ書きを遠巻きに見ていたベスティア国の獣人族に手渡し、お遣いを頼む。
その間、私はオヤジとジョゼフィーヌと色々話しながら雑談を交えて井戸を掘る順番を説明して行く。暫くすると、チラホラ該当者が野営地の端に集まって来たので手招きすると、恐る恐るこちらに近づいて来た。
「グガァー!」
「うおわっ!?」
「こらこらジョゼフィーヌ、まだ早いよ。え?そうかそうか、そいつは良かった」
「みみみ水島指揮官……ど…どうすれば?」
「ああ、ちょっとそのままでいてくれ頭の形が気に入ったらしい…ぶはっ」
側から見ると、獣人族蜥蜴種………体格からして本当は竜人種だろうな。そいつの頭を丸齧りしてる様に見える。笑っちゃ駄目だよな。すまん。
大丈夫、甘噛みだから。ジョゼフィーヌは優しい子だから食べたりしないって………オヤジの許可が無ければ。
ベスティア国側は蜥蜴種数人と今頭齧られてる竜人種1人。他にも何人か。カイザス国側は十数人。
集まった者から、順番に1人1人ジョゼフィーヌの前に出されて匂いをかがれたり、ちょっと身体を小突かれたりしている。審査中である。
因みにさっきの竜人種の審査はパスだ。アレは決定でいいだろう。
全員ジョゼフィーヌによる審査が終わった結果、1人だけ弾かれた。
「グガッ」
「え…僕だけ駄目ですか?そんな…」
ああ、ジョゼフィーヌは本当に優しい子だな。
「大丈夫、嫌われた訳じゃ無い。寧ろ好みではあるんだろうが……若すぎるって」
「そうですか…」
井戸はフィールドで掘るんで、結構危ない仕事なんだ。
ジョゼフィーヌの好きそうな奴だと思って入れてみたが、やっぱり駄目だったか。
獣人族鳥種の若者は、他の奴に励まされながらその場を後にした。
ジョゼフィーヌ、多分もふもふ大好きなんだよな。特に鳥系。
カイザス国で預かってる獣人族鳥種も、全身獣化するとふわふわのもっふもふの胸の羽部分に最近ジョゼフィーヌが鼻面突っ込んで来る様になったみたいだ。
オヤジと一緒なら、背中に乗せてくれる日も近いかもしれん。
多分、鶏肉自体も好きなんだけどな。それは言わ無い方がお互いの為だろう。
もふもふの次に頭の形が綺麗なスキンヘッドが好きだと思う。
多分、自分と近い存在だと認識してるのかな?好みが両極端過ぎやしないかジョゼフィーヌ。
とりあえず、全員で2箱分の甘い桃を「うまうま」言いながら食べた。内緒にしとけよ。




