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つばめと学ぶ異世界生活事情  作者: とりあえずごはん(・ω・)
第四章 ゴブリンのスタンピード編
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265話



 ハイルング国側と神聖帝国側はゴブリンのスタンピードと事後処理が終わったら、折を見て話し合いの場を儲ける事が決定したらしい。


 先ずは目の前の危機を何とかするのが先である。







 ゴブリン殲滅戦前の準備や作戦を立てて、さていよいよ警戒レベルを1に上げるかと言った所で花子殿と一緒に種族研究所の職員が作成司令本部に招かれた。



 あ、何だろう。本能的にこの人ヤバい人種だなと思った。なにがヤバいって見た目は普通に見えるところが尚、ヤバさ加減に拍車がかかっている。たまにいるんだ…こう言う人。


 獣人族に混じった魔族みたいなのとは違う恐怖を感じる。




「種族研究所の所長の代理で参りました。『朔夜さくや』と申します。本日は宜しくお願い致します。」




 普通に人族の好青年に見えるんだけどな………一応履歴書を読むが、花子殿程では無いが医療系の資格が多い。見た目若いのに所長の代理を務めるだけの事はあるな。

 普段は研究員と医者の兼業みたいな働き方をしてる。藪医者じゃ無くて本物のお医者様か。


 ああ、家名が『出雲いずも』か。医療都市で1番大きな総合病院の『出雲総合病院』の関係者か…色々納得。身元は確かだ。身元はな。




 花子殿と朔夜殿の新種の魔族特定…共同研究によると、幾つかの事実が発覚した。





「やはり悪魔か………」



「ええ、『悪魔』認定を受けてる刑罰中の魔族でしたわ」



「スライム刑にされていた悪魔が変化して、新種の魔族になった様です。詳細は資料にて、取り急ぎ掻い摘んでご説明致します。」




 元は『死霊王バルバロッサ』。



 凄い大物が来たな……世界各国でスライム刑罰中の悪魔は数匹いるらしいが、1番多い魔大陸には5匹いる。


 通り名付きは相当な極悪犯だが、魔族全体で見ても数本の指に入るくらいの古い悪魔だ。

 下のスライム刑者は入れ替わりが激しいらしいが、『死霊王バルバロッサ』は、刑期が終わったらしい『吸血鬼女王』に並んで有名人どころ。

 1番有名な魔族は誰もが一度は耳にした事ある『魔王』だな。


『国取り死霊王』の異名を持つお伽噺の悪魔だが………配下を増やすために国を滅ぼして回っただとか、自国の王を亡き者にして戦争三昧だとか色々話しはある。


 元は恐らくグール系の悪魔だったと言われているが、そもそも魔族全体がまだ差別的な種族名に『悪』と付く『悪魔』と呼ばれた時代の話しらしいからな。




「よく調べられたな」



「逆に有名どころだったので、花子から資料を見せて貰った時にピンと来ました。『吸血鬼女王』でも特定出来たでしょうが、グール系の魔族なら元は人ですし、魔族よりデータもサンプルも多いのでその分楽でした。ちょっとスライムで変質した分は大変でしたが、そこは花子が頑張ってくれましたよ」



「有名な方は粗方調べ尽くしてますしね」なんてサラッと言ってるが、これは『死霊王バルバロッサ』の子孫まで丸裸にされてる予感。



「一応裏付けが取れましたが、スライム刑罰用のスライムの作り方は軍の方々でもお教え出来ないので、一部資料を削除してあります。ご了承下さい。調べはしましたが、後の事はいつもの様にそちらでお願いします。」



「ああ、ご協力感謝する」



 朔夜殿の話しが終わって次は花子殿の話しになった。世界会議の議事録から新種の魔族の記事に気になる所があるらしい。



「新種の魔族は『2体』いますのよ。憶測ですが、元がスライムですので…分裂した可能性がありますの。そして、何処にも『死霊王バルバロッサ』と書いてませんわ。分裂して増えたら責任問題を何処に持って行くか微妙なところですわね」



 言うなれば『死霊王バルバロッサ』が2人に増えたのだが……増えたのが子の扱いなのか本人なのか、はたまた他人なのか謎。


 『新種の魔族』と書いてあるので、少なくとも魔物じゃ無くて知能の高い魔族の取り扱いになるんだろうが。


 しかも、スライム刑罰中の者が逃げたのか、分裂した方なのか、魔大陸側もワザと放置してるのか『死霊王バルバロッサ』の現在の魔大陸での扱いがどんなものかも良く分からない。


 悪魔認定もそうだ。増殖した方の扱いもどうなるのやら。見つけ次第殺してもいいのか今のところハッキリしていない。

 本体は無許可でエデンに入り込んだなら抹殺されても文句は言えないが……分裂個体の扱いは微妙なところだ。世界連盟加入国の魔大陸だが、内情が謎すぎてエデンの法に乗っ取り処理していいのか分からん。


 スライムはよく見るが、アレと一緒の分裂の仕方だと、見た目だけでは見分けもつかないかも知れない。

 もしかしたら、調べても同一人物と出るかも。



「これは…捕まえてもいいだろうが、一筋縄では行かないな」



「そうですのよ。他者の細胞の一部を取り込めば姿かたちもその人になれますの。魔力も本人と一緒だと、特定するのは専門機関になりますわね」



「水島、どうした?」



「一匹はフォーゼライド国で既に死んでるかも知れません」



「説明出来るか?勘か?」



「か………」



 『勘です』と言おうしたら、続きが言えなくなった。















 朔夜殿が、それはそれは嬉しそうな仄暗い目を私に向けながら、微笑んでいたからだ。




 何がそんなに楽しいんだろうか?




 数時間後の私の未来が一瞬感じられなくなった。


 恐らく、そのまま『勘です』と応えていたら、数時間後に死んでいたんだろう。


 私は頭の中で幾つもの発言パターンを考えて、言葉を選んで話し始めた。





 ああ、今年は健康診断が無いのでちょっと油断してた。




 家名に『出雲』が付いてるやつは研究熱心なのが多くて良く狙われるんだ。



 軍属の健康診断は『出雲総合病院』で行われるが、大体毎年「解剖させて」とか訳わからない事言われるからな。


 『死神』の異名を持つ私の身体の仕組みが大変気になるらしい。


 流石に「そのままでも、麻酔したままでもいいよ」と言われた時は返す言葉も失ったな。




 死んでも解剖させないからな。出雲家。



 

水島のドキドキ健康診断



出雲1「腕欲しいな。ちょっと切っていい?魔女が生やしてくれるから平気平気。あ、高性能な義手にする?私の個人持ちで好きなのカスタマイズしていいよ。」



水島「早く採血してくれ」

 


出雲2「頭が1番欲しいんだよね。脳みそだけでも譲ってくれないかな。」



水島「早くCT取ってくれ」



出雲3「腸は別にいっかなー。あ、内臓は欲しいな何処でも選ばせてあげるから、好きなの選んでくれると助かる。」



水島「早くエコーを取ってくれ」




会計係「お会計でお待ちの水島様〜」

 


水島「はい。あ、これはいらないです。返しといて下さい」



会計係「かしこまりました〜。先生方に返しておきまーす」



 こうして水島は毎年恒例『死亡後解剖実験協力書』や怪しい各種書類を返却して、出雲総合病院を後にするのであった。

 因みに、水島を担当するのは毎年種族研究所の医師免許を持った職員達である。



出雲達「「「今年もダメか〜」」」



水島(たまに事故を装って本気で殺しに来るからタチが悪いんだよな。司法解剖狙いヤメテ欲しい切実に)




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