32話
「あれ?手紙が1枚も無い」
私は王宮の第7長官室に出勤し日課の手紙処理をしようと自分の机を見たが…ない。
もしかして、王族からの手紙もウルスラさん経由なのかな?
手紙の為に早めに出勤したが他にする事も無いので、昨日計算途中だった収支報告書の続きと今日割り振られている比較的急ぎの翻訳を始める。
急ぎの仕事が粗方片付いた所でウルスラさんが出勤して来た。
「つばめ様おはよう御座います。出勤早々で大変申し訳無いのですが…2、3質問してもよろしいでしょうか?」
「おはようございますウルスラさん。はい、構いませんよ?何でしょう?」
「昨日つばめ様宛に届いたお手紙で何通か中身を改めさせて頂きたいのですが…大丈夫でしょうか?コレと…コレとコレです。全て未開封でまとめて袋に入っていたものです」
昨日の手紙?私は全く困らないので、頷いた。いつもは職場に残って中を見てから1週間分まとめて捨てていたので、袋はまだ机の横に置いたままだ。
もう直接手紙は私の所に来ないらしいので、今ある手紙は袋ごとウルスラさんが処分してくれる事になった。
「後は、必要なお手紙意外は今後こちらで処分させていただくか返送いたしますが、つばめ様と個人的に手紙のやり取りをされてる方などいらっしゃいますでしょうか?」
「コンスタンティンさんと第3医務室の皐月先生位ですかね?第7長官室の仕事関係者は私の机に直接メモなどを残してくれるので大丈夫です。あぁ!後、司書長の椿さんが居ました」
「かしこまりました。私の方で判断に困る手紙はつばめ様に確認していただきます」
「よろしくお願いします」
「それでは、前日同様部屋の外にいますので」と言って手紙の入った袋を持ってウルスラさんは部屋から出て行った。
部屋を後にするウルスラさんの姿を見て、護衛と言うより手紙処分係?っと思った。ついでに王族の方々の手紙がどうなったかは聞かない事にした。
王妃はちょっと心配だが…黄色パーマのラーメン頭(第三王子)とか面倒臭いので。
その後ユリエルさん、ロジャーさん、奏君が出勤してきてそれぞれ挨拶した。
「奏、30分遅刻ですよ」
「す…すいませんロジャー副長!!」
ロジャーさんお怒り。
寝癖がぴょんぴょん跳ねている奏君の頭をロジャーさんが右手で鷲掴みにしている。
顔が笑顔なのが逆に怖い。ユリウスさんは我関せずで仕事をしている。
私も仕事しよう…いつもの事なのでもう慣れた。
「…つばめ」
「はい、ユリエル長官何でしょう?」
「……急ぎの物が終わっているならこちらを片付けろ」
「わかりました」
手渡された書類の束を黙々とこなしていると……………え、待ってこれエルフ族の翻訳混じってるけど大丈夫かな?ユリエルさんの元に行き小声で尋ねる。
「ユリエル長官、エルフ族関係の書類が混じっていましたのでそちらに返却しても大丈夫ですか?」
「……出来るならしろ」
わー……………これ1枚訳しただけで20000ペリンかぁ………手が震える。
パラパラめくったら後10枚以上あったよ。変な汗とか書類につけない様に注意しよう。
正規雇用だと時間で出勤退社して月額でお給料をもらうのだが、私は臨時雇用で出来高制だ。
理由は簡単、私が正規雇用だと個人の能力でプラスされるお給料がバカ高くなりすぎるので雇えなかったらしい。
日本で言う資格や特殊な免許を保持しているとお給料が上乗せされるみたいなものだ。あらゆる言語を話せて(通訳)さらに書ける(翻訳)私を王宮の雇用規定で雇うとエゲツない事になるので、臨時雇用と言う形に落ち着いたらしい。
王宮内でエルフ族の言葉を操るのはユリエルさんを含めて数える程しかいないので、エルフ族関係の書類は単価が高い。
基本はエルフ族の窓口であるユリエルさんが担当しているが、よっぽど他の仕事が溜まっているのだろう………出張の2人早く帰って来て、主にユリエルさんの健康の為に。
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補足
出来高制なのに時間で勤務しているのは他の人の仕事負担を減らす為です。
本当は好きな時間に来たり帰ったりしても大丈夫な雇用契約内容。
出張中の2人が帰って来ないと今のところはつばめも長期の休みが入れられない感じです。