262.5 ファイ4
あの腐った肉は父上だと判明した。妾はショックを受けていると、皆部屋付きの者は慰めてくれたが、妾は気が晴れない。あんなに厳しかった父上が亡くなったなんて、実感が余り湧かない。
妾は優しい兄上に手紙の返事を書く事にした。
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妾の優しい兄上へ
兄上は殺したい派ですか？
妾は殺されたい派です。
貴女の妹より
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返事はまた箱と一緒にやって来た。箱の中身は母上だったモノだ。また首は無いが、急いで送って来たのだろう。父上よりは肉もついていて、腐りかけと言う感じだ。
手紙はーーー。
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ファイへ
話し合おう。
貴女の優しい兄より
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これは優しい兄上も『殺されたい派』だと察した。妾は怒り浸透で手紙の返事を書いた。
『妾の事は殺してくれないのに、父上と母上は殺されたのですね。ショックで妾も誰か殺してしまいそうです』
返事はまた直ぐに来た。箱の中身は父上の弟と伴侶セット。かろうじて生きている。
妾は叔父上夫妻は必要無いので、コンスタンティン様に相談した。結果、叔父上夫妻は何処かに連れて行かれたみたいだ。
『ファイが安心して暮らせる為に王になろうと思う。もう少しいい子で待っててね。私以外を殺したらお仕置きだよ』
妾以外を自分は殺しといて、どの口がそんな事を言いのだろう…ふふふ。
手紙の返事は無視だ無視。妾はカンカンだぞ兄上？
どんどん優しい兄上から送られて来る増える箱と妾には興味の無い箱の中身。優しい兄上の言い訳だらけの手紙。
ある時、嫁に行った筈の妹が送られて来た。子どももセットだが、妾は聞きたい事があるので、久方ぶりに妹と対話を試みた。
「久しいな、『フェリ』。実は聞きたい事が…」
「ファイ！？その声はファイでしょ！？貴方なんて事してくれたのよ！！？アンタのせいで兄上が狂ってるわよ！！！！！？」
両目が潰された妹は「私の子どもを返して」と見当違いの方を向きながら、叫んで話にならない。
「子どもを殺されたく無かったら、妾の質問に答えて欲しい」
「駄目よっ！！！アンタなんかに殺させないわ！？あの子には私を殺して貰うのよ！！？」
フェリお前もか。フェリも『殺されたい派』か…なら、話しが早い。
「妾も兄上に殺されたいのだ。だが、兄上も妾に殺されたいらしい……どうしたらいい？」
「あ………やっぱり兄上そうなんだ。それは、どっちか折れるしか無いわね！頑張れ！」
「妾は譲る気はサラサラ無い。優しい兄上に殺して貰うにはどうすればいい？」
「え…えぇ〜…………本当、人の状況とかお構いなしに話し進めるわよね…………一般的な方法しか私は知らないわよ？」
「頼む。教えて欲しい」
人の状況？そんな粗雑な事は今は構ってられない。
お互い『殺したい派』は本気で殺し合いすれば簡単だ。しかし、『殺されたい派』の場合は少々厄介らしい。
「老化が始まるまでは普通に生活するわ。寧ろ、勝手に死んだら相手が怒るもの。老化が先に始まった方の意見が通るわね…普通は」
「それでは妾に不利だ！どどど…どうしよう？」
優しい兄上の方が先に生まれてるし、何ならお互いハイエルフ種の魔石喰らいで推定寿命も変わらない。それは妾にとって切実に困る。先に死ぬなんて絶対許さない。
「後は、行動で示して『これだけ貴方を愛してます』って相手を納得させるかね。兄上は相当ファイの事が好きなのね…王位継承なんて下の方から数えた方が早かったのに、ファイの為に頑張っちゃって今では王様よ。狂ってるわ」
「そ…そんな」
「しかも兄上の伴侶は『殺したい派』なんですって。もう無理ね。油断してたら老化も待たずに殺されちゃうわよ。兄上なんて早く殺されればいいと思う」
「うわぁあぁぁぁあ！それはヤダー！！？」
妾はグズグズ泣いてると、フェリは「昔から綺麗な顔で泣けば済むと思ってるんだから、全く嫌になる」と言われた。
「好きでこんな顔に生まれた訳じゃ無い。フェリも似たような顔じゃないか…グスンッ」
「似たような顔って…寝言は寝てから言いなさい。はっ倒すわよ？冗談はその長いバシバシのまつ毛だけにして」
そこから、姉妹喧嘩が勃発した。一方的な罵りとも言う。
「アンタねえ、双子の姉が綺麗過ぎて婚期も遅れた私の気持ちを察しなさいよ！見合い相手が毎回毎回私じゃ無くてアンタに目が行くのよ。終いにはアンタに近づきたくて私に会いに来る輩までいたんだからっ！？部屋で大人しくしてろって散々家族に言われてるのに、抜け出して色んな男たらし込んで何様のつもり！？私の侍女なんて、結婚式当日に相手がアンタの顔見ちゃったもんだから破局したのよ！？私の初恋の相手もそうよ！酷いわ！？」
「だから、好きでこんな顔に生まれた訳じゃ無い！妾だって結婚したいわっ！！毎回毎回男に言い寄られる私の身にもなれっ！？部屋にずっと閉じ込められているんだぞ？…あそこは息が詰まる」
「部屋で大勢見目麗しい男を侍らせて何が息が詰まるよ！正直羨ましいわっ！！？たまに出る舞踏会でダンスをすれば、皆んなアンタに目が行ってダンスにならないし、ちょっと不利になると直ぐに泣いて…アンタのせいで家族皆んなアンタに気を使って生きて来たのよ。お父様の心労なんてアンタに分からないでしょう。嫌な事があれば直ぐに泣いて、勉強もしないで何人家庭教師が匙を投げて辞めて行ったか。終いには皆んなお手上げよ！もう手の施しようが無い悪女だわっ！？『皆んな冷たい、妾は可哀想な不幸な人』って自分で思ってるでしょうけど、身から出た錆よ！？自分が美しいから意地悪してると思ってるんでしょ？それだけが原因じゃ無いわ！アンタがふしだらだから皆んなアンタの事が嫌いなのよ！？何の努力もしないで、『綺麗な顔』ってだけで男に媚び売って生きてきた顔だけしか取り柄のアンタだから皆んな嫌いなのよっ！！！」
そんな風に思われていたのか。そんな私だから嫌われてたのか。
「じゃあ、妾はどうすれば良かったんだ？魔石を与えられ、寿命が伸びる弊害でその期間思考が退化してる間に周りはドンドン大人になって………生まれてからずっとだ。ずっとあの部屋にひとりで居たんだぞ？フェリが魔石を喰らい終わっても、妾はまだ喰らえそうだと与え続けられ、フェリが母上や父上や他の家族と一緒に楽しく暮らしてる間にずっとあの部屋でたまに来る優しい兄上の訪れを待つしか無かった妾にはどうすればよかったと言うんだ？優しい兄上が『味方の作り方』を教えてくれなければ、妾は今もあの部屋にひとり居ただろう。勉強を教えに来る者は『この年でこれだけしか出来ないのか。他のご兄弟とは大違いだな』と比べられながら、それでも一生懸命覚えようと努力してーーー」
「本当、昔から耳障りのいい言葉しか聞かないし、自分の都合の良い様に事実ねじ曲げるわよね。アンタの努力ってその程度なの？魔石を多く喰らったってたかだか10年20年でしょ。アンタ以外の兄弟姉妹は皆んな出来てるわよ。アンタより長く魔石喰らった者だっていたのよ…意地悪したんじゃ無くて、アンタが覚える気も、やる気も皆無で覚えなかっただけでしょう。そんなアンタを恥ずかしくて部屋から出せないわよ。出したら男を取っ替え引っ替えするんだから王家の恥だわ。とうとうどうしようも無くなって、お父様はアンタを国の外に出したのよ。お陰で毒牙にかかった兄上が狂ったわ。ま、アンタに変な事を興味本位で教えた兄上が悪いけど………ハイルング王家はもうお終いね」
「嘘だ…あんな厳しい教育…妾の覚えが悪いからーーー」
「厳しくて当たり前でしょ。だって王族なのよ。一生責任転換してそう言ってればいいわ。はいはい、可哀想で不幸な人……殺す程の愛情も湧いて来ないわ」
「初恋の相手は悪かった…ちょっとよろけて…グスンッ」
「はっ。ワザとよろけたの知ってるから。足場も悪く無い所で何やってるんだと思ったから。本当、昔からそう言う計算は得意よね。アンタの策略とも言えない美貌ゴリ押しの手段にやられた初恋相手もムカつくけど、私が好きだと知った相手を落としにかかるアンタもいい性格してるわよね。双子の姉がこんなふざけた顔と頭の中身で、私のメンタルがヒヒイロガネ級になったわよ。そこだけは感謝するわ。狂った兄上にも感謝ね、両目潰してくれたお陰で、アンタの胸糞悪くなる綺麗な泣き顔見なくて済むわ。どうもありがとう」
実の妹が冷たい。フェリの初恋相手がどの程度フェリが好きかちょっと試しただけだ……妾が美しいのがいけなかった。好きでこの顔に生まれたんじゃ無い。身体を使うのは、他に手段が無かったからだ。
意地悪な妹は苦手だ。
やっぱり妾の事を分かってくれるのは、優しい兄上しかいない。
妹に冷たくされたと、今日の出来事の話しを部屋付きの者にして泣いて縋ったら、慰めてくれた。ありがとう、こんな妾の味方でいてくれて。
数日後。妹の子どもが事故で大怪我をしたと知らせを受けた。
綺麗な顔の妾の妹に生まれてしまったばっかりに、殺されたい相手まで怪我するなんて。
妾の不幸が妹にも移ってしまったのか？
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フェリの心情
ファイ「妾は譲る気はサラサラ無い。優しい兄上に殺して貰うにはどうすればいい？」
フェリ「え…えぇ〜………」
（両目潰されて、今にも死にそうなガリガリ体型の私に相談事とか、頭どうかしちゃってるんじゃ無いの？あ、元からどうかしてる自称不幸な姉だったわ。とりあえずお腹空いた）
