262.5 ファイ3
グロ注意です。
『炊き込みご飯』の免許皆伝は貰えていないが、コンスタンティン様の世話係に任命された。食事の準備や魔力提供、手伝いなどなど。
身の回りの世話など含まれるが、妾が神聖帝国の生活に慣れていないと言う事で通いの様な扱い。勉強はひと通り終わったが、まだまだ知らなければならん事は多くある様だ。
コンスタンティン様は用事があればお呼びになるが、大体食事の支度と片付けでたまに空の魔石に魔力を入れるだけの楽なお仕事だ。
「私共では、神様のお怒りに体が耐えられない者もいますので魔力量の多いファイ様が来てくれて助かりました」
「それは何より。人の役に立てると、こんなにも素晴らしい事なんだな。妾もこちらにこれて良かったわ」
妾を蔑む者も、嫌う者もいないこの生活に満足していたが、平和な時間も長くは続かなかった。
ある時、優しい兄から手紙と荷物が届いた。とりあえず手紙を読もう。
ー
ファイへ
君の憂いは全て無くすから、
もう少し良い子で待っててね。
貴女の兄より
ー
荷物の中身は、見たことない物だった。何だこの臭いは。
「え?」
「きゃあぁぁあぁぁぁぁっ!!!?」
「……うおぇっ」
「だ、誰か神様に連絡をっ!!」
大きな箱は妾しか開けられない様な作りになっている。
神聖帝国に来てからも、優しい兄上はたまに妾にドレスや装飾品などを贈ってくれてたので、「今回はどんなのでしょうね」なんて皆で話しながら箱を開けたらコレである。
箱の中身は謎だが、失神している者もいる中でコレが何なのか聞ける状況では無い。
暫くすると、コンスタンティン様が不機嫌な顔でやって来た。
「今度は何?あー………なるほど」
箱の蓋を一旦閉められて「一緒に来る?」と言われたのでコンスタンティン様に着いて行く。凄いな、2人係で運んでいた箱を片手でヒョイッと持ってしまった。
そして、そのまま研究室に直行。
「解剖室空いてるー?」
「いえ、今は何処も使ってますね〜。何その箱?」
「じぁあ、ここでいいかな?誰か私の手袋持って来て」
「はあ、わかりま…って…くっっっさ!?オッェッッッ!」
「なんだ!なんだ!臭っ!!?うぉっえっ!?」
バタンッッッ
研究員の1人が箱の蓋を思いっきり閉めた。
「人がメシ食ってる時にやめて下さい。何してんですか『我が君』?」
「ここでご飯食べないでよ?研究室だよ?」
「忙しくて三徹中なんで、多めにみてくださ………まぁ、いいです。で、この腐敗死体は誰ですか?」
「これから調べるけど、多分エルフ族かな?ここまで腐ってるのなんて珍しいよね。相当高魔力で多分普通のハイエルフ種じゃ無いし」
「よし、開けましょう」
「バカバカバカ!2人共お待ち下さい!誰かの解剖室空けさせますからぁぁあぁぁっ!!ぉっえっ!!!?」
「ぎゃぁあぁあぁぁぁぁっ!!?」
ー数十分後ー
「きっとファイの血縁者かな?」
「妾の?これが???」
結局、解剖室とやらの一室を早急に開け放って研究者ほぼ全員で立ち会い予定。今は準備中だ。
「妾の血縁者は、姿の形は妾とそう変わらん方だ…こんなによく分からない臭いがしたり、ドロドロした方では無い」
「んー………ファイは、肉の塊とか見たことあるかな?」
「肉???いや、妾は肉は食さぬ故、実物を見たことは無い。料理指導の者が妾でも味見が可能な物で食材の準備などはーーー」
「話の途中でごめんね?他のヤツがドン引きしてるからちょっと説明させて。いや、普通の王族なんて料理もしないだろうから、皆んなそんな憐れんだ目で見ないでやって?ファイ、魚は見た事あるかな?」
「魚???あぁ。魚なら捌けるが……それと何の関係が?」
解剖室の準備が整った様で、コンスタンティン様は箱の中身を出しながら説明してくれた。へー、この部分が骨か。妾にもこんな物が身体の中に入ってるんだな。
「見た感じ、頭は無いね?このチラッと見えてるところが身体の中で1番太い骨だよ。『大腿骨』って言うんだ。周りについてるのは肉だと思って」
「魚の骨より太いのだな」
「陸上生物だからね。魚が生活してる水の中は浮力で余り重力かからないから、骨は細くて軽い作りなんだよ?」
「ほー…なるほど」
色々コンスタンティン様に説明を受けたが、分かった事は普通の人は亡くなると燃やされて骨だけになるのが一般的らしい。
死体を放置すると『グール』と言う魔物になる確率が高くなるみたいだ。へー。
胴体と頭を切り離されたらならないらしいが。ほー。中々勉強になるな。覚えの悪い妾でも、目の前に教材があるとすんなり頭に入ってくるな。
「頭が無くても、ここまで腐って放置されるのなんて中々お目にかかれないね。普通は。死体を見つけたら即燃やすって言うのはこの世界では一般常識だよ?人がフィールドで死んだら魔物のご馳走になるし、城壁内で死んでも直ぐに火葬されるからね。日常生活でお目にかかる事はまず無いかな。ここの研究者は仕事柄たまに見るやつもいるけどね。ここの奴らは普通じゃ無いから、外と常識違う奴らばっかりだから」
コンスタンティン様は『人』の研究者らしい。研究の為に死体は見慣れてるが、わざと腐らせた事もあるとか。しかし、ここまで高魔力の人の腐った死体などコンスタンティン様でも中々お目にかかれないとか。
「一応、生前の本人の許可が無いと基本解剖とか調べたりとかしちゃいけないからね。あ、ファイ宛に送られて来たから勝手に調べちゃってるけど大丈夫かな?一応ファイとの血縁関係調べるって建前で色々調べようかなって思ってるんだけど」
「妾は構わぬ故、寧ろお願いしたい。楽しそうなコンスタンティン様の邪魔はせぬ」
「じゃあ、検体出しておくね?コレ誰か調べて」
「は〜い」
コンスタンティン様は手を動かしながら、妾に色々聞いて来たのでその都度答える。
「身内の死体見て嫌悪感とか無いかな?」
「正直…何やらザワザワとした気持ちはあるが、ここまで姿が違うと全く実感が湧かん。今まで嗅いだ事の無い臭いの方がビックリしたな。あれが『クサイ』と言うものなんだな」
「ふふっ…ファイに腐った肉や臭い物持って来る奴なんてそうそういなさそうだもんね?そのザワザワは本能だよ。危険なモノを察知する生まれ持った力とでも言うかな」
人の成れの果てとは、中々クサイのだな。燃やすと骨しか残らないのか。妾は死ぬならーーー。
「妾も死ぬなら、優しい兄上に殺されたいな」
「ファイの好きな人かな?」
「ああ、ハイルング国で唯一妾の味方だった。優しい兄上のお陰でこうして今まで生きてこれた。感謝している」
「そっか。殺されたい程好きなんだね」
「優しい兄上に殺されたいと思うのは、おかしいだろうか?」
コンスタンティン様の研究員以外がまた微妙な顔つきをしている。コンスタンティン様の先程の言葉を借りると『ドン引き』と言うヤツだな。
「いや、誰に教えられた訳じゃ無いのにそこに辿り着くのは凄いと思うよ?」
「そうなのか?」
「うん、ファイも立派なエルフ族だね」
愛する者に殺されたい。愛する者を殺したいと思うのは長寿種エルフ族の本能に近いものらしい。
因みに「殺されたい派」と「殺したい派」に分かれているので、「殺されたい派」が揃うといざ死ぬ時揉めるみたいだな。
兄上はどちらだろうか?手紙で聞いてみよう。




