262.5 ファイ1
ガリゴリ…ガリゴリ………
「美味しいファイ?」
「おいちぃ」
ガリゴリガリゴリ…ガリゴリゴリッ
おいしい。あまくておいしい。もっと、もっとちょうだい。
「今日はここまでだ…明日また食べよう。可愛くお願いしてもダメだよ?兄を困らせないでくれ。ほら、代わりにお菓子をあげよう…口を開けて」
「あーん…………もぐもぐ。おぃちい、にぃに。もっと」
おかしもおいちぃ、けどアレがたべたい。もっと、もっとちょうだい。にぃにおねがい。ね?おねがいにぃに。ふぁいは、あのトロけるようなキラキラあまいのほしいの。あーんしてまってたら、にぃにがおれた。
「ファイ、いけません。ああ…仕方の無い子だ。内緒だよ?」
「にぃにありがとぅ。にぃにやさしい。すき」
ゴリッガリゴリゴリガリゴリ…
おとうさまはコワイからキライ。
にぃにはすき。やさしい。ふぁいをへやからたまに出してくれる。キラキラしたあまいのもいっぱいくれる。ふぁいにやさしくしてくれるのはにぃにだけ。
「また部屋を抜け出したのね。駄目だと言った筈でしょう?陛下の言う事をキチンと聞きなさい。お返事は?」
「ふっ…ふぇっ…かぁさま……おねがい、だっこぉ〜……だっこして、おねがぃ……ファイをみすてないで……うっ……ひっぐっ……」
かぁさまはけっきょくファイを抱きしめてくれなかった。代わりに飴を口に放り込まれた。
飴を口にしながら、へやに戻って、かぁさまのかわりにぬいぐるみをギュッとした。
さみしい…。かぁさまきっとファイのことキライなんだ。
どうしよう。ナミダが止まらない。このままじゃ、ファイの目とけてなくなっちゃう。
「かぁさまぁ…かぁさまぁ……ふっ…ふぇっ……グスン……」
飴は甘くておいしかった。
「お目覚めですか?どうされました、ファイ様?」
「なんでも無い故、気にするで無い。遥か昔の夢を見ただけだ……」
子どもの頃は記憶も朧げだ。
しかし、たまにふっとした拍子に思い出しては悲しくなる。
両親共に愛されてはいなかったが、聞き分けの悪い我儘な妾がいけなかったのだ。
そう自分自身に言い聞かせて生きて来たが、やはり寂しさは未だに消える事はない。
魔石喰らいと稀なハイエルフ種と言う弊害で、普通のエルフ族や魔石喰らいより知能の発達が極端に遅かった故、度々周りに迷惑をかけた。申し訳無いとしか言いようがない。
愛情は皆無でも、見捨てずに育ててくれた事には感謝している。お陰で無事にここまで育った。
部屋付きの者に身支度を任せ、陛下の元に向かう。
父上は未だに苦手故、本当は部屋に篭ってしまいたいが、直々の呼び出しには応えなければ後が怖い。
王族用の謁見の間に直接向かうのでは無く、待合室に通された。ああ、直々に呼び出しを受けたのに、また長時間待たされるのか………。
思わず溜息を吐いてしまったが、淑女として最低限扇で口元は隠した。
覚えの悪かった妾に、根気よく淑女教育を施してくれた教師に感謝である。先生、妾は頑張っておるぞ。
父上の冷遇なんて今に始まった事じゃ無い、いつもの様に我慢だ。表情筋を酷使して泣くのも我慢して……大丈夫、深呼吸。すーはーすーはー。
侍女が紅茶を淹れてくれたが………もの凄く渋い。我慢だ、我慢。ミルクを足せば飲める飲める。甘いお菓子と一緒に食べれば大丈夫。あ、美味しい。
「美味しい…」
「私が用意させました」
「あ…ありがとうな」
妾泣きそう。扇大活躍だな。目が潤むのを隠すために広げて、感情を制御させる為に暫くやり過ごす。
冷たくされるのは慣れておるが、優しくされる事は滅多に無かった故、未だに感動してしまうのだ。すまん。
淑女教育の合格と共に、大きめの扇を贈ってくれた先生に感謝せねば。
因みに、未だにダンスの教師からは合格を貰えないでいる。
妾にダンスの才能は無くてな………壊滅的に駄目らしい。
まぁ、気がつけば結婚適齢期も当に過ぎた行き遅れの妾にはもうダンスなど必要無いか。
魔力量の見合う相手も元からいない故、結婚など遥か昔に諦めたわ。
油断していたら、今度はお茶のお代わりを淹れると見せかけてドレスに茶を零された。
「ファイ様ッ!!!?」
「ごめんあそばせ、手が滑りましたわ。火傷など大丈夫ですか?」
「………問題無い故、心配するな」
「直ぐにお召し替えを、跡になったら大変です!!」
「必要ない」
滅茶苦茶アチいわ。ドレスの布から染み込んで皮膚に当たった所からヒリヒリピリピリする。
これから父上にお会いするって時に何してくれてるんだい小娘。
前回も母上に呼び出された時に茶をひっくり返されて、召し替えて行ったら嫌味を言われたのは記憶に新しい。
その時は「あら、随分ゆっくりだったわね」なーんて嫌味を言われてしまった。
暫くしてから、父上のお呼びがかかったので謁見の間に移動した。




