259話
「『ヌシ』は恐らく魔族インキュバス種ですのよ。でも、変なんですの…魔族の割に魔力量がそんなに無い個体ですわ。相手もそんなに魔力が高くない個体の魔族でしたの。その後色んな魔族や獣人族、魔物が交わったみたいなんですの…吸血鬼種、獣人族狼種、獣人族熊種etc…全部魔力が低いですわね。その先は普通の魔力量のサキュバス種が混じってたまに人族と低魔力の魔族やら獣人族と色々ですわね。ゴブリン族オーガ種やら、オーク種のメス、オスも混じっていましたわ」
「魔族が多すぎる。魔大陸の関与を疑った方が無難だろう」
「そうですな……」
資料の交配の表を確認しながら、よくもあまこんなに色々混じったものだと逆に感心してしまう位だ。
ズラッと並んだ交配を見るとゴブリン族オーガ種メス×『エラー』と書かれた先にはゴブリン族とホフゴブリ種、相手はドワーフ族がズラッと並んでいる。
よくここまで調べたものだな。
「さて、どうしたものか……」
大輔は考え込んでしまった。魔大陸は封印の結界により国境遮断で世界会議でしか接触出来ない。それも毎回出席する訳ではないので事実確認が直ぐに取れない。
前回出席したので、恐らく今回の会議に出席するかは五分五分だろうな。
今回の世界会議に向けて、既に代表者の最高司祭様は出発されてしまった。
後続で後から人を送っても、会議中は招待状の無い者は締め出されるし、暗殺やらの関係で代表者に接触禁止なので人を送っても無駄足だろうな。
「一応駄目元で手紙を送ろうと思うが、どうだろうか?」
「そうですね…手紙なら届くかもしれませんが………いや、無理だろうな間に合わないと思います」
「ゴブリンのスタンピードで最高司祭様の出発時期も大分遅れてしまったからな。もし必要なら神聖帝国から人員を出すが、大輔どうする?」
「いや、やめておこう。魔大陸の代表者は毎回会議終了か下手したら途中で帰ってしまう様な方だ。貴重な船を出すなら肉や酒の輸送に使ってしまおう…大陸間の問題なので、下手な者に手紙も持たせられないしな。責任問題は被害報告ついでに次回以降の世界会議にでも回そう………いつになるかは不明だが」
世界会議で思い出したが…………。
「花子殿もしかして、この『エラー』は種族の特定が出来ない為に解析不能なんだろうか?」
「そうなんですの。解析不能なんて文献でしか見た事ありませんでしたわ。近しい種族が表記される時は『人族?』とか『魔族×人?』とか出ますのよ。これだけ混じってしまってますし、全く何にも当てはまらないなんて正直お手上げですわ」
「世界会議の議事録で新種の魔族が出たと魔大陸から報告があったが……それはどうだろうか。詳しくは閲覧許可を出さないと見れないが」
「新種報告は種族研究所から報告がございましたのよ………詳しく教えていただけるなら願ったり叶ったりですわ!もう、魔物研究所だけでは正直無理ですの。『エラー』を特定するなら其方にも協力を煽って欲しいですわ」
「責任者が資金援助を惜しまない種族研究ならもっと詳しくわかるかも知れませんわ」と付け答えて、花子殿がニッコリしている。
因みに資金援助を惜しまない責任者はコンスタンティン様の事だ。
許可を出す為に花子殿に秘匿内容を含む為に色々書類にサインして貰って、新種の魔族に関する閲覧許可を大輔が出した。
種族研究に至っては結果次第で表に出せない部分もあるので、情報の扱いが大変だ。
他大陸からも解析を頼まれる事があるが……敵対国の血が混じってますが、どうしますか?とか、犯罪者の血が入ってますけど?など色々此方にお伺いが来る。
研究所は調べるだけで、大陸や国同士のいざこざは政府機関が介入する時があるからな…良く外交担当の文官に相談された記憶がある。
昔、種族研究所が素直に研究結果を発表して他国と揉めてしまった事があるらしいんで、「悩んだら相談」と言うスタンスにしているらしい。
あれだ、揉めたのは皐月殿やサミュエル・カミュの事で、出身国の神聖帝国やハイルング国と相当何かあったんだろうなと私は勝手に思っている。他にもあるっぽいが。
内密な鑑定結果は情報漏洩とか大変だからな…責任問題になるんで、危険な内容は「詳しくは本人が直接説明を受けに来て」と外交担当の文官に助言したな。
大体そんなのは本人が取りに来ない。敵国や敵対勢力が秘密裏に依頼して来る場合が大多数だ。
頼むからカイザス国を巻き込まないでもらいたい。
魔大陸の魔族絡みはもうどうしようも無いんで、とりあえず『エラー』表示の者だけ調べてもらう事にした。
ちゃんと調べたら実は全然見当違いの誰かだったとかになったら目も当てられないしな。
特定出来れば、エデン内の国同士少しは疑心暗鬼に成らずに済むだろう。
神聖帝国は外部犯だと思ってるらしいが、他はそう思って無いみたいだからな。
各国代表者が出揃って空気がピリピリしているんて、正直かなりやりずらいだろうな大輔。カール様なんてひと言も喋らないし。
そう思っていたら、別室に代表者だけ集まる旨を大輔が告げた。ついでに私も参加命令が出たので、同席する運びとなった。この嫌な空気の中道連れにされたよ。
カール様は嫌がったが、事前に奈々彦さまの命令書を出して黙らせた大輔。個人的にはやはり軍トップに相応しいと思う。




