257話
頭部を残してここでのゴブリンの解剖が終わった所で、一旦解散。竜騎士への話は明日聞く事に決定したので、各自仮眠室に………と、思ったら私だけ大輔に引き止められた。
「眠いです。無理です」
「ドワーフ族の相手はしなくていい。何なら明後日休みをやる」
「明後日は無理だ……明日早めに自宅に返してくれればいい」
「いいだろう」
交渉成立した所で、2人と荷物持ちを連れて竜騎士の元に向かう。大輔は酒の入ったケースを部下に持たせていた。随分いい酒だな。朝から仕事じゃ無ければ是非飲みたかったよ。
竜騎士に与えられた仮眠室をノックすると、内側から扉が空いた。
「こんな夜中にどちらさんですか???」
「酒を差し入れに来た。とりあえず中に入れてくれ」
「そりゃ有難い!どうぞ、入って下さい」
部屋に入室して、酒のケースを運び入れて部下を下がらせる。とりあえず1本手渡すと一気に呑んでプハーってと……美味そうに飲むなー。
「うまっ!こりゃ王都の酒蔵のじゃ無いか!!!?もう飲めないとばかり思ってたんで、涙が出そうだ。貴方達は呑まないのか?」
「気に入ってくれた様で何よりだ。気にせずに飲んでくれ…申し訳ないが、我々は明日仕事でな」
「いや、しかしこんなにいい酒を一人で呑むのは……」
コンコンッ
「また客か?鍵はかかってないから入ってくれー」
「お…お邪魔します」(涙目)
部屋に入って来たのは奈々彦さま。そうか、国家間に関わる話に臨席されるのか。
因みに先程の私の悪魔かも知れないと言う発言は、証拠も何も無いと言う事で大輔が有耶無耶にしたな。
「お前さんも明日仕事か?」
「あ、言え…多分休みですかね?最近は毎日休みみたいなものです。久しぶりに呼ばれたんですけどどの様なご用件でーーー」
「じゃあ、貴方も飲め飲め!この酒はフォーゼライド国1番の酒蔵ので……ゴクゴクゴクゴク…くっーーー!生き返る。もう木っ端微塵に吹き飛んだので、飲めないかも知れんないな」
「え…あ、ちょっと……い、いただきますっ」
大輔が酒瓶を奈々彦さまに渡して……おお、マジか。そんなぐびぐび飲んだらーーー。
バターンッ
「え?」
「気にするな、王様は少々酒に弱かった様だ」
「おおおおお王様!ヤバイ、どうしようどうしよう!!?」
とりあえずあたふたしている竜騎士にベッドを貸してもらって、奈々彦さまを寝かせた。うん、寝てるだけだな。大丈夫そうだ。
「結界か、盗聴防止の魔道具は持っているか?作動させて欲しい」
「あ…ああ。王様生きてる?大丈夫か?」
「私が見たところ、命に別状はありません。大丈夫ですよ」
「そうか…それはよかった……ゴクゴクゴク」
目の前で人が倒れても酒瓶を手放さないとは、流石ドワーフ族。
結界の魔道具に盗聴防止の魔道具も一緒に組み込まれていると言う事で、竜騎士、大輔、私が入れる位の結界を展開させてもらった。魔道具が栓抜きか、ブレないな。
「水島、身分証を出せ」
「はい」
首にかけていたチェーン付きのタグを手渡すと、大輔も自分のタグと奈々彦様が付けていた指輪を小型の箱に閉まってから結界の外に押し出した。
「………これで大丈夫だと思うか水島?」
「おそらく…五分五分だな」
「それだけあれば十分だ」
竜騎士は何のこっちゃ?と言う顔をしながら酒を煽っているが、私も何に対して大丈夫なのか良くわからん。勘は「大丈夫、問題なし」と感じるので五分五分と答えたに過ぎない。
「私はお咎め受けるのか?」
「いや、貴殿は大丈夫だ」
「ほっ…よかった」
「おそらく国に責任が問われるかも知れない」
「全然大丈夫じゃ無かったーーー!!?ヤバイ、どうしよう!!え、どうしようっ!?」
「大丈夫、奈々彦さま…王様を眠らせたのは大輔隊長です。貴方は悪く無い」
酒と見せかけた睡眠薬入りの水でも呑ませたんだろう。全く酒臭く無かった。
しかも、しれっと身分証の指輪型魔道具まで抜き取ってるんだから手癖が悪いな。
「え?じゃあ、何で国に責任問題があるんだ?冤罪か。幾ら美味い酒用意してくれてもそれは酷いっ!!?」
「違う。フォーゼライド国に悪魔が入った可能性がある…下手したら国家転覆罪だ」
「ちょっ…えー…グビグビグビーっ!?どっからそんな情報出たんだ!上しか知らない情報だって聞いた…気がする?」
「自己紹介がまだだったな。私はカイザス国所属第1隊長の大輔だ。こちらは副隊長の水島だ」
「………副隊長の水島?『死神』のご親戚か?」
「最近副隊長に降格した水島と申します。今後ともよろしくお願いします」
「失礼しましたぁぁぁぁあぁぁっ!!」
大瓶の中身が空になったんで、自己紹介と共に新しい酒を手渡してやると謝罪しながらも受けとった。うん、ブレないなドワーフ族。
「私はフォーゼライド国竜騎士隊所属のマティアスでありますっ!!」
うっ。今隣から寒気が……。
横の大輔が、獲物を見つけた時の様なそれはそれは薄寒い笑みを浮かべているのが視界に入った。
今は頭の中で何やら色々算段を立ててるんだろうなきっと。
私は大輔の邪魔をしない様に目の前の竜騎士のマティアスから情報を聞き出すことにした。
「貴方は王族の方ですか?」
「いえ……王都の爆撃に巻き込まれて殆どの男性王族の死亡が確認されましたので、数日前に継承権の順位が爆上がりしましたが。ははは……はぁ〜…グビッ。傍系の末端に座っていたハズなのに、いきなり王女様の婚約者?もう呑まなきゃやってられない!」
フォーゼライド国の現在の状況は、結構混乱してるらしいな。王都が消失したんだ、無理も無い。
社交シーズンと言う名の大規模な酒の飲み会時にゴブリンが王都中に沸いたらしく、結構な数の王侯貴族が亡くなったらしい。
「ギリギリまで戦い争った様ですが、最終的に女と子どもを優先して入るだけ地下に避難させ、王都は陛下が爆破したそうです。地下も一部潰れてしまって………ふぅ。現在は陛下の代わりに生き残った側室様が采配をふるっている事になってはいますが……」
「実際は誰が責任者ですか?」
「繰り上がりの継承権1位の王女様ですね。私の婚約者ですよ」
「で、本当はどなたが?」
「何でそんなに内部事情にお詳しいんですかっ!!?お代わり!」
更に酒を手渡して……これは、相当飲んでなかったんだな。
実際には副都市の司令本部で、おそらくこのまま新たな王都になるだろう城壁の騎士団トップが動いている様だ。
王女様はまだ成人して間も無いらしいからな。母親(側室)の実家が後ろ盾に着いたらしい。
「竜騎士団長ですか。あの方なら安心だ」
「私は一応フォーゼライド国の代表で来ました。あ、魔女様をこちらに派遣して下さってありがとうございます。お陰で助かりました」
よかった。皐月殿大活躍らしい。
ここで大輔がサラッと特大の業火魔法をぶち込んだ。
「貴方以外の数名の継承権上位者には是非とも死んで欲しいな」
私もマティアスも顔色を変えた。いきなり言うな大輔。
「は……ははは、何をご冗談を。実は酔っ払っていらっしゃるのか?そんな事したらーーー
私ガ次ノ王様ニナッテシマウ。




