246話
「ユリエル、神聖帝国に信頼出来る奴はいるか?」
「んー………健介だな。後は駄目だ」
あ、マシなのじゃ無くてちゃんと信用出来る人みたい。私と違って……泣いていいですか?
「歳が近いんで話しやすいしな」
100歳オーバーのユリエルと歳が近い『健介』ってよりによって皇子かっ!!?
まぁ……今回は都合がいいか。彼方の援軍に名前上がってたな。
何処で話す機会があったんだ?謎すぎる。お前態度はデカいが、一応一兵卒だろ…私の目の届かない所で何か粗相して無いと良いんだが、心配。
確か双子の兄が聖女の家系に婿に行ってから軍職を引き継いだと聞いたが、余り私は話した事が無いな?最近は書類の文面で名前は良く見る人物だという認識。
ユリエルが信頼する位だから悪い人だとは思えないが…でも、『皇家』だしな。……皇子なら貴族には詳しそうだ。何とかなるか。
「後でカール様にユリエルが信用たる人物だと一筆書いて欲しい。私だと貴族関係はお手上げなんだ…作戦立案時に貴族社会の規則やら助言に協力願いたい人物として、神聖帝国側から紹介して貰いたいと思っている。最終的にはカール様が決定するが、ユリエルが大丈夫なら恐らく無下にはしないだろう」
「わかった」
「後は、ユリエルはエデンの地図は持っているか?支度出来次第ハイルング国の橋に行ってもらいたいんだが、説明するのに出来れば欲しい」
「ちょっと待て………コレとコレでいいか?」
マジックバックに片手を突っ込んで取り出したのは2枚の地図。1枚はエデン全体で、もう一枚はベスティア国とハイルング国の地図だ…………ちょっと待て、何だこの詳細地図?橋の位置はもちろん、各城壁の場所とか載ってるんだけど???あぁ、ここがハイルング国の王都かぁー……(遠い目)。
「ユリエル、この地図どっから持ち出したんだ?」
「コンスタンティンのだ。俺がエデンに着いた時に、ベスティア国からカイザス国にどうやって辿り着いたか説明してもらった時にくれた」
「な…なるほどな……」
この地図今物凄く欲しいんだけど。作戦立てる時に都市の場所とか把握出来て便利だよな………。
国の形は分かるが、ハイルング国の地図なんておおやけにはカール様以外誰も把握して無い気がする。
「見過ぎだろ。欲しいのか?」
「欲しいっちゃ欲しいんだが…カール様に確認してみないと何とも言えないな……何かハイルング国の機密事項に触れるかもしれん」
「俺が聞いて来る」
「あ、ちょっ!ユリエルまだ話しが……」
「直ぐに戻る」と言ってユリエルは部屋から出てしまった……はぁ……今の内に命令書でも書くか。
コンコン
「水島隊長。『ナロ』です。入室許可を願います」
「許可する。入って下さい」
「失礼します」
ユリエルが出て来たので部屋の前で待機していた退役軍人の獣人族虎種の『ナロ』こと元第2隊長が入室して来た。私の昔の上官だな。新人指導の教官でもある。
肉狩り行って、元気有り余って魔力の徴収されてるじーさんばーさんの代表だ。
きっと肉用の保管倉庫をいっぱいにしてる犯人はこの人なんじゃ無いかと私は思っている。
「敬語はよして下さい。なんだか変な感じがしますナロ前隊長。高級肉の方は順調ですか?」
「そうか?んじゃ、遠慮はせんぞ。肉は飛び切りいいやつ今日狩ってきたぞ!」
おいおいおいおい。
ワイバーン狩って来て、更に1匹乗りまわして来た奴誰だっ!!??
「お前の父さんだぞ?今調教中らしい」
「うーわー…オヤジがすいません。本当すいません。フォーゼライド国に対抗して竜騎士にでもなるつもりか?は?調教???」
「商人護衛の知り合いに腕の良いテイマーがいるってんで、昼間にテイム契約で縛って今はワイバーンに色々教えてるらしいな。ワシも早よ同乗したいの」
いや、本当オヤジ自重して。
てか、テイム契約したって事はワイバーンより強くなっちゃったのか?我が親ながら怖いんだけど。
現役時代は羽馬乗り回してたけど、とうとう飛竜に手を出したかー……………餌は軍の費用じゃ無くて自力で調達させよう。そうしよう。
寝場所とかどうするんだ?羽馬の寝床と一緒は無理だろ。羽馬可哀想だよ。頭どころか胃も痛くなる話しなんだが、とりあえずオヤジは放置。
ガチャッ
「カールが地ーーー」
「ユリエル、急いでいてもノックして入室許可が出てから入れ。機密案件の資料を見てしまったり、話しを聞いてしまったら処罰されるぞ。今は大変な時期だ、普段よりも更に気をつけろ。やり直し」
「………はい」
「そうだぞ。水島なんて入隊したてで大事な会議中にババーンと入って来て1週間寮の便所掃除させられたからな。経験者の言葉は説得力が違うのーがははははっ!」
「……そう言う事だ。気をつけろ」
「わかった。トイレ掃除はヤダしな」
あの時は肝が冷えたな。ユリエルも気をつけて欲しい。
同期の奴は密談中に「オバケカボチャ収穫出来ますっ!!!」って勢い良く部屋に入ってトイレ掃除+オバケカボチャの寮メシ抜きにされてたな。
同期の好物だったのに可哀想な事になってたんで流石にスープ分けてやった記憶がある。昔は若い奴は強制的に寮暮らしだったからな。食事と休みの日の外出しか楽しみが無い時代だった。
私が分けたオバケカボチャのスープを「美味しい美味しい」と言って飲んでた同期は、次の収穫時期を待たずに軍事遠征中に亡くなったな………苦い思い出だ。
因みにその同期はナロ元隊長の息子だった。よっぽどこの人に注意される方が言葉の重みが違う。
入室からやり直したユリエルに結界を展開してもらって、3人で内緒話と行こうじゃ無いか。
あぁ…ほんと損な役回りだ。出来ればこの役目を誰かに代わってもらって、一兵卒だったあの頃に戻りたいとたまに思うが…歳を取ると上の役職に着かなきゃいけないのはしょうがない。
年上は何人もいるが、私の軍属の同期なんてもう誰も残って無いしな。
「水島?ぼーっとしてるが大丈夫か?」
「ああ、考え事してただけですよ。話をしてしまいましょう」
嫁が作ったオバケカボチャのパンプキンスープが飲みたくなったとか、この人には口が裂けても言えない。
まだ時期じゃ無いんで作ってもらえないのが非常に残念だ。その前にこの状況じゃ家に帰れないか。ははは…。




