239.5 皐月1
魔物の血を受け継いだ事をずっと後悔して来た。多分今もしている。
「なぜ私など産んだのかしら?」
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい『巫女』様…ごめんなさい…ごめんなさい…」
「謝罪が欲しい訳じゃ無いのよ……もう良いわ下がりなさい」
母は心の弱い人だった…私の所為で。
ああ、本当に何で産んだのかしら?八つ当たりしないとやってられないわ。
『座敷』と呼ばれる聖女の家系の神殿内部の更にその奥に建てられた空間。昔は神様が使っていたらしい。
「はぁ……」
『座敷』と呼ばれては居るが、ここは結界でガッチガチに固められた『牢屋』でしょうね。生まれた時からここに居るので、余りその認識はなかったのだけれど。
兄弟姉妹は外に出されたが…まぁ、アレが居なくなって今はホッとはしたが刺激の減った日々になったわね。
力の強すぎる私はここで静かに暮らしている………夜以外は。
母が食事を持って来てひとりで湯浴みをし、身支度を軽くすませる。
この『座敷』のいい所はほぼ何でもひとりで出来る所だわ。それ以外はいい所が見当たらないわね。
「こ……こ今夜のお相手です……」
「『巫女』様のお側に侍る栄誉を賜り、光栄で御座います」
「そう」
そのままムードも何も無く、事が済んだらとっとと帰った奴に言ってやりたい。
「この、ヤリ逃げやろう」
私の側に侍るのが栄誉なら四六時中一緒にいれば良いものを……無理か。私が殺してしまうわきっと。
妾が何人も変わるがわるやって来ては作業して行き、もう嫌になった頃母が年老いて行くのを目の当たりにして『秘術』を使った。
「『再生』」
「あ?あ………いやぁあぁぁぁああ!!?許して!許してっ!!お願い許してぇえぇぇえっっっ!!!」
「いいえ、許さないわ。産んだんだからキチンと責任を取って頂戴。1人だけ先に死ぬなんて狡いわ」
若返って艶々ピッチピチの肌になったにも関わらず、泣き叫びながら許しを乞う姿に私は声をかけた。
「なぜ私など産んだのかしら?」
その問い掛けは母が狂って死ぬまで続いた。




