237話
ー次の日ー
「カール様とやらはいつ戻るかわかりませんもの。ゴブリンを解剖してしまいましょう。皆様、準備をお願い致しますわ」
「各自食事を済ませて、見学者を集めろ。3時間後にゴブリンを解体する」
「それまでにある程度血抜きを済ませておきますわね」
昼は豚肉だった。
軍属の者は魔物の解体など慣れているが、同席を希望した文官長や代理の者は………暫く肉は食えなくなるだろうな。
私は豚肉のステーキをお代わりして、午後に備える事にした。
ゴブリンは解体用の机に仰向けに寝かされて、解剖が始まった。
ぐちゅっぐちっ……ずるっ
「ゴブリンの魔石は心臓部にありますの。位置は人と変わりませんわね。これが心臓ですわ」
「うぷっっっ!!」
ゴブリンの心臓を取り出すと文官の1人が、手に持たせたバケツに顔を突っ込んだ。
口元を拭ってバケツを下っ端に手渡し、新しいバケツを横に居た顔面蒼白の文官から引ったくっている。
参加は続行するらしい。文官とは言え………ガッツのある奴だ。
清浄用の魔道具がフル稼働しているので、汚れたバケツは結界の隅に置かれて魔道具の機能でその内綺麗になるだろう。
「コレが魔石ですのよ。一般的なゴブリンよりはやや大きいとは言え、魔石は屑魔石の範囲内ですわね」
魔石の等級を調べる魔道具に入れられたゴブリンの魔石はかなり小さい。
「この身体の大きさなら、グールになるのに時間がかかるかもしれませんわね。なる確率も低そうですわ」
死んだ後に魔物の体内に魔石が残っていると魔石に残っている魔力が体内に回り、肉体がある程度残っているとグールになる場合がある。
ゴブリンは他の魔物に比べれば、グールになる確率が高い。
1番グールになる確率が高いのは『人類』だ。魔石が無い代わりに身体中に魔力が豊富だからだ。
グールにさせない為には首と胴体を切り離すか、焼いてしまうか、ゴブリンの場合は魔石を取り出してしまえばいいい。
余談だが、魔物の高級肉を作る場合はわざと体内に魔石を残したまま血抜きして、首と胴体を離してから魔石を体内に残して熟成させている。
体内に残った魔石は空の魔石になるので、魔石自体の価値は下がるが、その分肉に魔力が込められていて美味しい魔力豊富な肉になる。物凄い手間はかかるが。
大体、家畜派か高級肉派に分かれるが私は噛みごたえのある高級肉の方が好みだな。
その後ゴブリンの解剖が続いて、筋肉や骨格の構造、各部位の重さなどなど。
色々調べて……うん、確かに長いな。何処がとは言わないが。
全て終了した所で解剖の見学は終了。ゴブリンの観察記録と一緒に、解剖時撮影していた記録は編集作業が終わり次第全ての軍関係者に情報共有される。
解剖されたゴブリンは青いラインの入ったクーラーボックスに入れられて研究施設に運ばれて行った。
花子殿がエデンゴブリン初遭遇の記念に欲しいと言うのでくれてやったよ。
「カール様は来ないか」
「仕事も無断欠席しているそうです」
「神様はまだ籠っておいでか………」
元々表にはあまり出て来ない方だが、それにしても出て来なさすぎる。
前は重要な会議の出席や点検と称して敷地内をフラつく位はしていた。
サミュエル・カミュの孫…ユリエルが来てから居住区外での目撃情報は無い。
「司書長もまだ図書室の中層より先は降りられないとおっしゃっていました」
「そうか…」
禁書庫どころか下層もまだ駄目か。…よし。
「無駄足かもしれないが、ちょっと見て来る。後は頼んだ」
「お気をつけて」
カール様用の『出頭命令書』に奈々彦さまにサインを貰い、急あつらえの玉璽をサインの後に押してもらう。多分会えそうな予感。
実は私もひとりで神様の居住区向かうのは初めてだ。
前第1隊長に業務の引き継ぎの際に教えてもらったが…前の隊長も開かずの間の扉先には足を踏み入れた事は無いと言う。
訳の分からん摩訶不思議な道筋を進み、辿り着いた扉の前にカール様が踞っていた。
「王様から出頭命令が出ています」
「…………わかりました」
手が痛々しい程にズル剥けている。処置の為に第3医務室の魔女の所に寄ってから対策本部に向かう事にした。
「え?ヤダ、ちょっとどうしたのよ!?」
「扉が開かなくて…すみません皐月、処置して下さい」
「『洗浄』『治癒』。カールが怪我するなんて相当長時間痛めつけてたのね?何してるのよ」
「コンスタンティン様が部屋から出て来ないんです」
「そんなのいつもの事じゃ…そう言えば最近外で見かけないわね???いつから会って無いのよ?」
「ユリエルが来てからです。ちょっと部屋に籠ると言ってから出て来てません」
魔女にとっては最近で、神様に至ってはちょっとか……そうですか。
「コンスタンティン様の許可が無いと私はここから離れられない………どうしたら……」
「医務室で話しててもしょうがないわ。とりあえず本部の会議室に行きましょう。私も一緒に行ってあげるから」
「…………わかりました」
第3医務室の扉に『休診中』の札をかけてから3人で作戦本部に向かう運びとなった。




