236話
ゴブリンを孕んだ者は、世界中の国々で扱いが天から地程の差がある。
孕んだ、もしくは産んだ時点で『人』では無く抹殺対象に入る場合や、手厚く保護しようとする国もある。
その『手厚く保護をしよう』と言う代表が何を隠そう大体はエルフ族が統治する国々だ。
因みに、エルフ族以外が孕んだら抹殺対象らしい。同族愛、ある意味種族差別とも言えるな。
大多数が国に引き籠っているエルフ族だが、世界会議だけ出席したり、ハイルング国の様に厳しい入国制限をかけて微々たるものだが他の国と交易しているエルフ族の国もある。
世界で一番有名なエルフ族の国、『世界樹の国』は完全鎖国状態だが。
やはり、寿命が長くて高魔力のエルフ族の発言権は結構ある。
定期的に世界会議でゴブリンを孕んだ者の扱いが議題に上がるが、未だに意見が割れていて、扱いが世界統一出来ていない。
「エルフ族はゴブリンに捕まった時点で自害しますわ。でも、全員がちゃんと死ねる訳じゃ無いんですの。戦闘中に自決用の魔道具が破損して壊れたり、魔道具が無事でも発動させられない状態だったり……色々ありますわね」
部下の複数が魔女様の方を見ている。あからさまな視線を向けるのはやめなさい。本当は私も会議に出席もさせたく無かったのだ。
「そうね、エルフ族では無いけれど私の恐らく祖母になるのかしら?親子で攫われたってお母様から聞いたわ。お母様も又聞きですけどね。後は発動させる為に腕や指が動かないと意味が無い場合もあるわよね。エルフ族は頑丈ですもの、多少怪我しててもゴブリンを生み出せるわ」
「部下が失礼した」
「いいのよ。昔の話だもの…詳しくは論文に載せて公開しているわ。気にしないで寧ろガンガン聞いて頂戴」
ゴブリン族オーガ種と人族の女性から生まれたのが魔女様の母親だ。
表記は『人族』としているらしいが、『人族鬼人種』に分類されて当時新種登録されている。学術的には非公開だが、おそらく『魔族』分類なんだろう。
ゴブリンの繁殖で、女性は身体の造りが変わる。
短期間でゴブリンを生み出すことが可能になる事からもう『人』では無くなるとエルフ族以外の大体は思っているが…精神面も無事ではすまない。
社会復帰は勿論『人』と子どもが出来る事も無くなり、普通の生活は送れない………ゴブリンに連れ去られた者の末路は悲惨だ。
「援軍要請さえ出してくれれば………」
「ハイルング国の女王は何をしているんだ」
ハイルング国に女王が居るのは知っているがエデン全体会議にはカール様が出席しているので、実は女王を実際誰も見た事が無い。
ここまで来ると本当にいるのか怪しくなって来たな………どうしたものか。
橋も渡れない、空から輸送しても入ったら犯罪者扱い。ベスティア国の者がハイルング国の入国審査用の島に行っても許可が無いので入国拒否されと言う。
「カール様をどうにかしたいが…」
「あの方に何を行っても『平民が』と言って聞きゃしないっ!」
「あの、相談があるのですが?発言してもいいですか?」
「許可する」
「平民の話しを聞かないなら、カイザス国を一時的に王政にしてしまってはどうでしょうか?」
「何だと?」
話を聞くと、丁度いい人がいるじゃないかと言われた………いたかそんな人?
「『奈々彦 (ななひこ)』さんでは?」
第1部隊所属の副隊長は知って居るらしいが、全く分からん。いや……確か………。
「家名が『カイザス』の者か?」
「そうです、カイザス国建国の立役者の子孫ですよ」
「「「「!?」」」」
一同のザワつきが凄い。「え?そんな人居るの?」、「見た事無い」と言う意味で。
連れてこいと行ったら既に居ると言われた………文官?
「…………そなたが『奈々彦』か?はじめまして」
泣かれたーっ!!?え?すまん何回も会ってる?いやいやいやご冗談を。あ、すまん。
「皆さん『誰だコイツ』、『第1隊長酷い奴』みたいな顔してますけど…僕は…僕は…ほっっっとんどの方とお会いした事ありますからー!!」
口々に皆謝罪の言葉を口にした。私ももう一度謝る。いやしかし、街の住人って感じで全く特徴の無い顔立ちで本当…失礼だとは思うが何処にでもいそう。
「第1文官長室所属で人事を…主に内部監査や調査の時に働いてる者ですね」
先程一時的に王制にしてしまえば?と発言した第2文官長が説明してくれた。
役職を聞いて、「凄く良い仕事しそう」って言った奴誰だ!全力で同意してやる。
監査前に絶対挨拶してる筈。書類に目を通した時に珍しい家名だと思って覚えてはいたが、顔は忘れてた…すまん。
「明日、文官長会議開いて可決取って王様にしよう」
「王冠とマント用意させよう。でないと誰か分からない。凄く目立つヤツにして下さい」
「玉座作ろう玉座。」
「いっそ『私が王様です』ってプレート胸に付けましょう」
「酷いです皆さんっ!!?」(泣)
こうしてカール様対策の緊急措置として担ぎ出された『カイザス』家の泣き虫で若い当主が次の日王様になるのでした。
その約100年後に『仮初の玉座』…王政廃止される悲劇を体感するのは、この場には魔女様しか居なかったーーーそれはまた別のお話し。
ー次の日ー
「コレが王ですか。世も末ですね。ハッ」
「ひぃっ!!」(泣)
第7文官長室に始業時間ギリギリで出勤して来たカール様を待ち構えて『王様』を紹介すると鼻で笑われたな。
王冠もマントも間に合わなかったので、プレートに『王様 カイザス』と書いて事故主張…いや、自己主張している。
「確かに、これ程魔力の気配が気薄で不気味な者はタチバ……『カイザス』の血縁者でしょう。血筋は確かな様ですね。で、王命は何ですか『王様』?」
「え?」(涙目)
意外とアッサリ奈々彦さまを認めてくれた。
一応カール様以外の文官長全員の署名と印鑑が入った正式書類を持って来たが、それも必要無かったな。
とりあえず、ゴブリンを見て貰うとカール様は顔を歪めた。
「ゴブリンを飼うなんて…悪趣味ですね」
「すいません」(涙目)
「王がそんな簡単に目下の者に謝るものではありません」
「ひゃいっ!」
「返事はキチンとハッキリして下さい。それでは示しがつきません」
「はい!」(号泣)
これではどっちが王様か分かったもんじゃ無いな。
仮初の『王』だ…カール様対策に結構な権限を与えたが、苦言は言えど、とりあえずは言う事聞いているので今暫くはコレで良いだろう。後々の問題は平和になった後で考えて欲しい。
次に作戦司令本部の会議室でハイルング国を撮影したビデオカメラを見てもらった。
『無職の自由を謳歌中〜♪自由サイコー!!ヒャハーッッッ!!』
「橋を越えたんですか…密入国者ですね。死刑です」
『ああっ!あんまり乗り出さないで下さい!落っこちマスって宰相ー!!』
「既にテンション高い方はお亡くなりになりました」
「それは良かったです」
『もう辞職したもん、ただのネコだもんにゃんにゃーん!ピースピース。ほら、撮ってあげるからピースして。』
『ぎゃぁおぁっ!落ちる!バカーっ!!!』
息子の猫種はそのままベスティア国の代表者になったので同席して居るが、能面の様な顔を貼り付けているが、内心は穏やかではない。
流石に画面にゴブリンが映ると、黙ってビデオカメラを見始めた。
『黒煙が離れた所から2つ上がってます』
「コレは………」
「どうされました?」
「いえ…何でもありません」
また映像の続きを瞬きもせずに見始めた…カール様の表情は段々悪くなる一方だ。
ーーー…………どうかご武運を。』
カール様はカメラの映像を見終わっても、暫く眺めたままで動かない。
「貴殿の祖国の女王から援軍要請が出ていないのです。勝手にハイルング国の内部情報開示も援軍も派遣出来ないのが現状です。女王の代わりに王兄殿下であるカール様に何とか許可をいただきたい」
「コンスタンティン様の所に行って来ます。話はそれからです…御前失礼致します王様」
「あ。はい!」
そう言うとカール様は足早に部屋を出て行った。待っていたが、その日はとうとう戻って来なかったがな。




