226.5 ジョン5
マリーと一緒に寝て居ると、誰かに揺すり起こされた。ここは…そうだ。義理妹のカイザス国の御屋敷か…。
「話がある。父も同席する…国の内部事情を聞いて欲しい」
「………はい」
「私が代わりに添い寝するわね。起きて貴方が居なかったらビックリしちゃうだろうから」
「すいません、よろしくお願いします」
管轄地に移動する前に離宮でお世話になっていたが、パーソナルスペースの狭い?寧ろ無い?皇后様との戯れに最初は戸惑っていたマリーだが、猫可愛がりされてるだけだと知った後は大分打ち解けて、今では仲良しだ。
祖母にデロデロの甘々に甘やかされて、管轄地に帰る時に寂しい思いをさせてしいそうだと今から心配…主に皇后様が。
引越しの時は「ばーばも一緒に行く」と言って聞かなくて、結構大変だったな………。
「今回は愚息が申し訳無い事をしでかした。すまない」
「皇帝陛下!頭をお上げ下さいっ!!?」
案内された部屋に行くと、いきなり土下座。本当勘弁して下さい。
何を謝られたのか分からないでいると、健介様の娼館通いだと言われた………ほー。「通う」と言う言葉を使って居るので、複数回ご利用されて居たのか。へー。そうですか。ユリエル様もいらっしゃるのに大分遊んでたんですね。
「ちゃんとドワーフ族についての情報収集も兼ねている」
「それなら朝方までは必要無い筈だ。椿から度々帰って来ない事があると報告が来てたぞ。素直に婿殿に謝りなさい」
「…………」
「謝罪は必要有りません。私に魅力が無いのがいけないだけですから……その代わり私も通わせていただきます。それでお相子に致しましょう」
行く気は今の所無いが、面倒臭いのでもう良いだろう。手打ちだ手打ち(投げやり)。
「それは駄目だ」
「愚息よ、それは流石に酷い」
「そうですか。それでは国の話しとは?」
「待て、聞き流すな。理由位聞け」
「また『私に好意がある』とか嘘を言うなら、もう結構です」
「嘘では無い」
「はいはい。で、国の内部事情とは何ですか?」
隣にいた健介様に腕を取られて、ついでに顔を向かせられた。
「ちゃんと私の言葉を聞いて欲しい」
「貴方の言葉が仮に本当だとしても、今はマリーの事を優先したいのです。時間が無い。早くお話しをお聞かせ下さい。マリー絡みの話しがあるのでしょう?」
「…………」
「健介に変わって私が説明しよう」
『サイ』と言う酒の飲めないフォーゼライド国の『エルフ族』と種族判定で出た王子の存在が確認され、よくよく調べたら姉上の子だったと。
父親はフォーゼライド国王。姉上……やらかし過ぎです。よりによってドワーフ族の王様ですか。
「姉上が口を割らない訳だ…はぁ〜……どうしよう」
「聖女の家系に確認しに行ったら『事実無根』だと突っぱねられた。事実確認の為に臨時会議前に極秘でフォーゼライド国王と会談する事を何とかこぎつけたが…」
「そうですか………」
「婿殿?」
「あ、いえ続けて下さい」
そもそもの賠償請求の経緯を聞いたが、聖女の家系…最高司祭様手引きによるカイザス国乗っ取り計画。
多数の優秀な信者の文官、一部軍人をカイザス王宮に派遣して国中枢からジワジワと掌握予定だったが失敗に終わり、内政干渉だとしょっ引かれたと。
信者の文官、軍人はその他の余罪も含めて罰金刑、足りない分は魔力の強制徴収、国外追放や神聖帝国に強制送還と処罰を受けて、これから支持を出した大元の聖女の家系に賠償請求。
裁きを受ける人数が多過ぎる為に、賠償金と一部魔力の強制徴収、手早く土地の賠償だけで皇家は済ませたいらしい。
「一部魔力支払いですが範囲は?カイザス国は強制徴収が連帯責任だった筈です」
「………上層部に食い込んでる分家と最高司祭様とリリア様、計画にも関わった婿殿の兄君だ。婿殿と養女のマリーは皇家の籍なんで入っていない」
「では、次の最高司祭は父に代わって叔父上ですか。わかりました。それならマリーも殺されなくて済みそうだ。ちなみにーーー」
「伴侶殿馬鹿な事は考えるな」
「ちなみに姉上の魔力の強制徴収は私が肩代わり出来ますか?私と姉上の立場を交換すれば出来ると思うんですが……」
「出来る」
「父上っ!こうなるから詳しく話すのは嫌だったんだ」
「後から知らされたら婿殿は嘆くだろう」
「死ぬよりはマシだ」
「それで姉上をっ!マリーの母親を見殺しにするのですか!?」
「そうだ。俺はリリア様より伴侶殿に生きて欲しい」
「聖女の家系の不祥事だ。リリア様の命に税金は出せない」
「そんなっ……お布施は!?お布施なら!」
「次の最高司祭様は支払いを拒否された。私もマリーの産みの親に亡くなっては欲しくない。しかし、神聖帝国皇帝として判断せざるを得ないんだ。婿殿にも死んで欲しくは無いが………」
私より、子どもが産める可能性がある姉上を取ったのか。皇帝の判断はこちらとしては有難い話しだ。
「子など兄上の所にわんさか居るだろう」
「今はそれでいい。しかし、皇家は男ばかりだ。高魔力保持者の異性の伴侶がこの先必要になって来る。椿だけでは心許ないし、皇太子の子と結婚させるには血が濃くなり過ぎる。健介も分かっているだろう?この気を逃したら次は無い。あっても当分先になる。頼みの綱だった無色の家系を手放した歪みが出て来ているんだ……このままでは城壁結界の意地が危うくなる未来が待っている。民を殺す気か?お前もいい加減腹をくくれ」
「リリア様に…愛する伴侶を犠牲にして生き残った俺の元に嫁いで子どもを産めと言うのか。酷すぎるだろう」
「魔力量で言えばお前が1番子を孕ませられる可能性があるんだ。命令だ。甘んじて受けろ」
「嫌だ。こんな国、伴侶殿とマリーを連れて出て行ってやる」
「馬鹿者っ!!!?」
暫く親子喧嘩は続き私は話を静かに聞く事にした……それ以上皇帝の閨事情を暴露しないで欲しいです健介様。
「ーーーそれに、父上だってカイザス国の娼館に行っていただろう。私だけ責められる言われは無い」
「バッカッッッ!?婿殿の前でななな何言ってる!……皇后が許したんだ。夫婦公認だ」
まだ続くのか。今更何で………もうそのままどうぞ。私は何も聞いてません。
「上3人だけの時はな。しかし、少なくもと椿の時は違うだろう。父上が空路を使ったなんて私には筒抜けだ。何なら飛行経路や部下の配置まで組んだ事がある。途中で通わなくなったのは義理母上にバレたんだろう?」
「しゃらっぷっ!!!?」
この話しの流れで切り出すのは中々言い出し憎いが、話が終わりそうに無いので割り込ませてもらう。
「貴方が姉上とどうこうなろうと、私は姉上を助けます。後の事は皆さんでお話し下さい」
「っ!?」
「わかった。婚姻と離婚手続きは臨時会議中になると思う………すまない」
「いえ、私ごときに心を痛めていただいてありがとうございます。神聖帝国側が到着しましたら私はそちらに行かせていただきます……マリーをどうかよろしくお願いします」
「マリーの事は皇家が全面的に守ると神に誓う。どうか安心して欲しい」
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません。健介様、明日は食事会を楽しみたいんです。マリーに心配かけたく無いので、いつも通りでお願いします」
「……………わかった」
おやすみの挨拶をして、私は部屋を出て客室に向かった。
「終わったの?」
「はい、添い寝ありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
「…………いえ」
皇后様の温もりが残ったベッドに潜り込み、私はマリーを抱きしめながら、久方ぶりの安らかな眠りについた。




