223話
食事会の昼間は酒の提供は無し。
料理メニューと提供方法の見直しを鈴木さんと料理を担当する方々と打ち合わせ。
前日最終確認の為に鈴木さん宅にお邪魔して話し合いも終わって、さて後は土曜日に備えようとしたら……椿さんから鈴木さん宛に手紙が来た。
『義理兄と養女襲来。兄修羅場。至急援軍要請。王宮図書室まで来たれし』
「んー???」
「私め宛ですが、つばめ様も可能なら御同行する様にとの事ですね。参りましょう」
急いで王宮の図書室に向かい、カウンターで椿さんに呼び出しを受けた事を伝えると、誠一郎さんの案内で地下1階の応接室に通された。
部屋を開けると椿さん、ユリエルさん、啜り泣くジョンさん、何故か健介さんに引っ付いている恐らく女の子。顔が見えない。
「私めは鈴木商会の会長を務めております鈴木と申します。お取り込み中の所申し訳御座いませんが、どなたかご事情をご説明お願いします。まずは皆様お席に御着席下さい。」
推定マリーちゃんは結局健介さんから離れないので、そのまま応接室のソファに座った。
「いい匂い………スーハー…」
「成程。酒の匂いに当てられましたか。恐らく健介様の伴侶のジョン様とお見受け致しますが、何故お泣きに?」
「…おはつで……ひっぐ…ひっぐ……つばめさ…?…」
「ジョン義理兄に代わってわたしが説明しよう」
ユリエルさんが結界を展開させた。
椿さんの仕事中に健介さんが回覧許可証を持って図書室に現れ、王宮図書室でドワーフ族関連の調べ物をしていた。
そこに、急遽現れたのがジョンさんとマリーちゃん。
どうやら、マリーちゃんが健介さんに会いたがっているとの事で急遽『巫女の家系』領地から空路で来たらしい。
しかし、朝まで飲んでいたと言う健介さんから酒の匂いを嗅ぎとったマリーちゃんが引っ付いて離れない。
そんなに匂いがするのかとジョンさんが健介さんをクンカクンカしたら……香水の臭いがすると言って泣き出してしまったと。
臨時会議前に情報収集があるからと管轄地から送り出したのに、「お楽しみ中でしたか」と。うわー…。
流石に図書室のど真ん中でする話じゃ無いので、地下の応接室に場所を移してちゃんと情報収集していたと言う承認にユリエルさんが呼ばれたが「このお綺麗なカミュ様の孫とお楽しみでしたか。仕方ありません」となってしまったと…人選ミスだね。
次郎さんは休みで累さんは居るが、ちょっと心許ないと言う事で呼ばれた鈴木さんと一応顔見知りの私。
「ちょっと商業都市にだな……」
「何となくですが、ご事情はお察ししました。お子さまの前では少々憚れるので、本日はそのままお帰り下さい。明日のお昼から食事会を開催予定して御座います。良ければジョン様とご息女様もお越し下さいませ。ジョン様、色々ご心配だとお思いでしょうが、まずは安心出来る場所でご息女様を落ち着かせるのが優先で御座います。」
「……すみま…せ……ひっぐっ…グズッ…」
「心配事が多くて大変な時期ですが、食事会にドワーフ族が参加される予定で御座います。内情は詳しく存じておいでで無い方ですが、『白虎姫ウルスラ』の旦那様で御座います。良ければ場を儲けてお話し出来る様手配致しますので、ご息女様が落ち着かれましたら相談内容をお二人でお決め下さいませ。どの様な内密なお話しでも結構で御座います。『英雄』ユリエル様の結界で事情が漏れませんので、安心して下さいませ。お二人でお決めになるのが困難な場合は開催予定地の私めの屋敷にいつ何時訪れても構いません。一緒に暮らす孫が『巫女』職を賜っておりますので、食事形態なども問題御座いません。気軽にお越し下さいませ。こちら名刺で御座います。表は総本店住所ですが、裏に屋敷の住所が入っている物ですので、良ければお受け取り下さいませ」
「……ありがとう…ござい……ひっく…」
固唾を飲んでそのやり取りを聞いていると、ジョンさんがおずおずと名刺を受け取った。
「帰りの馬車の手配はお済みで御座いますか?良ければ私めが手配致します。」
「…あ…はい…ズビッ……待たせて有りますので大丈夫です……取り乱して…すいません……」
「私めは子育てを殆ど家内に任せていましたので、ご進言申し上げる資格は無いかもしれませんが…子育てとは幾つになっても、身分問わず大変な物で御座います。食事会は経験者も多く参加されますので、折角の機会ですから色々な方にお話しを伺うのもよろしいかと。獣人族ですが6歳のお子さま2名も参加されますので、交代で遊び相手になる予定で御座います。明日はゆっくりお食事だけでもお楽しみ下さいませ。」
「…本当にありがとうございます……」
「いえ、困った時はお互い様がカイザス国民の合言葉で御座います。歩けますか?僭越ながら馬車までお送りさせて下さいませ。」
「あ……はい……」
そう言うと4人は応接室を出て行った。残されたのはユリエルさんと椿さんと私。
「流石としか言えないな…」
「……全くだ」
「鈴木さんのマシンガントーク凄い」
「マリー殿はドワーフ族だったのか……『巫女の家系』の管轄地から再三に渡って結界維持者要請が出てたので、その為の政略結婚だとばかり思っていた。マリー殿が成人したら『巫女の家系』の誰かと結婚させるんだとばかり…違ったのか」
「………健介は妹にも言って無かったのか」
「兄は寡黙で、色々言う性格じゃありませからね……あの歳ですし、相談事や愚痴なんてわたしは聞いた事が無い。寧ろ悩みなんて無さそうに色々こなす人なので、今回修羅場に遭遇して驚いた位です。すいません、急に呼び出して」
「……力不足で済まない」
「私はオマケで来ただけなんで、鈴木さんのお陰で出る幕もありませんでした」
「いや、きっと『神様』の養女が連れて来た方だから信用されたのもあるんだろう。『聖女の家系』出の義理兄は信仰心が強いからな。ユリエル長官も結界をありがとうございます」
「………ああ、もう解除しよう。呆気に取られて忘れていた」
暫くすると、鈴木さんが帰って来たので馬車までの道のりは大丈夫だったか椿さんが聞いていた。
「つばめ様、置き去りにして申し訳御座いませんでした。3人はとりあえずは大丈夫で御座いますが…ジョン様とマリー様は朝方到着されて、椿様のお家にご滞在すると伺いましたが、ご準備は大丈夫で御座いますか?」
「今は父上と母上が居るので大丈夫だ。家の方は母上が何とかすると思う」
「「………」」
「ご準備とは違う意味で私め心配になって参りました。健介様が明日の食事会にご無事に出席出来る様、近場に居る神様に祈りを捧げとう御座います……あー。今回は肝が冷えましたな」
椿さんのお父さんお母さんって皇帝と皇后だよね。聞かなかった事にしようかな。
鈴木さんは平気そうな顔してたけど、内心ガクブルしてたそうだ…下手したら神聖帝国の政略結婚に亀裂が入りかねないと思っていたらしい。
「先程は色々な方のお名前を勝手に拝借しましたので、明日は私め、常に腰を低くしながら食事会に参加しとう御座います。とりあえず『英雄』様申し訳御座いません。」
「………いや、あれ位なら大丈夫だ。結界が必要なら好きに呼べ」
「御協力感謝申し上げます。」
こうして、準備期間1週間という強行軍にも関わらず、招待者全員+追加参加者の食事会が開催される運びとなった。




