220話
血統結界が解除された懐中時計を受け取って、ユリエルさんは健介さんに話しかけた。
「………メンテナンスをしたい。許可すると言え」
「許可する」
「………どうやって見せて貰おうか後で交渉しようと思っていたが、手間が省けた。楽しみだな…」
懐中時計をカチャカチャ動かしているユリエルさんはニッコニコだが、健介さんは心配そうに見ている。
「……コレか。空いた……次郎は魔道具の使用資格は何処までだったか?」
「某は中級の限定上級だな」
「……じゃぁ、ダメだな。誰か上級持ちはいないか?」
「俺がそうだが?」
「………此方にこい。他はとりあえず見るな。つばめ、呼ばれたら来い」
「嫌です」
私の言葉を無視して、ユリエルさんと健介さんは何やら話し始めた。
他はその間話に耳を傾ける。見たくは無いけど、物凄い気になるよね。
私は空になったツマミの補充……この男子会いつお開きかな?女子会より開始時間早かったのに、もう日付変わりそうだよ。
ブルスケッタは無くなったが、やはり甘い物の方が消費が激しい。
スコーンもジャム2瓶も生クリームも空。
「………お前、この中身見たことあるか?」
「一応な。しかし、魔法陣が古くて誰も読めないんだ。城壁結界用のもそうだ…手が出せないし、腕のいい魔道具技師の多いドワーフ族にも頼めないしな」
「………かなり昔のだな。メンテナンスも相当されて無い。少しここの部分を掘り込みたい………虎は出さないからそんな変な顔するな。流石に酔っ払いの私でも国宝に改良はしない…薄い所を治すだけだ」
「頼むぞ…本当頼むぞ」
ナッツ人気無いので、甘くしてしまおう。
塩キャラメルナッツを制作したら、累さんが飛びついた。
潰したバナナ、バター、牛乳、卵を混ぜてからホットケーキミックスを入れて混ぜ合わせ、カールさんにもらった長方形の耐熱容器にバターを塗って、生地を流し込む。
飾りにスライスしたバナナを生地の上に乗せて、トースターで焼く。
その間に生クリームを混ぜ混ぜして、苺ジャムを入れてピンク色にした。
「また可愛いのが来たわね♪」
「某はもう無理だな」
「私めは大分前に無理で御座います」
2名は既にお腹いっぱいみたいなので、累さんにバナナケーキを切り分けて、ピンク色の生クリームに蜂蜜りんごジャムをトッピングして渡す。
「………美味そうだな」
「おいおいおい、よそ見するな!頼むからちゃんと手元見ろ」
「……あぁ、すまん。つばめ、此方に来い」
ユリエルさんの方に向かうと、ケーキ持って来てくれと頼まれた。ついでに手が塞がっているので食べさせてくれと。
「はい、どうぞ」
「………焼きたて美味いな。ジャムのところも頼む」
「はい」
「う…羨ましい。私めもして欲しいですが胃が……」
「え?何あのイチャイチャ混ざりたいわー」
混ざりたいと呟いた累さんに、酔っ払いユリエルさんにケーキを食べさせるのを交代してもらう。
ユリエルさんのケーキのお皿に塩キャラメルナッツも追加でのせて、健介さんにケーキを取り分ける…塩キャラメルナッツも皿に乗せておこう。
「コレも旨いな。甘塩っぱいナッツと合う」
「………終わった。返す」
「ありがとう」
本日3度目の血統結界を展開させて、ユリエルさんの解析結果を確認した。
「展開のスピードが上がったな」
「……魔力が通りやすくなったからな。ところで、その魔道具は制約で強力になる事はわかったが、ドワーフ族が触れてはいけないとはひと言も読み取れない」
「なんだと???」
「……累、血を垂らしてみろ」
「えー…どうしよっかな?でもちょっと興味あるわ☆とりゃっ」
累さんはどこからかナイフを出して指先を傷つけ、血が滲んだ指をペタッと懐中時計にくっつけた。
「へ?」
「ユリエル、悪戯するなと行っただろう!何してくれてんだ」
「……私では無い。元から組み込んであったんだ。なるほど、複数人混ざった血だとこうなるのか……興味深い」
結界が点滅していて、何故か薔薇模様が浮かび上がっていた。
「あら、中々綺麗ね」
「なんて事してくれたんだ…」
「……改良はしてない。元からあった機能を試しただけだ。私は悪くない」
「頼むから、国宝で実験しないでくれ」
しばらくすると、血統結界の赤い色が無くなったて、白い薔薇模様が浮かび上がっているだけになった。
「由緒正しい血統結界とやらが、いきなり見せ物になった気が致します。」
「某もそう思う。ふざけた機能だな」
「……これが累の血統結界だな。色が付かないんで、模様で効果範囲がわかる用になっている」
「色がつかない?」
「あぁ、じーちゃ……カミュが言っていたが、昔の簡易結界には属性の色を判別して色を着けて使っていた時期があると言っていた。外の様子が見えづらいので、流行りは直ぐに廃れたと言うが。今は密談で使用してるが、普通は城壁外の魔物対策に使う物だからな。血統結界と呼ばれているが、どちらかと言うと『属性判別結界』と言った方がしっくり来るな。魔力量では無く、無色に近いほど威力が増す様に作られているので、あながち血統とも言え無くはないが…他の懐中時計型魔道具も見てみたいな。今調べたのだと、恐らく模様が浮き出る所が劣化が激しいので、無色に近い者も模様が浮き出て来ないんだろう。お前より結界の色が薄い者はいないのか?」
「よく喋るな…俺より薄いとなると、最高司祭様か俺の親父だな。後は最高司祭様の娘だが『無色の家系』の能力は男にしか出ないだろう」
「いや、調べられるなら調べてみたらどうだ?ドワーフ族との間に子どもが出来る位だから可能性はあるだろう。よっぽど相性がいいのかもしれないが、娘の方が約250歳で王が約120歳だったな。かなり魔力差がある。累ほどハッキリ模様が出るかは分からないがな。で、他の懐中時計は手に入るか?」
とりあえず自分じゃどうこう出来ないので、父親に手紙を出して見ると言われた。
「もう、いっその事直接報告しに行った方がいいか…」(遠い眼差し)
ー
累とユリエルとケーキ
累「はい、あーん♪」
ユリエル 眉間にシワ
累「あーん♪」
ユリエル「……生クリームをもっとだ」
累(猛獣にご飯あげるのってこんな気分なのかしら?冗談で言ったのに、つばめさん酷いわ。頼むから早く帰って来て)
つばめ「塩キャラメルナッツもどうぞ」
累「あら、ありがとう☆はい、あーん」
ユリエル「…カリコリ………うまい」
累(懐かない猛獣の餌付けに成功するのってこんな気分なのかしら?)
気持ちほんのちょっとだけ、普段怖い上司を可愛く感じる累であった。なお、本当にちょっとだったので、二度とやりたく無い模様。




