203話
お昼のチャイムが鳴ったので、手元の本を閉じてさて帰ろうかなと思ったら、椿さんに「兄が男子会に出るからよろしく頼む」と言われた。ユリエルさんの出席許可が出たらしい。よかったね椿さん。
馬車乗り場に到着すると、鈴木さんが待機していた。
「お帰りなさいませ。お早いお帰り、嬉しく思います。」
「よろしくお願いします」
「つばめ様、お詫びと言っては何で御座いますが、これから私めとデートなどいかがで御座いましょうか?」
「すみません……これから注文した物を取りに行かないといけなくて」
「………」
すっっっごい悲しみに溢れた表情をされた…あ、いやコレはプチボイコットとかじゃ無くて本当に用事が………。
「鈴木さん」
「はい、何で御座いましょうつばめ様?」
「お買い物付き合って下さい。お昼も一緒に私の奢りでどうですか?」
「奢りで御座いますか?私めのポリシーに反します」
「では、ココでお別れしましょう。私は歩いてひとりで買い物して、ひとりで外食して来ます」
「…………お手をどうぞ、マイレディ」
鈴木さんに手を差し出されて、御者台の席に着席。こうして私のプチボイコットは終了。
短かったね…慣れない事はするもんじゃ無いとシミジミ思った。
ちょっとは反省してくれたかな?皐月先生の話しだと、鈴木さん身体が丈夫で無茶しがちだから、同じ様な事があったらまた命懸けで仕出かすだろうって女子会の時に言われてたんだよね。
『私が言っても聞かないのよ。つばめさんお仕置きしてくれないかしら?』
『鈴木さんにお仕置きって…お尻ペンペンでもすれば良いですか?』
『ふふふ…それじゃ逆に喜んじゃうわよ〜。シカトよシカト。それが愚息には1番堪えるわ』
ちょっと酔ってたなあの時。鈴木さんのお尻をペンペンするとか無いわ。いや、でも囮になった私が言えた事じゃ無いけど…私の所為で鈴木さんがこの先も怪我とか死んじゃうとか無理だ。
品物を取りに行く前にお昼ごはんにしようと言う事で、気になっていたご飯屋さんに行く事になった。
店名を言っただけで場所の詳細も説明もしてないのに『畏まりました』と言われて、流石鈴木さんと思いました。
馬車乗り場に馬車を置いて来ると言われたが、駐車場がどんな感じか気になっていたので一緒に行かせて貰った。
「大通り沿いの店は基本、馬車置き場は用意されて御座います。他の通りは時間貸しのパーキングの場合が多いかと思われますが、分からなければ店の者に伺えば大抵はなんとかなります。此方の『精進料理 西河』の場合ですと、一本通りの入った店の裏手で御座いますね」
大きな屋根付きの駐車場に馬車を停めると、馬を馬車から離してそのまま馬は水を飲みに行った。
どうやら馬車を引く馬はお利口さんらしく、駐車場に滞在中は好きに過ごすらしい。
この建物を管理している人も見守りしているので何かあれば対応してくれるらしいよ。
この駐車場は鈴木商会が年間契約をしているとの事で、管理人に挨拶をしてからその場を後にした。
つばめの昼ごはん
ごはん
鮭の塩麹焼き
野菜の煮物
ほうれん草の胡麻和え
きゅうりの梅肉和え
ナスの浅漬け
豆腐とナメコの味噌汁
緑茶
梅干しと豆腐を発見したので注文してみた。うん、ちゃんと私が思ってたブツで間違いない。豆腐とナメコの味噌汁うまうま。
店員さんに豆腐は何処で売ってるのかと、梅酒無いか聞いてみた。
豆腐は自家製らしい…自家製かぁ……更に問題は梅酒の方。
「こちらのカイザス国では梅酒の取り扱いがご座いませんので、神聖帝国の方にお取り寄せになるかと………無事に届くかもわかりませんが…」
見積もりを出して貰ったら、品物代より輸送費が遥かに高かった……どれくらいに届くのかもちょっと今すぐには分からないらしい。対応してくれた店員さんはチラッと鈴木さんの方を見た。
「個人注文ですと1年〜最長で5年で御座いますつばめ様。シロップなら御座いますが、アルコールの入った物は申し訳御座いませんがお取り寄せと言うかたちになります。」
どうやらこの『精進料理 西河』は鈴木商会系列だった。おぉう………。
カウンター席や普通のテーブル席もあったのに、いきなり個室に通されたのは会長(鈴木さん)が居たからだったのね。ちなみに看板に星3つのお店です。
ちょっとドキドキしながら入店したよ。ランチはリーズナブルだが、夜は基本コース料理らしい。ユリエルさんに教えてあげよう…きっと、ここの肉使わない料理好きだと思うんだ。
「一応お取り寄せお願いします。自分でも作ってみますが…木を植えてもらう所から始めます…ははは…」
酒屋さんで梅酒は無いと聞いて、朝市の野菜や果物を取り扱っているお店で梅の実が無いか聞いて回ったら、扱って無いと言われた。
もし欲しいなら植えるけど、その場合半年〜1年先に実を収穫して、その先数年は定期的に梅の実を買って貰わないといけないと言われた。うん、頑張ろう。家の中が梅酒だらけになりそう。
「此方の店で独占契約している梅の木がございますので、よければ実だけお売りしても良いですか会長?」
「ああ、宜しく頼む」
「!」
幾つか取り決めをして、契約書にサイン。
梅の実を使った商品販売はNG。あくまで個人消費で家族や知人なら料理や加工品を振舞ってもいいが、その際は自己責任。
食中毒や体調が悪くなっても鈴木商会は責任を問われないと言う内容だった。
「料理免許をお持ちですのでご存知かと思いますが、完熟前にそのまま食べては体に毒です。高級品の自然光栽培ですので、使う際は良く洗ってからお使い下さい」
「わかりました、気をつけます」
梅の実は収穫出来次第…促進剤を使って、青梅の状態で持って来てくれるらしい。
美味しい梅酒が出来るか分からないので、念のため神聖帝国からも梅酒を取り寄せて貰う事にした。1本だけは取り寄せ出来ないので、1ケース単位からになる。
梅酒は日本酒ベースのもので、結構バリエーションがある……ノーマル、梅の実入り、蜂蜜プラスetc…悩んだので、色んな酒類の物をお任せで3ケース分お願いした。どうせならとカイザス国で扱って無いオススメの日本酒も2ケース。合計5ケース。店員さん商売上手だね!私が口車に乗せられたとも言う。
こちらも契約書が必要で、輸送の際に破損や紛失…主に魔物に襲われて商品がダメになった際でも輸送費と商品代金、手数料等の支払い義務が発生。
新たな大まかな見積もりと、それを元に3倍の額を前金で支払った。残りの金額は商品が届き次第返金される。
尚、酒類の転売は不可。そもそも、免許が無いとカイザス国では酒は売れない。
やっててよかった聖書レプリカ翻訳。梅酒がこんなに大変だと思わなかったよコンスタンティンさん。
ご好意で豆腐は事前に言ってくれれば個人的に販売してくれる事に。その際は梅の実と同じ扱いで、あくまでも個人消費目的。
美味しい食事も食べ終わり、支払いを済ませてお店を後にした。
馬車はそのまま停めたままにして、歩いて職人街に向かう。お弁当箱の受け取りの為だ。3件回って商品を受け取ると、鈴木さんがボソッと呟いた。
「つばめ様、御自宅用の物は間に合いませんでしたが、店舗用の調理器具は私めにお任せ下さいね。約束で御座いますよ」
「でも、鈴木さんが謹慎中だったのもいけないんですよ?」
「次は私めにお任せ下さいね?」
「ハイ」
笑顔だが、何だか目が笑っていない鈴木さんにビビった私の返事はイエスとしか言えなかった。
その後、馬車乗り場に戻り荷物を積んでからガラス屋さんで梅酒を入れる蓋付きの特大瓶と大瓶を幾つか購入。
梅の実自体は2〜3日中に届くとの事で、先に物品の準備からしてしまう。
お次は酒屋さんに向かう事にしたーー。




