195話
「本当にこの店に入るんですか?」
「……あぁ」
魔道具店で1部屋用のエアコンを購入し、ユリエルさんが搬入も設置もしてくれると言う事でお願いした。お金は賃貸主の私がちゃんと払ったよ。
そして、やって来たのは北表通りの魔道具店とは反対側の通り。私は店の前しか通過した事は無い………何せ店構えがやたら高級そうなんだもんこの通り。
店内に入店すると、早速店員さんに声をかけられて中の小部屋に通された。
私場違い感が凄い。何せ、ビロード張りのソファは何処までも沈みゆくお尻に、目の前のガラス板?の天板付きのテーブルの上には頼んで無いのに紅茶と焼き菓子が出て来た。
ユリエルさんが普段使っている品物があるから買いに行く、と言うのでノコノコ来たのが間違いだったね。
「いつもご利用頂きまして、ありがとう御座います。店舗にお越し下さるのは初めてで御座いますが、いつもの品々を御入用でしょうか?」
「……あぁ、それと幾つかを直接見て購入したい」
「畏まりました。此方で御用意致しますのと、実際壁沿いの商品を御覧になるのと御好きな様に御過ごし下さい。」
「……あぁ」
ユリエルさんは返事だけして、席を立ったので私も付いて行く。
壁沿いには等間隔に並んだ商品が、まるで美術品の様に並んでいた。
「化粧水?シャンプー…ボディクリーム……ん?」
「……使わなくても私は余り問題無いと思うのだが、肌や髪の手入れを怠ると家の者が五月蝿い」
まるで香水瓶みたいなキラキラした見た目のボトルに入った品々は飾って置くだけでも部屋の女子力上がりそうだ。
そして、見覚えのあるボトルを発見。
「………つばめの家にもあったが、俺と使っているシリーズが違ったな。あれも中々良かった」
「おぉう…皐月先生こんなにいい物くれてたのね……」(涙目)
エメラルドシリーズでまとめて置かれてたのは家で使っているシャンプー、トリートメント、ボディーソープ、洗顔料、保湿液、ボディクリーム。
ユリエルさんが使っているのは更に顔用の化粧水、乳液、保湿クリームにクレンジングやマッサージ用のオイル、洗い流さないトリートメントなどなどが付いてるロイヤルシリーズだったよ。
そっか、プラスチック製品って魔物素材だからこの世界ではガラスより高かったね…普通に可愛いボトルのシャンプーだと思って使ってました。
ユリエルさんは商品を実際手に取ったり店員さんの説明を受けていたりしていた。私はソーっとその場を離れて他の商品を見て回る。気分は最早ボトルや入れ物の美術品鑑賞。あ、男性用もある………おやおや?
「獣人族兼用?」
「其方、数に限りが御座いますので御購入の際はお早めにがオススメです」
「ひゃぁっ!?」
いきなり声を掛けられてびっくりしたが、新たに店員さんが現れた様だ。おぉ…こ、こんにちは。ハジメマシテもふみの強い方。
私が熱心に商品を見ていたので説明ご入り用ですか?と言われた…はい、お願いします。素敵なフサフサ尻尾と立派な三角お耳をお持ちのお狐様。最高な尻尾具合である。
私は商品説明をお狐様に聞いた……結果。
「………もう買ったのか?」
「物欲に逆らえませんでした」
何やら好みの香りやら試し塗りの試供やらしていたユリエルさんの隣に座った。紅茶頂きます……うん、よく分からないけど美味しい。
私の目の前にはお高そうな紙袋が2つ。既に会計も済ませたと言ったら、呆れ顔を向けられた。
「………少し待て、もう終わらせる」
「ゆっくりで大丈夫です。私はこれ以上見て回ると買いたい物増えちゃいそうなんで大人しくしてます」
「………わかった」
席を立ったユリエルさんが店員さんとまた壁際の商品を見に行った。
そして私には、手に何かを持った笑顔のお狐様が近づいて来た…ダメ!それはダメお狐様!?さっき高いって言ってーーー。
「………つばめ、何故紙袋が増えてるんだ?」
「モフモフに逆らえませんでした」
私の目の前には中くらいの紙袋2つが増えていた。あの壁際で揺れてる素敵なフサフサ尻尾の所為だとだけ言っておく。
ユリエルさんは結局、顔はいつもの基礎化粧品を使うが、身体は入浴剤で髪はトリートメントの保湿が高い物にして手抜きする手段に出たらしい。お会計を済ませて…。
「……隣の店に行くぞ」
「あ、はい」
こうして私は、ユリエルさんの高級品店巡りにご一緒したのだった。凄い楽しかった。
「………何故つばめの方が荷物が多いんだ?」
「おかしいなぁ…自分の分はお茶しか買って無いんですけどね」
「………そうか」
流石に洋服などはエルフ族大使館から取り寄せてもらうとの事で、今日の夜に届くそうだ。現在はミニキッチンに置く鍋とか見に来ている…昨日も来たのに可笑しいな?
「それにしては、買った物多くありませんか?テスターだけの為に散財し過ぎじゃ…」
「……あぁ、出て行く気でいるからな」
「え?本気ですか?」
ユリエルさん、エルフ族大使館出て行くってよ。カールさんどうするのかな?




