190.5 世界の人々4
今回も大分遅れてエデン代表の神聖帝国は参加辞退の書状等を携えて、『皇家』の本家筋の者が来訪した。書状等を持って来た者に世界会議の議事録と、サミュエル・カミュ対策本部の情報を持たせて欲しいそうだ。
どうやら、開催国変更の為では無く、元々出席見送りの予定だった様。
「エデンでゴブリンのスタンピードだと?」
「はい、其れに伴い現在エデンでは安全の為に入国制限を行っています。神聖帝国は貿易している港には既に手配済みですが、かなり被害が大きくなると予想されるので、当面は近づかない様にして下さい。次回世界会議はまた書状での参加か、最悪それ自体も難しいと思います。事態が終息するまでは会議に出席出来ないと思って下さい」
結局、エデンは皇家の本家筋『聖女の家系』の者が代理で世界会議に出席。
本人は「世界会議に出席?書状持って来た只の使いっ走りですから。勘弁して下さい」と、言っていたが強制参加。すいませんね…質問もしたいしご臨席願います。
最近この様な公の場は出ていないから慣れてないと言うので、隣の席の代表者が固唾を飲んで見守って居るのが、緊迫したエデンの状況を忘れてしまう程微笑ましい。
ついでにユリエルと言うエルフ族がエデンのカイザス国に戸籍を取得した旨と、経緯を説明してくれた。
ベスティア国の入国審査用の島からベスティア国本国に入国。
審査時に資格保持者では無い為に大量の凶悪な性能の魔道具や毒をかなり没収されて、ベスティア国の陸路を徒歩で移動。規格外のマジックバッグも一時預かり。
命知らずの熱狂的な『カミュ信者』に接触され『カミュ本』にサインを求めた所、何故か本を読破した後に『サミュエル・カミュ』と書いて…まさか本人?とエデン内を混乱に陥れ、大本命と思われたハイルング国を素通り。
神聖帝国の飛び地『巫女の家系』の領土に暫く滞在。
「入国審査時の目的欄には『観光』と書かれていた見たいですが…ちょっと良く分かりませんでし。精進料理を好んで食したと担当の『巫女の家系』から上がっています。神殿の見学と食事意外は特に目立った動きは無かった様です」
その後、カイザス国に入国。
政府機関建物の門前から『神様』と接触した模様。受付を通って中に入った後は詳細は不明。
「『我が君』の機嫌が悪いのか、ユリエル殿がエデンに到着してから禍々しい魔力を垂れ流しで、信者達が大勢政府機関建物に入れない状況だったとか…詳細は不明です。受付の信者によると『我が君』発行の通行許可証を携えてご一緒に建物内に消えたとか。その後建物内でユリエル殿の目撃情報が無いことから、恐らく『我が君』の寝所に招かれたのでしょう」
「???もしかして………まさか『最高司祭』様じゃ無いよな?」
「はい。一応」
「フぁおあぁぁぁっ!!!」
先程固唾を呑んで見守っていた隣の席の人が思わずと言った感じでつぶやいた後『最高司祭』本人だと知って奇声を発しって土下座を始めた。他にも多数後に続く。
大地神教の神様を『我が君』とお呼び出来るのは極限られた者しか許されない。
大地神教は宗教で言うと信者数世界一だ…そのトップに君臨する『最高司祭』が目の前に。震えた。鳥肌がおさまらない。手紙配達する様な御人ではないだろう。
「いえ、此方こそ本当すいません。国政には長らく携わってませんので、本当はこの様な会議に出席出来る立場では無いのですが…分相応で申し訳ない」
「エデンのスタンピードはそんなに酷いのですか?」
「恐らく。書状では余り情報が書いてありませんが、私が国を出る時の情報ですと、北のフォーゼライド国の王都と南のハイルング国が発生源と思われるので、今頃爆発的にゴブリンが増えているでしょう。特にハイルング国は予想だと壊滅状態かと……。本当は『我が君』のお側にいたかったですが、皇家と本家の両方に攻防を裂く余裕がありませんで、神聖なジャンケンで負けた私が此方に伺いました……許すまじ皇家」
いや、危機的状況の筈なんだけど最高司祭の言動の所為で色々残念な感じの報告になった。ついでにまだ隣の席の人達は土下座中なので絵面も酷い。
結局エデンのスタンピードはこれ以上状況が分からないと言う事でユリエルの報告に戻った。
大地神教者とカミュ信者の独自の情報網で入手した情報によると、ユリエルはサミュエル・カミュのカイザス国籍の異母兄カール殿下の養子に入り、カイザス国に戸籍を取得したらしい。
因みにサミュエル・カミュの孫だと判明。
学園都市にある高等学校に入って基礎学科とは別に語学や魔道具類、軍関係の授業や資格取得後、カイザス国軍に入隊。
現在はゴブリンのスタンピード戦に参加して居ると思われる。
「最前線でしょうね。学園で『中級魔道具使用資格(限定上級)』を取得した様で、現在スタンピード中ですので『上級』の限定解除がされていると思われます」
「援軍要請は出されないのですか?」
「はい。私の憶測ばかりで申し訳ありませんが、複数の外部犯による人為的なスタンピードだと思われますので、援軍要請を出して追加の敵が紛れ込む可能性を下げて居るんだと思います」
エデンから援軍要請が出たら各国喜んで協力する所だが…何とも歯痒い。
最高司祭によるエデンとユリエルの情報提供が終わった所でサミュエル・カミュ対策本部から最新情報が寄せられた。
『四天王』竜人種が開催予定地だった『人国』を素通りし、世界会議の開催地の変更を知らせようと竜騎士が接近した所逃げて行き、世界樹の国に入ったそうだ。ここまでは開催前に知らされていたが、続報が入った。
何でも、『四天王』魔族竜人種が世界樹の国から出て来たが、恐らく進路がエデン方面では無いかと言う事だ…謎。ネスト大陸に行くにしては北寄りだし、真っ直ぐ魔大陸に行くにしては進路が逆だからおかしい。
いつもの様に佐藤家に寄るのかと思えば違う。そして、いつもより飛び方がゆっくりだったとか…うん、よくわからん。
「もしかして、魔族の新種では?」
「あぁ、前々回に話しに出てた…しかし、姿形が『四天王』と一緒では何とも対応しづらい…一応竜騎士に交代で後を追わせてみましょう」
「では、『人国』で生き残ったサミュエル・カミュの友人の子孫のドワーフ族についてーーーー」
「『ファイ』殿の国に間者を送るか多数決をーーー」
その他幾つかの議題と世界地図書き換えの為に国境線の見直し等や、最後に毎回議題に上がる『自称お茶屋』の動向の報告を聞く。
「一族の適齢期の男女が嫁や婿を探しているそうです。何でも相手は高魔力保持者で種族は問わないとか…」
「サミュエル・カミュが亡くなって、佐藤家の次代は人族を辞める気になったか」
「そろそろ人族かも危うくなって来たので、エデンの専門機関に人族『佐藤種』とでも名付ける様要請する所でしたよ」
「では、次回開催地のくじ引きを…」
こうして、今回の世界会議は多少の遅れはあるものの、予備日も使って無事に閉会した。暫くすると、サミュエル・カミュ対策本部も解散され束の間の平和は終了。
国境線の書き換えが1国分で済んだのは後にも先にも、この世界会議だけだったと後の記録に残っている。
ヴァニア大陸を始めとした国々は、また戦乱の最中に戻る事となった。
ー約100年後ー
ある知らせを受けて、世界の各国に緊急招集がかかった。
「『次元の裂け目』だと?」
「はい、観測した『世界樹の国』が各国に警戒を強める様にと警告を出しています」
「一体何が起こっているんだ…」
後の記録に世界会議では初めて『国境線書き換え0(ゼロ)』となる異例の事態を引き起こした出来事は、世界中を激震させ、束の間の平和と数多の混乱を同時に運んできた。
それはまた、別のお話ーーー。
ー
神の日記
ユリエル「暗黒竜の所に人族を連れて行ったのか?正気か?」
神「うん、サミュエルに気に入られた可哀想なヤツだったね。『お茶屋』毎回連れ回されてるけど、何故か毎回死なないんだよ?なんで生きてるのが謎だよね。謎過ぎて1回身体調べさせてもらったけど、ちゃんと人族だったから益々不思議」
ユリエル「………」(憐れみの目)
ー
長々と閑話失礼しました。
次回から本編に戻ります。




