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178.5 名無し7



 この場にいる子飼いは何とか捕獲した。2人逃げたが、そちらはミアちゃんと桜子にハル君がウルスラ隊長命令で追っかけて行った。



 問題は父親。ウルスラ隊長と私で何とか対処しているが、全く歯が立たないわ。

 ウェルエル君は気絶した子飼いを縄でぐるぐる巻きにしてくれてる。作業の合間に父親のナイフが飛んで行くものだから中々進まない。




「………まだ終わって無いのか」




 どがぁんっ




 どがぁんっ




「がはっ!!?」



 あっっっぶな!私の鼻スレスレに何かが通り過ぎた………見ると木が何本かと地面が抉れて当たり一面水浸し。ついでに父親が泥だらけになりながら地面に転がっていた。



 ユリエル長官がその父親を足蹴にしながら、腰に下げた懐中時計を手に持ち、父親めがけて『水球』を連続でぶっ放し………いやいやいや、死んじゃうでしょそれは!!!



 ドカン


「ぐっ!」




 ドカン


「っ!!」




 ドカン


「………っ」




 ドカン


「…………」




 『水球』の発射が終わったと思ったら鞭?みたいな物が巻き付いて瀕死の父親を拘束していた。しかも、ついでとばかりに口に何か流し込まれているけど……息してるかしら?




「………これくらいじゃ死なん。良く眠れる薬を飲ませたが、念のため見張っていろ」




「あ、はい」




「……ウルスラ殿、救援信号が上がっている…あちらに行ってくれ。この場は見て置くが連絡係にウェルエルを残せ」




「よろしくお願いします」




 ウルスラ隊長は全身獣化してから黄色い煙がモクモク上がっている方に駆けて行った。



 その後、縄で縛り終わった子飼いと父親共々私も一緒にユリエル長官の結界内に放り込まれたわ。もっと丁寧に扱って欲しいわ。



 どうやら此方からは外が見えるけど、アチラからは見えないのね…馬車から出て来たつばめさんには見向きもされずに、暫くするとウェルエル君と何処かに行ってしまった。

 皐月先生と鈴木さんも後から来た馬車に乗り込んで敷地内から出て行ってしまったわね。



 入れ違いでウルスラ隊長が戻ってきて、逃げ出した子飼い2人は捕まえたとの事。


 結界を解除して、鈴木さんが運転していた馬車の中身をユリエル長官とウルスラ隊長が調べて怪しいナイフを採取。

 その場に拘束された子飼いと父親を馬車に詰め込み…あ、私もね。はいはい。







 馬車に揺られる事暫く、子飼いと馬車とナイフは軍に引き渡したが、父親は此方で引き取る羽目に。




「………軍の牢に入れても多分逃げられる。このままコンスタンティン様の所に連れて行くがいいだろうか?事情聴取は後日になるが…」




「はい、此方で書類の処理はしておきます。よろしくお願いします」




 ウルスラ隊長とは分かれて、歩いてコンスタンティン様の居住区に向かうが…若干周りの視線が痛かったわ。

 主に視線はユリエル長官と担がれた父親に注がれていたので、私は少し距離を置いて着いて行った。




 コンスタンティン様の居住区前に行くと内側からドアが開いて、カール様が部屋の中に招き入れてくれた。




「ユリエル、降ろすならお風呂場にして下さい」




「………だろうな」




 泥んこだものね。コンスタンティン様も合流して、お風呂場と言うには広すぎる洗い場に父親は降ろされた。



 拘束を解いて、何か隠し持っていないか確認の為に洋服を引っぺがすと胸に変な物がハマって?埋まって?何よこれ?アクセサリーにしては悪趣味だわ。




「あー…なるほど?そう来たか」




「………」



「………これは…」




「何ですかこの……胸にある、変な模様入った魔石は?」




「『隷属の魔石』だよ。君の父親は誰かの操り人形だったみたい。コレは無理に剥がすと爆発するし、命令されてたら何も喋らないよ?」



 『隷属の魔石』。自分の意思とは関係なく、主人と定まった者の言いなりで命令を遂行してしまう物らしいわ。最悪なのは自我はあるが命令には逆らえず、自死も選べないので他大陸では『奴隷』に使う事もあるみたいね。



「魔石に刻まれた文字によると主人は君の家系の『当主』だね。無駄かもしれないけど、とりあえず綺麗にして起きるまで待とうか?」




 全身洗って洋服を着せ、髪を乾かしリビングに移動して再度拘束。父親の素顔はじめて見たかも。

 こんなイケメンだったのね。私に全然似てないんだけど何で?何で特徴無い方の母親に何で似たのよワ・タ・シ。


 暫く目を覚さないと言うのでユリエル長官と私も交代で風呂を借りた。

 私が後から出てリビングに戻ると、既に父親は拘束を解かれて目を覚ましていた。何ならお茶まで出されているわ。寛ぐなよ父親よ。

 



「何か分かりました?」




「『遊びに来て下さい』だって」




「『遊びに来て下さい』???何処に?もしかして王様の所ですか?」




「いや、私は王様とやらには既に会ってるんだ。だから違う人だね。ちょっと父親と話してみてくれないかな?」




「何か私に言う事あるかしら?」




「…………」




「だんまりか。困ったね?どうしよっかなー…とりあえずこのままでいっか。危害も加えないみたいだし」




「……馬鹿言うな。犯罪者だぞ?」




「大分前から『隷属の魔石』が埋め込まれてるみたいだから多分減刑だよ?もう嫌だ面倒臭いかーー」


「『神様、遊びに来て下さい』」



「面倒くーー」



「『神様』」




「めんどーー」



「『神様』」




「………」



「………」




「やだよ?」



「『神様、メガネです』」




「だから嫌だってば。行かないよ?」



「『代わりにコレをお側にはべらせ下さい』………よろしく頼む。我が君」




 こうして、私の父親はコンスタンティン様の下僕となった。まぁ、余り長くは続かなかったけれどね。





 私の本名は累・カイザス。

 魔力の色が透明に近い事から『無色の家系』と呼ばれ、本家本元総本山の『聖女の家系』を差し置いて魔力差問わず交配可能だった『大地神教祖』の能力を引き継いだ唯一の血筋。

 因みに父親は『無色の家系』の内部抗争を無事生き抜いた年齢不詳。しかも『隷属の魔石』を約300年胸に付けたままでだ…神様お墨付きの化け物だわ。


 現在の私は第7長官室付きの新人文官。


 こんな経歴濃い私の存在が薄まる位怖い上司達に囲まれて、今日も何とか生きている。




第7文官長室の累的にヤバイ上司達


上司その1

神様に「化け物」と言われた父親を秒で捕獲出来る戦闘民族。


上司その2

巫女の家系の『当代巫女』。更に曽祖母は『魔女』。敵に回したくない家系。特に『鬼の商人』と呼ばれる祖父。


臨時上司その3

もはや次元が違う異世界人。


大元の上司

崇めてた神様。父親の飼い主。噛みつきたいけど、怖くて結局は甘噛みすら出来ない存在。



上司その4

ジジイ。他の上司怖いので、私の心の平穏の為になるべく長生きして働いてて欲しい。本人には絶対言わない。





???

コンスタンティン様に紹介された時点で嫌な予感した。目がヤバい。絶対逆らわない。無理。



 

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