178.5 名無し6
父親捕獲作戦決行日、私はつばめさんの住居に侵入する旨を伝えた……予想よりかなり嫌われてる感をヒシヒシと感じ取るけど、しょうがないわね。それだけの事をしてしまったんですもの。私泣きそう。
「つばめさんの家に昔の同僚達を引き連れて行くけど、私が家に入るのは許してくれるかしら?大丈夫なら握手してね。元同僚の侵入は許さなくていいわ」
「はい…」
正直に言えば父親本人が出てくる可能性は低いけれど、根回ししたから子飼いが何人かは釣れると思うのよね。届くかはわからないけれど、子飼い経由で父親宛に手紙も書いた。
ー夜ー
思ったよりも釣れた…そしてまさかの父親も登場。こんなにあっさり現れるなんて思っても見なかったので、ちょっと拍子抜けしたわ。
「『我が君』を裏切るのか?」
「裏切るも何も、始めからあんな怖い神様の味方になる訳無いじゃない。さぁ、開けるわよ」
ガチャ
元同僚が結界の発動を魔道具で阻害し、私はつばめさんの住居のドアを開けた。元同僚達が部屋に流れ込んで入って行ったので、私も早速お邪魔するわね。
と思ったら悲鳴が聞こえて、廊下に数人突っ伏していた…えぇー?あ、侵入者用の罠か。しかもかなりエグいわ。
何て悠長に思ってたら、禍々しい威圧感を感じて私は玄関先で立っていられなくなった。な…ななな何っ!?
「ぐぁっ…」
冷や汗が止まらず暫く動けないでいると、廊下で罠にハマっている者たち以外は逃げ出してしまった。
どう言う事?
とりあえず、つばめさんの家の隣に住んでるウェルエル君を呼んでから罠にハマった元同僚を任せて、私はコンスタンティン様に指示を仰ぎに行った。
「おかしい…入れないわ。どうしようかしら…」
いつもの部屋の前まで来た筈なのに、肝心の扉が開かない。仕方がないのでユリエル長官に会いに第7長官室に向かった。
そこであの扉はコンスタンティン様が居住区に居ないと開かないし、そもそも内側から開いた所しか見たこと無いと知った。もっと早く言って欲しかったわ。
そして、あの禍々しい威圧感はコンスタンティン様の魔力だと判明……何があったの?
ユリエル長官が帰ると言うので、結局私はコンスタンティン様の居住区の扉にもたれつつ仮眠を取りながら待つ事に。
朝方、内側から扉が空いてコンスタンティン様にテラスに案内されたわね。おはようございます。
何だか、コンスタンティン様はまだピリピリ感が漂ってる気がするわ。控えめに言わなくても普通に怖い。
「何かあったんですか?」
「つばめが行方不明になって、危うく魔王に拐かされる所だったんだ。一瞬感情制御が上手く行かなくて魔力垂れ流しにしちゃったよね…タイミング的に取り逃しちゃったかな?」
……………魔王って存在するのね。いや、居るのは知ってるのよ。でも、面と向かって言われると本当に存在するんだと実感。
色々ツッコミたい事はあるんだけれど、とりあえず予備のプランを組み込んで細かな作戦を練り直し、再度今夜エルフ族大使館まで誘き出して、それがダメならいよいよ鈴木さんに頑張って貰う事になった。
今回は軍のウルスラ隊長の部隊も借り受けて、それがダメなら父親の捜索にユリエル長官にも参加して貰うらしい。
「はじめからユリエル長官の力を借りてはダメなんですか?」
「アレが出て来たと悟られたら流石に逃げちゃうでしょ?正直、ユリエルが居るエルフ族大使館に来るかも怪しいけどね」
コンスタンティン様の言葉通り、子飼いは大量に捕獲出来たが父親本人と数名はその夜現れなかった。
ー次の日ー
エルフ族大使館から鈴木さんの乗った馬車が出発して暫くすると、御者台に恐らく身のこなしから言って父親?自ら飛び乗ったのを確認。
随分大回りしてからある屋敷の敷地内に入り、鈴木さんの腕にナイフを突き立てたのを確認してから、一緒に行動していたウルスラ隊長とウェルエル君、ハル君、ミアちゃんと…見知った顔。
「貴女、子飼い達の所に居ないと思ったらコッチ側にいたのね」
「それはあたくしの台詞ですわ。仕方ないですのよ先輩?…神様に睨まれたらか弱いあたくしなんて一溜まりもなくってよっ!」
そう言いながら自分よりも頭ひとつ分デカい男の腕を捻り上げている『桜子』に、か弱いの定義を1回ちゃんと聞いてみたいわ。
でも、神様に睨まれたら一溜まりも無いのは全力で同意するわね。何せ睨まれただけで心臓が止まりそうになったもの。