178.5 名無し5
鈴木は激怒した。
コンスタンティン様に接触してから父親は行方知れずで影も形も無い。あの人が本気で隠れたら見つけられないわ…私より変装も上手なのよ。
正直父親は何がしたいのかよくわからない。王様は捕まったけれど、王妃様やその子どもに接触するそぶりも無いわね。
けれど、つばめさんを警戒しているのは分かるわ。あの監視の魔道具の設置を指示したのは父親だと思う。もはやそれも勘だけれどね。
設置したメイドが父親の手先だったのは怪しすぎるし。問いただしても、父親の居場所までは知らないと言う末端の人員なのが抜かりないわよね…はぁ〜……何処に行ったのかしら?
私の能力は協力者がいないと出来ない事もあったので、父親の子飼いと組まされる事も多かったのよ。
しかし、警戒しているのはわかるけれど肝心の理由が分からないわ。
普通に調べてもダメ、つばめさんを囮に餌をブラつかせてもダメ、終いには囮が王宮から出て行ってしまった。違うものが大量に釣れただけだったわ。
もうダメかも…と思ったら意外な所から天の助けは現れた。素敵なオジ様鈴木さんよ。
ある時鈴木さんがつばめさんの生活状況をコンスタンティン様に報告して来た。休みが無くて可哀想過ぎると言う内容。
「私め、折角ご自宅近くに色々と店を手配致しましたのに…もう、いい加減つばめ様を早急に休ませて下さいませ。ついでに孫ももう限界で御座います…頼むから休ませてやって下さいませ。」
「わかった。手配しとくね?」
また後日。鈴木さんから話しがあると言う事で、コンスタンティン様の居住区に関係者のコンスタンティン様、カール様、ユリエル長官、ロジャー副長、名前は上がらなかったけれどついでに私も出席。
「揃いも揃って大の大人がこんなに居るのに、一体全体何をしてるんだっ!!つばめ様は買い物も行けずにストレスも溜まる一方で、心の休まる暇も無い…正直貴方達には幻滅した。あれ程休みを与えてくれと言ったのに何してるんだっ!」
「だからお店とか詳しい鈴木を付けたんでしょ?」
「折角引越ししたのに、碌な休みも無ければいつ買い物に行くと言うのだ!結局休みがあった日の前日は貴方の呼び出しで帰るのも遅くなって朝方まで寝れなかったそうじゃないか…これだから長寿種は気が長すぎて嫌になる。貴方も引き取ったなら『大人だから』と線引きせずにキチンと面倒みろ。見守ると言う名の放置だろうがっ!!恥ずかしく無いのか!」
「あー…うん?ユリエルどう言う事?」
「………言った筈だ。奏が仕事とつばめ宛の手紙を引き受けすぎるので仕事に支障が出そうだと。手紙はウルスラ殿が対象したが、肝心の仕事が減って無い」
「私は言われた通りにしただけですよ。ユリエル長官喜ぶから…ちょっともう1人の方が暴走気味で、仕事引き受けすぎな気もするけど、あの子何処まで断っていいかまだ分からないのよ」
「まぁ、お茶でも飲んで落ち着いて下さ…」
「カール殿、1人だけ安全だと思ったら大間違いだぞ?茶を入れる暇あるならつばめ様の仕事引き受けろよ!!そもそも、責任の擦りつけ合いなんて、なんて見苦しい真似してるんだ…恥を知れっ!?」
うわー。カール様まで…コレは凄まじくお怒りね。因みに罵声の被害に合わなかったのは黙って聞いていたロジャー副長だけ。流石は孫。
「せっっっかくつばめ様と仕事帰りにデート出来ると思って送迎の仕事を引き受けて楽しみにしてたのに。蓋を開けて見れば残業続きで時間も無く、あれ程言ったのに…終いには落ち込んで今にも泣きそうな顔で職場から戻って来られたんだぞっ!この甲斐性なし共め!!うかうかしてると私が攫ってやるからな!」
「はぁ?もう一回言ってくれる?」
「うぐっ」
「っ!!」
「くっ!?」
「?」
コンスタンティン様の魔力が一気に流れて心臓が破裂しそう…なんでこんな状況で平気そうにしてるの鈴木家2人。信じらんないわ。
「何度でも言ってやる。何時迄も放置しているなら、私がつばめ様を攫ってやる」
「此方にも都合があるんだ、暫く待ってくれる?」
「長寿種の『暫く』なんて誰が信用するか。悠長に待ってたら私の寿命が尽きるわ!そもそも、その都合とやらはつばめ様よりも大事なコトなのか?返答次第では私にも考えがある」
「つばめにも関係あるんだよ?実はね…」
コンスタンティン様が私の父親の話をすると納得していない顔だ。
「つばめ様を囮に?気は確かか?」
「本人が了承したんだ。私は極力手出ししたく無い。毎回私の力を頼られても困るよ?それにこれ以上つばめに嫌われたく無い」
「馬鹿者!神の養子にした時点で充分手出ししてるだろうが!?一旦手を出したなら中途半端にしないで最後まで責任を持てよっ!貴方達が『無色の家系』とやらを野放しにした結果の尻拭いにつばめ様を使うな!嫌われたく無いだ?寝言は寝て言え。つばめ様の安全の前では好感度やプライドなんて捨ててしまえ」
「お祖父様言い過ぎです。大祖母様じゃ無いんだから、流石にコンスタンティン様も傷ついてしまいますよ。お祖父様だってつばめ様に嫌われたらイヤでしょう?」
「…………そう…だな。すまない、言い過ぎた…しかし、私はつばめ様の平穏が手に入るなら代わりに危険を引き受ける。現行犯で捕まえたいなら好きに使えばいい!」
「わかった。じゃぁ、危険な役引き受けて?手続きはしとくから仕事は明日カール1日よろしく。奏は今後は仕事増やすの無しにして『瑞希』の帰りを早める。父親以外の小物も釣れたし、調べごとはもう程々でいいでしょ。根回しでもしてて。ユリエルはつばめの休み調整して。ロジャーは…いっか。後、鈴木には特大の囮役を用意するからよろしく。これでいい?」
「ええ、構いません」
鈴木さんの捨身の訴えのお陰で、難なくつばめさんの生活改善と、ついでと言わんばかりに私の父親捕獲作戦が暫くしてから遂行された。
細かい作戦内容を聞くと、私が1番の嫌われ役な気がしてならない。正体明かさなきゃいけないのね…コンスタンティン様曰くーー。
「そもそも、君が父親を早くどうにか出来なかったからだよ?鈴木と一緒につばめに嫌われればいい。とりあえずこの文字書いてつばめの机の上に置いて来て」
と、言われたセリフに八つ当たりが混じってる気がしたのはきっと気のせいじゃ無いと思うわ。何て理不尽なのかしら?
読めない文字を必死に真似て、これでいいかしら?後でつばめさんのデスクに置きに行きましょう。コレに何の意味があるか私にはさっぱりだけど、何だか更に嫌われる予感がするわ。
まぁ、私も王子様も手紙と仕事攻撃し過ぎた感はあるので、甘んじて嫌われる事にするわ。
でもなぁ…態度悪かったの王子の方なのよね。私はソフトに対応したけど、ほぼ素人に言っても仕方ないか……『奏』と『王子』の切り替えが上手く出来なかったのね。仕方ない。私の教えが悪かったわ…不甲斐ない自分の罰として、つばめさんに嫌われましょう。
そして、『巫女の家系』だけは敵に回さないと密かに心に誓うわ。オジ様紳士がキレると、神様をも動かせるのね。