178.5 名無し3
「だから言ったでしょ。働く気になった?」
「説明が足んないわよっ!冬美様の子どもを返して頂戴!!?」
「無理だよ?死んじゃったもん」
「!!!」
あぁ………私の所為で死んでしまった。あのとうもろこし頭に何て詫びれば…いや、どのツラ下げて会えばいいのよ。
「でも、君が陰でしてる任務ってそう言う事でしょ?不正したヤツら皆んな罠にハメて大量虐殺予定。その中に君の様に誰かの大切な人がいたかも知れない。あっちも馬鹿じゃ無いんだから、ヤル前にヤリ返される事もあるよ」
「あぁ…神様…私どうすれば…」
「神様業は無慈悲で通してるから、コンスタンティンって呼んでくれる?長い話しになるし、とりあえずお茶でも飲みながら話そう。カール」
「はい、ただ今準備いたします」
「先に言うけど、今回粛清対象だった人達は国外で一応生きてるから安心してね?」
「それを早く言ってくださいよっ!!」
「だって、こうでもしないと君は話し聞いてくれなかったでしょ?」
「…………」
全く否定出来ない。そもそも一回仕事断ってるしね私。
「それじゃ、まずはカイザス国の成り立ち前の君のお家事情から始めるね」
マイペースな神様の話しはいきなり500年前以上に飛んだ…確かにコレは話が長くなるわね。
神聖帝国時代は『無色の家系』と呼ばれていた『聖女の家系』筋の者は、その家系の血筋に稀に産まれる『魔力に色が無い』男性が大変人気を誇っていみたいね。女性には何故か引き継がれないが、血が濃ければ能力を引き継いだ男児を産む事もある。
「魔力に色が無い?何それ???」
「人間で言う魔力の識別だね。無色だから恐ろしいよ?本人の魔力量関係無く相手が妊娠する。人族なのに、エルフ族との間に子どもが出来るんだよ。胎児が母体の高魔力に耐えられるかは別だけどね。昔の文献読むと1000人に1人はちゃんと産まれてるらしいよ」
文献があるって事は昔試した人がいるのか…恐ろしいわ。そして、その話しを聞いて嫌な予感がした。
「君だって魔力量だけで言ったらエルフ族並みでしょ?君のご先祖が『聖女の家系』の分家になった登録時に『人族』を選んだから種族鑑定で『人族』と表記はされるけど、君の血筋は少なからずエルフ族が入ってる。種族鑑定の表示を変えたいなら『人族無人種』もしくは唯の『エルフ族』が選択可能だよ」
エルフ族の血…………。
「そう言えば、君の本当の髪は何色なのかな?」
神様の問いかけに私は答える事が出来なかった。
数多の犠牲で成り立った私の血筋に寒気がした所為で……。
「まぁ、今は君の髪の話しはいいかな?それでね、人気の血筋だけどその分妬みも酷いし暗殺や毒殺が日常茶飯事だから独立したかったみたい。キッカケは法律で禁止されている『聖女召喚』の儀式を神聖帝国がやらかしたから、ついでに私も一緒に出て来たんだ。それが500年前の話ね」
そこからは振り出しに戻って『無色の家系』の内部事情。
殺される率が高いので男児が産まれると影武者が用意されるのは自然な流れだった。
主に血縁者で構成された影武者はいつしか『影』と呼ばれる様になり、無くてはならない存在になったのね。
そして、カイザス国独立後もそれは続き建国当初に初代カイザスと『影』の間である取り決めが秘密裏に行われた。
「もし、表の主導者カイザスが道を踏み外したら『影』が表に出て来るって話しだったよ。誓約書の原本私が預かったから確認する?寧ろ君に返していいかな?」
「頼むから、そのまま持ってて下さい」
「確認しなくていいの?」
「………何が書いてあるんですか?」
「見ればわかるよ。はいコレ」
テーブルの上に置かれた1枚の紙には『誓約書』と書かれた下に文章と更に下にサインと血判らしき物が押してあった。
ー
誓約書
無色の家系当主が間違った治世を行った場合、影が成り代わる者とする。
尚、その後の当主の家族の生死は影の好きにして良い。
又、この内容を秘匿するに当たり次代からは表向きは家名に『カイザス』を使うものとする。
無色の家系当主 橘カイザス
無色の家系影 橘カイザス
立ち会い人 コンスタンティン
ー
誓約書の文章を読んで血の気が無くなるのを感じたわ。
「誓約書を書いたのはお互いの信頼と結束の為だって本人達言ってたけど、色々理由はあるかな?何故か今は歪みに歪んで、周りも巻き込んで表の当主と裏の影が主に頭脳戦で互いに殺し合いしてるんだよね。君、止めてくれないかな?」
その言葉を聞いて更に血の気が引いたのはしょうがないと思うのよね。
私は落ち着くために大分ぬるくなった紅茶をひと口飲んだ。