178.5 名無し2
「あなたはだぁれ?」
「俺は『瑞希』。君は何て名前?」
「知らない人に名前教えちゃいけないの」
「俺の名前は名乗っただろ。知らない人じゃない」
「ダメ」
第3王子は夏美より更に警戒心が強かった。いい教育してるわね…流石冬美様。
「もしかして、父上?」
「それは無い」
推定歳の離れた腹違いの弟に、父親と間違われる私って。
見た目は20歳で止まってる筈なんだけど………まぁ、そうよね。20歳代なら父親の年齢でもアリよね。嫌だわー。
「せめて『お兄ちゃん』位にして欲しいわ…」
「アニキ!」
「もう、好きに呼んで…」
父親と間違われてショックを受けていると、若干素が出たわ。お子さまに話しが通じない時があるのは夏美の時に既に経験済みよ。
お友達にはなれなかったけれど、師弟関係には何とかなれたわ…ガードが固すぎて、時間は若干かかったけれど。
悩みを打ち明けられる位には仲良くなったからいいかしら?
「アニキ…俺顔の印象薄すぎて名前覚えて貰えなくてさ。この間同じヤツに名前3回も聞かれた」
「んー…髪染めたら?」
スッピンの私も似たような顔なのよね。この顔は家系だと思って諦めた方がいいわ。
色々な所に潜入するには特徴の無い顔の方が任務をこなす上で都合がいいけれど、個性を出したいなら確かに困る顔付きよね。
因みに、化粧をしてない弟(身体は女)の方が男前。
最近は薄化粧しかして無いのに、何であんなにいい男なのかしら…あれか、彼女が居るからか?イケメン滅べ。
王子はメイクを施すよりも、髪を染める位の方が怪しまれなくていいわね…流石にお化粧始めたら誰が入れ知恵したか探りが入るわ。
後日、黄色い髪で更に細かなパーマを入れて来た時は笑いを堪えるのに腹筋を総動員したわ。
髪を染めるのを薦めた私が爆笑しちゃダメよ…たとえトウモロコシみたいな頭でも絶対ダメよ。
家族には似合わないと言われたらしいが、本人は気に入っているみたいなので良しとしましょう。会ったことある人に「はじめまして」と言われなくなったと喜んでいたし。
表面上は平和な世の中だが、王宮内はドロドロしていたある日の事。いつもの何気ない日常が、急に崩れ去った。
神様の訪れと共に。
「君が『影』?やっと見つけたよ。今まで何処に隠れてたかな。まぁ、いいや…私の家に無断滞在した分位は仕事してくれるかな?」
「断るわ」
「いいの?このままだと君の大事な人達が死んじゃうかもよ」
「断るわ。本当の王家の血筋は残るはずよ。でも、無断であなた様の住まいに滞在した事は謝るわ…」
私の任務は育ての親の指示で王宮の色んな所に潜り込んで、不正などの証拠を揃える事。そして、悪事に手を染めていたのは自称王家の血縁者達だ。私には痛くも痒くも無いわ。
確かに、寮の手続きも取らずに王宮内で寝泊まりしてた事はいけない事よね。すいません神様、許して下さい。
「ふーん?忠告はしたから気が変わったら言ってね。無断滞在分は後日罰金で支払ってもらおうかな」
次の日、神様から与えられた仕事をこなさなかった私は死ぬ程後悔した。
大量の文官や自称王家が捕縛され次の日には刑が執行された。
その中には推定腹違いの妹…冬美様の長女の名前が載っていた。
「何でっ!!!!?何であの子が殺されたのよ!」
「罪人だからだ」
「アンタ、直系王族は残るって言ってたじゃ無いのっ!!!」
刑が執行された日、育ての親に詰め寄るととんでもない事をほざいた。
「粛清が発動すると、表と影が入れ替わる。私の息子のお前が次の当主だ」
「!?」
かなり何を言ってるかわからないけど、どう言う事よ?
そもそも育ての親だと思っていたのが本当の父親だった…………訳がわからないわ。
私は『父親』と名乗った男を殴って神様の元に走った。一体この国で何が起こっているの?